Yahoo!ニュース

【深読み「鎌倉殿の13人」】菅田将暉さん演じる源義経は、本当に無邪気なサイコパスだったのか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、菅田将暉さん演じる源義経が無邪気なサイコパスだったと話題である。では、実際の義経はどんな性格だったのか、その点を詳しく掘り下げてみよう。

■大河ドラマのなかの源義経

 大河ドラマのなかの源義経は、無邪気なサイコパスとして描かれている。場の雰囲気を読めず、欲求すら抑えられない。言いたい放題のやりたい放題で、普通ならば周囲の人は煙たがるはずである。

 サイコパスとは、感情の一部が欠如している精神疾患の一つである。 他者への「愛情」「思いやり」などの感情が欠けているため、自己中心的であるという。 また、倫理観や道徳観念のほか、恐怖などの感情も乏しいといわれている。

 では、実際の義経はどんな人物だったのだろうか。

■歴史上の人物の性格

 歴史上の人物(特に、平安・鎌倉時代)の性格なりは、詳しくわかるのだろうか。実は、結論を先に言えば、わからないのである。以下、その理由を述べることにしよう。

 歴史研究は、一次史料(同時代の日記、古文書)を根本に据えて行う。しかし、一次史料に歴史上の人物の性格なりを詳しく書いた例は、ほとんど見られない。強いていうならば、文面からうかがえる程度である。

 しかし、それとて性格の一端をあらわしているにすぎず、すべてではない。たとえば、同盟相手が裏切った場合は怒るだろうが、それにより「怒りっぽい」と結論付けるわけにはいかない。

 歴史上の人物の性格なりをもっとも詳しく書いているのは、二次史料(軍記物語など)である。軍記物語などの文学作品では、話をおもしろくするため、それぞれの人物像を極端に描くことがある。

 『平家物語』における平清盛や子の宗盛は、ともに人間的には悪しざまに描かれている。なので、「そんなに酷い人間だったのか」と思うが、実際のところはわからないのである。

■わからない義経の性格

 義経の性格や人物像は、やはり二次史料でしかわからない。兄の頼朝が挙兵した際、奥州にいた義経は藤原秀衡の反対を押し切って東国に向かった。実に兄思いである。

 一方、平家追討の際の義経は、軍奉行の梶原景時とたびたび対立し、自らの意見を押し通した。つまり、他人の意見に耳を貸さず、強引な性格に描かれている。その結果、義経は身勝手な行為が多いと、景時に讒言された。

 そして、頼朝の「無断で官位を朝廷から授かってはならない」という禁を犯し、不興を蒙った。まさしく「空気が読めない(弟だから大丈夫という油断)」があったように思える。

 このような義経の人物像や性格は、二次史料に書かれたものであり、やや極端である。こうした情報から得られる義経については、いささか配慮が足りず、慎重さに欠ける人間のように思える。それが、今の大河ドラマに採用され、さらに極端に描いたのだろう。

■むすび

 菅田将暉さん演じる源義経は、かなり極端な人物像である。もう視聴者は、気付いているだろう。実際に義経があんな人物だったら、頼朝は初対面でぶった切っていると思う。いくら兄弟とはいえ、初対面で失礼にもほどがある。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

渡邊大門の最近の記事