30年前、樹木希林さんは俳優仲間との座談会で、こんなことを言っていました。

「女優になるっていうのは自分の存在そのものが魅力的だと思いこんでいいはずでしょ。でも、そこのところへは私は絶対にいけないんですよ。(中略)

だから演技をするのよ。これで、もしわたしがそこそこ器量がよかったら自分に酔ってしまって、きっと仕事なんてこなかったと思うもの」(草野大悟・著『俳優論』)

脇役としての「覚悟」と「プライド」を感じさせる言葉です。

「埋没」せず、「悪目立ち」もしない

そんな若き日の希林さんを継承する、テレビドラマの「名バイプレーヤー女優」。

前回の江口のりこさんに続いて、順不同で挙げたいのが、市川実日子(いちかわ みかこ)さんです。

ただし、上記の希林さんの言葉を受けるなら、市川さんは器量よしです。

そして、この女優さんには、なぜかリケジョ(理系女子)がよく似合う。

映画『シン・ゴジラ』(16年)では、ゴジラの生態を探る、環境省課長補佐・尾頭ヒロミを演じていました。

冷静沈着で無表情。しかもその情報処理能力と解析力は抜群です。

また、野木亜紀子脚本『アンナチュラル』(TBS系、18年)では、法医学者の三澄(みすみ)ミコト(石原さとみ)と一緒に働く臨床検査技師、東海林(しょうじ)夕子。

プライベート優先で合コンの常連ですが、仕事は着実でミコトの信頼も厚いものがありました。

どちらの作品でも、市川さんは主人公をサポートするメンバーの一人です。

しかし、チームに溶け込みながらも、決して埋没していない。

それでいて、「私はここにいますよ!」といった悪目立ちもしない。その絶妙なバランスのうえで、静かに自らを主張するのです。

難役だった『大豆田』

最近では、『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ系、21年)で演じた、主人公の親友「綿来(わたらい)かごめ」が出色でした。

大豆田という珍しい名字のヒロイン・とわ子(松たか子)と、彼女の元夫で平凡な名字の田中(松田龍平)、佐藤(角田晃広)、中村(岡田将生)。

この4人の「日常」と「微妙な関係」が淡々と描かれていきます。

ただし、ぼんやりと見ているわけにはいきません。なぜなら、一つのセリフも聞き漏らすことができないからです。

とわ子が、かごめに元夫との関係が「面倒くさい」と愚痴(ぐち)ります。すると、かごめはこう答えました。

「面倒くさいって気持ちは好きと嫌いの間にあって、どっちかっていうと好きに近い」 

また、かごめは男性からアプローチされた時も……

「恋愛が邪魔。女と男の関係がめんどくさいの。私の人生にはいらないの。そういう考えがね、寂しいことは知ってるよ。実際たまに寂しい。でもやっぱり、ただ、ただ、それが、私なんだよ」

坂元裕二さんが脚本を手掛けたこのドラマは、全体がまるでアフォリズム(警句・格言)を集めた一冊の本のようであり、鋭いセリフを語る、演者の力量が問われました。

さらに、とわ子の元夫の一人である田中(松田)が、かごめに秘めたる思いを寄せていたんですよね。

でも、かごめはそれを知りながら応じることはなかった。なぜなら、彼女が愛していたのは、とわ子だったから。

名バイプレーヤー女優「市川実日子」以外に、こんな難役を誰が演じられたでしょう。

究極の「親友」

思えば、『アンナチュラル』も、次の黒木華主演『凪のお暇(なぎのおいとま)』(TBS系、19年)も、そして『大豆田』でも、市川さんは「主人公の親友」でした。

どこか屈折していながら、一本筋が通った生き方をしている親友は、ヒロインたちの精神的な支えです。

そこには役柄を超えた、「市川実日子」という名バイプレーヤー女優に対する信頼感も見てとれるのです。

今後ですが、市川さんはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』に出演する予定です。ただし、すぐじゃありません。

上白石萌音さんが演じる初代ヒロインの後の大阪編で、深津絵里さんの2代目ヒロインにからむらしい。ガンガンからんで欲しいですね。その登場を楽しみに待つことにします。