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『あまちゃん』春子(小泉今日子)が歌う『潮騒のメモリー』に埋め込まれた「1970~80年代」

碓井広義メディア文化評論家
春子役の小泉今日子さん(『あまちゃん』第43回より、筆者撮影)

NHKBSプレミアムとBS4Kで再放送中の、連続テレビ小説(朝ドラ)『あまちゃん』。

このドラマでは、劇中で1980年代の音楽が流され、当時のアーティストたちの姿が映され、また常に話題となります。

松田聖子、中森明菜、チェッカーズ、吉川晃司などです。

特に、劇中歌『潮騒のメモリー』の歌詞には、70~80年代のアイコンがいくつも埋め込まれています。

先週末の第42回で、ついにアキ(能年玲奈、現在はのん)の母・春子(小泉今日子)が、この曲を歌いました。

『潮騒のメモリー』の1番には・・・

『潮騒のメモリー』

作詞:宮藤官九郎 

作曲:大友良英・Sachiko M

来てよ その火を 飛び越えて 

砂に書いた アイ ミス ユー

北へ帰るの 誰にも会わずに 

低気圧に乗って 北へ向かうわ

彼に伝えて 今でも好きだと

ジョニーに伝えて 千円返して

潮騒のメモリー 17才は 

寄せては返す 波のように 激しく

来てよ その火を 飛び越えて

砂に書いた アイ ミス ユー

来てよ タクシー捕まえて 

波打ち際の マーメイド 

早生まれの マーメイド

冒頭の「来てよ その火を 飛び越えて」では、三島由紀夫の小説を原作とする映画『潮騒』が思い浮かびますが、ここは山口百恵主演の74年版でしょうか。

「北へ帰るの 誰にも会わずに」は、石川さゆり『津軽海峡冬景色』(作詞:阿久悠、作曲:三木たかし、77年)の「北へ帰る人の群は誰も無口で」を連想させます。

「彼に伝えて 今でも好きだと」は、チェッカーズ『涙のリクエスト』(作詞:売野雅勇、作曲:芹澤廣明、84年)のフレーズ「あの子に伝えて まだ好きだよと」。

さらに「ジョニーに伝えて 千円返して」には、ペドロ&カプリシャスの名曲『ジョニーへの伝言』(作詞:阿久悠、作曲:都倉俊一、73年)が重ねられています。

「潮騒のメモリー 17才は」の部分は、南沙織の歌手デビュー・シングル『17才』(作詞:有馬三恵子、作曲:筒美京平、71年)。

そして、「波打ち際の マーメイド」のマーメイド(人魚)は、小泉今日子さんのヒット曲『渚のハイカラ人魚』(作詞:康珍化、作曲:馬飼野康二、84年)への明らかなオマージュです。

『潮騒のメモリー』の2番にも・・・

そして今週明けの第43回、春子は『潮騒のメモリー』の2番を歌ったのです。

置いていくのね さよならも言わずに 

再び会うための 約束もしないで

北へ行くのね ここも北なのに 

寒さこらえて 波止場で待つわ

潮騒のメモリー 私はギター 

Aマイナーの アルペジオ 優しく

来てよ その火を 飛び越えて 

夜空に書いた アイム ソーリー

来てよ その川 乗り越えて 

三途の川の マーメイド

友だち少ない マーメイド 

マーメイド 好きよ 嫌いよ

「置いていくのね さよならも言わずに 再び会うための 約束もしないで」という部分。

薬師丸ひろ子(後にこのドラマにも登場)『セーラー服と機関銃』(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、81年)の「さよならは別れの言葉じゃなくて 再び逢うまでの遠い約束」と見事に呼応しています。

「寒さこらえて」は、都はるみ『北の宿から』(作詞: 阿久悠、・作曲:小林亜星、75年)の「着てはもらえぬセーターを、寒さこらえて編んでます」。

「私はギター」は、高田みづえ『私はピアノ』(作詞・作曲:桑田佳祐、80年)を思わせます。

最後の「マーメイド 好きよ 嫌いよ」のところ。

こちらは、松田聖子『小麦色のマーメイド』(作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂、82年)の「私、裸足のマーメイド 小麦色なの 好きよ きらいよ」がベースとなっているはずです。

70~80年代カルチャーがちりばめられた『潮騒のメモリー』。

「北へ行くのね ここも北なのに」のユーモア。

作詞の宮藤官九郎さんに拍手です。

それをアイドル界のレジェンドである小泉今日子さんが、「かつてアイドルを目指して挫折した40代女性」の役柄として歌う。

やはりこのドラマの設定、ただ事ではありません。

今回は、ざっと気がついたものを挙げましたが、他にもあると思います。

今後も何度か登場する曲ですので、ぜひ楽しんで探してみてください。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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