新宿の紀伊國屋ホールで、劇団ラッパ屋の新作『コメンテーターズ』が上演されています。

物語の舞台はテレビのワイドショー。「現在進行形」のスリリングな芝居です。

元々は、昨年4月に行われるはずだったのですが、コロナ禍によって「上演中止」となった作品です。

しかし、脚本・演出の鈴木聡さんに直接聞いたところによれば、題名は同じでも、昨年4月に用意していた内容とは、ほぼ別物になったそうです。

おやじ系ユーチューバーの冒険

主人公は、定年後の再就職もままならない中、ふとしたきっかけでユーチューバーになっちゃった64歳のおっさん、横沢広志(おかやまはじめ)です。

おやじギャグと、おっさんの本音みたいなものがウケて、再生回数はうなぎ登り。

それに目をつけたのが、朝のワイドショー「おはコメ」こと「おはよう!コメンテーターズ」の女性プロデューサー(岩橋道子)でした。

彼女の上司であるワイドショー担当役員(俵木藤汰)のOKも出て、広志の出演が決まります。

「おはコメ」の生放送のスタジオには、タイトル通り、何人ものコメンテーターが並んでいます。

政権寄りの政治評論家(木村靖司)、反権力のジャーナリスト(宇納佑)、弁護士の経済評論家(谷川清美)など。

他に、歌手(北村岳子)やダンサー(黒須洋嗣)、さらに町のパン屋さん(伊藤直樹)まで、ズラリです。

そこに、フツーのおっさん、横沢広志が加わった。

「現在進行形」の芝居

物語の時間軸は、今年の5月下旬から7月初旬という設定。

つまり、今回の「緊急事態宣言」発出や、オリンピックの「無観客」開催などが決定される前まで。

ワイドショー「おはコメ」では、ほぼリアルタイムな感じで、「コロナ」と「オリンピック」の話題が展開されるわけです。

これは、かなりスリリングです。

それまで、「プロのコメンテーター」集団が、一定の調和を保ってきた番組に、新人の「素人コメンテーター」が投入されたため、全体のバランスが崩れていきます。

また、「コロナ」や「オリンピック」についても、予期せぬ「論」が飛び出すことになります。

そして、舞台の上とはいえ、いや、舞台だからこそ、「ワイドショー」なるものの本質や、「コメンテーター」なる人々の正体や、「メディアと社会」の危うい関係性が、どんどん明らかになっていく。

でも、そこはラッパ屋です。どんな重いテーマでも、明るさとユーモアを忘れません。

観客は、大いに笑って、そして少しほろっとしながら、ちゃんと<大事なもの>に触れていく。気づかされるのです。

1993年の『アロハ颱風』以来、約30年間、すべての舞台を観てきましたが、それはいつも変わりませんでした。

そのうえで、今回、一番の特色と言えるのは、ここまで世の中の「現実」を、ストレートに取り込んだ作品はなかったということです。

鈴木聡さんの言葉を借りれば、まさに「ジャスト・ナウ」。

「現在進行形」の芝居であり、観客と「いま」を共有したいという強い意志でしょうか。

現実のコロナも、オリンピックも、「なし崩し感」いっぱいであり、「わからないこと」だらけであり、厭世的になりそうな人も少なくないと思います。

そんな時だから、ラッパ屋の「喜劇」が、ラッパ屋的「人間喜劇」が、私たちには必要なのかもしれません。

ありがたいことに、その舞台を観終わったあと、小さな希望を持ち帰るというか、ちょっとだけ元気になっている。

演劇は「不要不急」か!?

思えば、スマホやSNSによって、生身の人間関係が希薄になってきたのは確かです。

しかし、「つながり孤独」という言葉が象徴するように、私たちには、どこかで生身の人間を感じたいという欲求があります。

コロナ禍の中で、演劇は「不要不急」のものとして扱われてきました。

ですが、劇場で見る演劇は、身近に現実の人間の存在を感じる、貴重な機会であることもまた確かなのです。

年に1度の「ラッパ屋」を観て、あらためて、そんなことを思いました。

ラッパ屋 第46回公演「コメンテーターズ」

2021年7月18日(日)~25日(日)

東京・新宿 紀伊國屋ホール

2021年7月31日(土) 14:00開演

北九州芸術劇場(北九州市小倉北区室町1丁目1-1-11)