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『らんまん』妻・寿恵子(浜辺美波)の「ギャップと落差」の魅力

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

NHK連続テレビ小説『らんまん』。

植物学者としての未来が閉ざされそうで、万太郎(神木隆之介)と田邊教授(要潤)の関係にハラハラする一週間でした。

そんな中、救いとなっているのが、晴れて万太郎の妻となった寿恵子(浜辺美波)の存在でしょう。

苦労することが分かっていながら、万太郎と共に「冒険の旅」に出た寿恵子。

その思いきりの良さに感心しながら、浜辺さんの初主演作を思い出しました。

女子高生雀士の勝負勘

2016年に放送された『咲―Saki―』(毎日放送制作、TBS系)は、小林立さんの麻雀漫画が原作の連続ドラマです。

主人公の宮永咲(浜辺)は、一見ごく普通のおとなしい女子高生ですが、麻雀では誰にも負けない天才的な勝負勘と強運を発揮する女の子でした。

高校の麻雀部に入り、それぞれ個性的な仲間たちと県大会、そして全国を目指すことになります。

見どころの一つは、「四暗刻(スーアンコウ)」「嶺上開花(リンシャンカイホウ)」といった役が飛び出す、麻雀の対戦場面です。

麻雀を知っている人はもちろん、知らない人でもつい見入ってしまう、緊迫感と高揚感がありました。

しかも雀士はセーラー服の女子高生。多くの人が、このギャップにハマりました。

次に見るべき点は、麻雀という勝負を描くこのドラマが、出演者たちにとっても「勝負の場」になっていたことです。

浜辺さんは、「東宝シンデレラ」ニュージェネレーション賞の受賞者。

麻雀部員には、「SUPER☆GiRLS」のメンバーだった浅川梨奈さん。

「私立恵比寿中学」にいた廣田あいかさん。

そして元「ニコラ」専属モデルの古畑星夏さんなどがいました。

当時は皆、ライバル関係にあるメンバーです。

また他校の麻雀部にも、人気モデルの武田玲奈さんや、バラエティーでもよく見かけた山地まりさん。

さらにAKB48の元メンバーである永尾まりやさんなどが控えていました。実に、にぎやかだったのです。

女子高生たちが雀卓を囲む、異色の麻雀ドラマというだけでなく、4校20人の女子たちが競い合う、華やかなサバイバルゲームでもありました。

ギャップと落差

初主演作『咲―Saki―』から7年。

その後の『アリバイ崩し承ります』(テレビ朝日系)の探偵役や、『ウチの娘は、彼氏が出来ない‼』(日本テレビ系)での大学生なども、どこか「実は…」という「ギャップと落差」の特徴を持っていました。

そして今、万太郎はもちろん、誰をも和ませてしまうのが寿恵子の笑顔です。

一方で、寿恵子の中には、ここぞという時の思い切りの良さと勝負勘が潜んでいる。

今後、ギャップと落差という魅力に、ますます拍車がかかっていくはずです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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