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【ドラマ10年館】10年前、2014年4月のドラマは「ハードボイルド」だった

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

「十年一昔(じゅうねんひとむかし)」という言葉があるように、10年は一つの区切りとなる時間です。

短いようでいて、それなりに長い10年。忘れていることも、ずいぶん多いのではないでしょうか。

たとえば、10年前の今月、どんなドラマをやっていたのか。【ドラマ10年館】と名づけたコラムで、印象に残る作品を振り返ってみたいと思います。

『MOZU~百舌(もず)の叫ぶ夜~』

優れた海外ドラマのような骨格

『MOZU~百舌の叫ぶ夜~』の3人(番組サイトより)
『MOZU~百舌の叫ぶ夜~』の3人(番組サイトより)

2014年の春ドラマで、「真打ち登場!」といった感がありました。『MOZU~百舌の叫ぶ夜~』(TBS系)です。

12年の『ダブルフェイス』と同様、WOWOWとの共同制作でした。

東京の銀座界隈で爆発が起きます。テロの可能性が高い。爆弾所持者と思われる男(田中要次)と、現場に居合わせたという公安の女性刑事(真木よう子)の関係は不明です。

また犠牲者の中に、元公安で現在は主婦の千尋(石田ゆり子)がいました。彼女の夫は公安部特務第一課の倉木(西島秀俊)です。

妻の死の謎を解こうとして動き出す倉木。捜査一課の大杉(香川照之)も独自の捜査を進めていきます。

テロ組織vs.警察、刑事部vs.公安部、西島vs.香川などいくつもの対立軸があるのですが、それをさばく脚本(仁志光佑)と演出(羽住英一郎)の手際がよく、飽きさせません。

『ダブルフェイス』もそうでしたが、優れた海外ドラマのようなしっかりした骨格を、俳優たちが見事に体現化していました。

さらに繁華街の爆発現場、けが人が収容される病院なども、予算と人員をしっかりと投入しており、手抜きがありません。

たとえば、感心したのは、捜査本部となった大会議室の片隅に水とコーヒーのサーバーが置かれていたことです。しかも、残量がわずかで使用感があるのです。

ほんの一瞬しか映らないし、アップになるわけでもありません。しかし、こうした細部こそがドラマのリアリティーを下支えしていることを、制作陣は熟知していたのです。

『ロング・グッドバイ』

日本にマーロウを現出させる素敵な“暴挙”

『ロング・グッドバイ』の探偵(番組サイトより)
『ロング・グッドバイ』の探偵(番組サイトより)

2014年4月のNHK土曜ドラマは、浅野忠信主演の『ロング・グッドバイ』。

よもや「原作=レイモンド・チャンドラー」の文字を、日本のドラマで見られるとは思いませんでした。

一見、無国籍な街のたたずまい。丸みを帯びたデザインのクルマ。ずっしりと重そうなダイヤル式電話機。三つ揃えに帽子の男たち。

そして、誰もが当たり前のように燻(くゆ)らすタバコの煙。この雰囲気、オトナの男なら、思わず「うーん、いいねえ」と唸ってしまいそうです。

ドラマの中では細かい説明がないので、「ここはどこ?」「時代はいつ?」と思うかもしれません。

原作のハードボイルド小説『長いお別れ』が、米国で刊行されたのは1953(昭和28)年でした。

敗戦からの復興を経て、日本でテレビ放送が始まったこの頃が舞台らしいと推測します。

ドラマの中にも「新聞社や出版社を複数抱え、テレビ局までつくった」という大物実業家(柄本明)が登場。私立探偵の浅野が対峙していくことになる、巨魁ともいうべき人物です。

初回では、女優のヒモのような男(綾野剛)と浅野の奇妙な友情が描かれました。やがて綾野は殺されてしまうのですが、それぞれの生き方や2人の微妙な距離感にも、どこか原作の雰囲気が漂っています。

演出は『ハゲタカ』『外事警察』などの堀切園健太郎。音楽はその盟友で、『あまちゃん』の大友良英。

日本にフィリップ・マーロウを現出させようという、素敵な“暴挙”に拍手でした。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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