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2月1日は「テレビ70歳」の誕生日!

碓井広義メディア文化評論家
懐かしのブラウン管テレビ

2月1日は、テレビの「誕生日」

1953年(昭和28年)2月1日にNHK東京テレビジョンが、8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始しました。

今年は「テレビ放送開始70年」という記念の年にあたります。

そして2月1日は、テレビにとって古希(こき)の「誕生日」。

70歳といっても、200年の歴史を持つ写真や、130年になる映画に比べたら、まだまだ若い(笑)。

草創期のテレビ

開始当時は、VTRという映像記録装置はまだありませんでしたから、ドラマも含むほとんどの番組が生放送でした。

とはいえ、現在のように深夜も含めてほぼ一日中放送があったわけではありません。

当初は昼頃と夕方から夜9時までという短時間の放送でした。

この年、NHKの受信契約数は866件。当時日本に存在したテレビ受像機の台数とほぼ同数といわれています。

ほとんどがアメリカからの輸入品で、価格は約25万円。

大卒の初任給が1万5千円前後の時代ですから、現在に換算すれば300万円を超す高額商品でした。

また、注目すべきことがあります。

放送開始時点で、NHKは視聴者から受信料を受け取る「有料放送」でした。

そして日本テレビは、スポンサーのCMを入れての「広告放送=無料放送」だったのです。

つまり現在に至るまで、テレビの基本的な「ビジネスモデル」は変わっていません。

特に民放の場合、テレビは新たな「広告媒体」に他ならなかったことは再認識すべきでしょう。

激変したテレビ状況

70年が過ぎて、テレビの状況は激変しました。

大きな影響を与えたのは、1995年~2000年代にかけて普及し、やがて完全にインフラ化したインターネットの存在です。

かつてのテレビ放送のシステムは・・・

コンテンツ=番組

受信=テレビ

経路=電波

それが現在は・・・

コンテンツ=番組

受信=テレビ・携帯電話・パソコン・タブレット

経路=電波・ケーブルテレビ・インターネット

受信装置の多様化によって、テレビの広告媒体としての価値を支えてきた「視聴率」も、以前と同じ「尺度」ではなくなってきました。

2022年4月11日、在京在阪民放テレビ局10社は、民放キー局などで運営する配信サイト「TVer(ティーバー)」で、ゴールデン帯を中心に同時配信をスタートさせました。

遅すぎる取り組みではありましたが、その意義は小さくありません。

現在は「ネットでも見られるテレビ」ですが、やがて逆転して「電波でも見られるテレビ」といわれるようになりそうだからです。

「番組」の重要性

しかし、受信装置や流通経路がどれだけ変わっても、変わらないものがあります。番組というコンテンツです。

その重要性は変わらないどころか、むしろ高まっていくはずです。

たとえば、昨年放送されたドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」(カンテレ制作・フジテレビ系)は、ドラマ自体の既成概念を超える意欲作でした。

そこには1人の制作者の強い思いがありました。

たとえ使用する装置や経路が異なっていようと、見る側は敏感に反応したのです。

どんな番組を作るのか。

どんな番組が作りたいのか。

70年を経たテレビの生命線は、今もそこにあります。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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