Yahoo!ニュース

三谷幸喜流「歴史のミカタ」と「超訳」が踊る『鎌倉殿の13人』

碓井広義メディア文化評論家
小栗旬さん演じる北条義時(NHK WEBサイトより)

鎌倉幕府の二代目執権である北条義時を、小栗旬さんが演じている、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。

脚本を担当する、三谷幸喜さんにとっては3回目の登板となる大河です。

香取慎吾さんが近藤勇を演じた『新選組!』(2004年)の時代背景は幕末。

堺雅人さんが真田幸村となった『真田丸』(16年)は戦国時代末期でした。

しかし、今回描かれるのは平安末期から鎌倉前期になります。戦国や幕末のように、なじみのある時代とは言えません。

また、有名な源頼朝や義経はともかく、「北条義時って何者?」と思う人も少なくなかったはず。その点も、これまでの三谷作品とは異なります。

なじみの薄い時代の、よく知らない人物たち。三谷脚本は、それを逆手にとる形で想像力を発揮しています。

三谷流「超訳」

狙いは、大河らしい重厚さと、三谷さんらしいユーモアの融合。

義時(小栗旬)をはじめとする登場人物たちが、それぞれ独特の“おかしみ”を持っています。

たとえば、父の時政(坂東彌十郎)は突然の再婚宣言。家族から真意を問われると、「さみしかったんだよ~」とすねていました。

そうそう、義時の妹・実衣(宮澤エマ)が、「姉(政子)は(頼朝に)ゾッコンよ」なんて言っちゃうセリフもありました。

大胆な現代語訳というか、三谷流の「超訳」ですが、三谷大河では不思議ではありません。

さらに、平家を憎むあまり暴走気味の兄・宗時(片岡愛之助)。流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタックした姉・政子(小池栄子)。

義時にすれば、どちらも危なっかしくて仕方ない。

北条家の平安を守るため、家族をなだめたり、すかしたりしながら、彼らの無理難題に対応していく義時。

この優れた「調整能力」が、後の執権という地位につながるのではないでしょうか。

いわば「頼朝騒動」ともいうべき事態に巻き込まれていく主人公を、小栗さんが過去に出演した大河以上の軽妙さで演じています。

頼朝役の大泉さんからも目が離せません。

三谷さんが造形する頼朝は一筋縄ではいかない人物です。何より本音がどこにあるのか、よく見えません。

その挙兵も、自らの意思なのか、坂東武士たちから“お御輿(みこし)”として担がれた結果なのか、判然としないのです。

穏健で優柔不断かと思うと、非道な選択も残酷さも見せる。しかも、結構な女好き。

その硬軟入り混じるキャラクターが、大泉さんによく似合っています。

三谷流「歴史のミカタ」

歴史学者の磯田道史さんが、井上章一さんとの対談本『歴史のミカタ』(祥伝社)で語ったところによれば、歴史は史実の集合体ではありません。

歴史の正体とは「物のミカタ」です。過去のどの部分を、どのように見るかであり、歴史のミカタは人それぞれなのです。

しかも、樋口州男ほか編著の『「吾妻鏡」でたどる北条義時の生涯』(小径社)などを読むと、義時について、頼朝挙兵以前の史料は伝わっていないのだそうです。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、三谷さんが面白いと思う、時代と人物の「ミカタ」と「超訳」を、笑いながら愉しむのが一番かもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事