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元プラモ少年たちも揺さぶる、与田祐希主演『量産型リコ-プラモ女子の人生組み立て記-』

碓井広義メディア文化評論家
ヒロインの璃子を演じる与田祐希さん(番組サイトより)

やるなあ、テレビ東京。

バッティングセンターやポッドキャストなどを、巧みにドラマに取り込んできた深夜枠で、今度はプラモデルだ。

6月30日の深夜に始まった、木ドラ24『量産型リコ-プラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系)です。

「量産型」と呼ばれて

主人公は、イベント企画会社に勤務する小向璃子(乃木坂46・与田祐希)。

「仕事頑張ります!」とか、「プライベート命!」とか、どこかに力が入ったタイプじゃない。

自分なりに楽しく暮らしていられたらOKみたいな、ごく普通の女性です。

しかし、口の悪い同期の浅井(前田旺志郎)に言わせると……

「目立たないように仕事して、決まった金もらって、ランチを楽しみにして、誰も見ていないのにSNSに上げてる」璃子は、「量産型」なのだそうだ。

没個性の平均的人間、つまり「量産型リコ」ってことだろうか。

そんな璃子が、消えかけている個人商店を応援する、「まぼろし商店フェスティバル」という企画を手伝うことになります。

子どもの頃、おもちゃ屋さんが好きだったことを思い出し、会社の帰りに偶然見つけた店に入っていく。

それが「ホビーショップ 矢島模型店」との出会いでした。

ここの店主、矢島(田中要次)という存在が素晴らしい。プラモ愛の権化みたいな人なのだ。

初プラモは「量産型ザク」

しかも、たまたま璃子の目に止まったプラモが、アニメ『機動戦士ガンダム』の「量産型ザク」である。

ジオン公国軍が持つ、有人操縦式の人型機動兵器。主力量産型のザクだ。

量産型ゆえに、個性はない。モブ(その他大勢)的なキャラであり、戦闘以外の一般作業でも使われる。

矢島に言わせれば、「特徴的で強いモビルスーツたちの引き立て役」です。

しかし、ザクたち量産型が大量に登場したことで、「一般兵が戦っていた」というリアリティを感じさせる演出がなされました。

また、量産型は陸戦用、水中用とバリエーションが多彩で、見る側の想像も膨らんでいった。

「量産型ならではの魅力が、今でもユーザーを熱狂させてるんだ」と矢島。

この「量産型ならではの魅力」という言葉にピン!と反応する璃子。

人生初のプラモ作りは、この1/144スケールの「量産型ザク」に決定だ。

組み立てシーンは細かなカットを重ね、丁寧に撮られており、プラモを組み立てるときのワクワク感がそこにあります。

何より組み上がっていくザク、そして完成したザクが魅力的なのが嬉しい。

また、地上波連ドラ初主演の与田さん。その自然体の演技にも拍手です。作業が進行し、没入していく璃子の表情が美しい。

この初のプラモ体験によって、「私だけの量産型ザク」を手にした璃子が、これからどう変っていくのか、楽しみだ。

元プラモ少年たちも

現在、プラモファンやプラモマニアはたくさんいらっしゃる。

だが、男性に限って言えば、「少年時代にやってたなあ」と懐かしく思う人、少なくないはずです。

いつの間にか遠ざかってしまったけれど、楽しかった記憶は残っている。

こんなドラマを見ちゃったら、仕事帰りにホビーショップとかに立ち寄ってみたくなること必至。

ちなみに次回、璃子が挑むプラモはクルマで、「ニッサンGTR」です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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