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【戦国こぼれ話】どの俳優が織田信長を演じるのがふさわしいのかという難題を考えてみよう

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
どの俳優がもっとも織田信長にふさわしいのだろうか?(提供:アフロ)

 先日、「NHK大河ドラマで、織田信長を演じた俳優の中であなたが一番好きなのは?」という興味深いネット記事を拝見した。こちら。非常に興味深い問題なので、私なりに考えてみよう。

■「織田信長を演じた俳優」ランキング

 「ねとらぼ」の記事によると、「織田信長を演じた俳優」のランキングは、次のとおりである。

○高橋幸治(「太閤記」1965年、「黄金の日日」1978年)

○緒形直人(「信長 KING OF ZIPANGU」1992年)

○染谷将太(「麒麟がくる」2020年)

 どなたが演じた信長もすばらしい演技で、甲乙つけがたいところである。もちろん、これ以外にもNHK大河ドラマで信長を演じた俳優はいるし、NHK大河ドラマ以外で演じた俳優もいるだろう。

■信長の性格とは?

 ただ、もっとも問題となるのは、信長がどういう人間だったのかということである。

 一次史料は、もちろん信長の性格を記したものが皆無に等しい。二次史料のなかで比較的信頼が置けるのは、フロイス『日本史』になろう。

 『日本史』には、信長の姿がどのように書かれているのだろうか。以下、もっとも重要なものを示しておこう。

 彼(信長)は中くらいの背丈で、華奢な体躯であり、髭は少なくはなはだ声は快調で、極度に戦を好み、軍事的修練にいそしみ、名誉心に富み、正義においては厳格であった。

 彼は自らに加えられた侮辱に対しては懲罰せずにはおかなかった。幾つかのことでは人情味と慈愛を示した。

 彼の睡眠時間は短く早朝に起床した。貧欲でなく、はなはだ決断を秘め、戦術にきわめて老練で、非常に性急であり、激昂はするが、平素はそうでもなかった。

 彼はわずかしか、またはほとんどまったく家臣の忠言に従わず、一同からきわめて畏敬されていた。酒を飲まず、食を節し、人の取扱いにはきわめて率直で、自らの見解に尊大であった。

 彼は自宅においてきわめて清潔であり、自己のあらゆることをすこぶる丹念に仕上げ、対談の際、遷延することや、だらだらした前置きを嫌い、ごく卑賤の家来とも親しく話をした。(中略)

 彼は少しく憂鬱な面影を有し、困難な企てに着手するに当たってははなはだ大胆不敵で、万事において人々は彼の言葉に服従した。

 この国主(信長)がいかに異常な仕方、また驚くべき用意をもって家臣に奉仕され畏敬されているかという点でありました。

 すなわち、彼が手でちょっと合図をするだけでも、彼らはきわめて凶暴な獅子の前から逃れるように、重なり合うようにしてただちに消え去りました。

 そして彼が内から一人を呼んだだけでも、外で百名がきわめて抑揚のある声で返事しました。

 彼の一報告を伝達する者は、それが徒歩によるものであれ、馬であれ、飛ぶか火花が散るかのように行かねばならぬと言って差し支えがありません。

 都では大いに評価される公方様の最大の寵臣のような殿も、信長と語る際には、顔を地につけて行うのであり、彼の前で眼を上げる者は誰もおりません。

 彼と語ることを望む、政庁になんらか用件のある者は、彼が城から出て宮殿に下りて来るのを途上で待ち受けるのです。

■私の理想的な俳優

 この記述を見る限り、信長という人物は実に複雑な性格を有していたのが明らかである。この時代、上記したような性格の俳優は、ほとんど思い浮かばない。しかし、故人ではあるが、私は次の二人を挙げておきたい。

○隆大介(1957年~2021年)

 映画「影武者」(1980年)での信長役は、はまり役だった。主役を務めた仲代達也に決して見劣りしなかった。私にとっては、もっとも理想的な信長である。しかし、晩年は問題行動が多く、恵まれなかった。この辺りの姿も信長と重なる。

○三船敏郎(1920年~1997年)

 残念ながら、信長を演じたことはないようだ。あれだけの時代劇のキャリアがありながら、誠に不思議な話である。しかしながら、あの豪快な人柄とたしかな演技力からすれば、信長を演じるのにふさわしい人物だったと思う。

 とはいえ、それらはあくまで私の理想であって、現実の信長ではない。皆さんも、誰が信長役にふさわしいのか考えてみませんか。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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