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菅野美穂×浜辺美波『ウチカレ』が、裏技で描く「家族って何?」

碓井広義メディア文化評論家
「おだや」のたい焼きが食べたい!(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

10日放送の第5話で、「ずいぶん面白くなってきたなあ」と思わせてくれたのが、『ウチの娘は、彼氏が出来ない‼』(日本テレビ系)。ようやく、「裏テーマ」が見えてきたからです。

母の水無瀬碧(みなせみどり 44歳、菅野美穂)は「恋愛小説の女王」と呼ばれる作家。

娘の空(そら 20歳、浜辺美波)はコミック好きの、いわゆるオタク系大学生。

港区のタワマンで2人暮らしですが、微妙に浮世離れした「母娘」を演じる、菅野さんと浜辺さんが完全にハマっています。

これって「ラブコメ」?

しばらく恋愛から遠のいていた碧は、恋愛小説の新作が書けず困っていました。

でも、それ以上に恋愛経験のない娘のことが気になって仕方ない。娘のために、取って置きの「恋愛指南」を施したりして・・・。

碧の周辺にも、「恋愛へと発展するのかな」という男性はいるのです。

近所でたい焼き屋「おだや」を営む、幼なじみの「ゴンちゃん」こと小田欣次(沢村一樹)。

そして、仕事がらみとはいえ、担当編集者の橘漱石(川上洋平)とも悪くない雰囲気です。

空のほうは、ついに初デートに至った、整体師の渉周一(東啓介)。

それから同じ大学に通う、オタク同士でもある入野光(岡田健史)とだって、マンガ制作以上の関係が深まってもおかしくない。

また、その光は、元家庭教師の未羽(吉谷彩子)とつき合っていました。

さらに、漱石の恋人だったはずのサリーこと伊藤沙織(福原遥)が、なんと突然、ゴンの父である俊一郎(中村雅俊)と急接近です。

裏テーマは「家族」?

そんなこんなで、ちょっと誤解していました。

このドラマは、母と娘、それぞれの恋愛が同時進行する「ラブコメ」だと思っていたら、違うみたいです。

表向きは「ラブコメ」ですが、本当は異色の「ホームドラマ」というか、裏テーマは「家族」であり、描きたいのは「母と娘の物語」ではないか。

これって、脚本家・北川悦吏子さんの裏技と言っていいでしょう。

何しろ第5話の終盤で発生したのが、昔のホームドラマでよくあった、親子の「血のつながり」問題です。

確かに、碧と空の関係性は風変わりで、親子というより年の離れた姉妹、もしくは親友のような感じが、どこか不自然なほどでした。

それに、「母ちゃん、私もそう思うぞ!」といった空の口調も独特です。

また、「恋愛は終わっても、親子は終わらない!」とか、「親子最高!」とか、やたらと親子を強調するセリフが乱発されました。

それも「血のつながらない親子」という展開の伏線だったのでしょうか。

うーん、親と子。

そう思って振り返ってみると、俊一郎とゴンの父子関係にも、まだ見えない奥深さがあります。

光も故郷の父親との関係がこじれているようだし、サリーも自分の母親を「毒親」と呼ぶような過去を抱えているらしい。

全体として、「家族」「親子」というテーマが浮上してきます。

新たな「家族像」「親子像」を探る

親子の「血縁問題」が出てきたとはいえ、決して暗い話にはならないはずです。

この第4話の冒頭も、いきなり『徹子の部屋』かと思ったら、タマネギ頭は浜辺さん、いえ空でした。

背景のセットやファッションだけでなく、空の話し方もまんま黒柳さんで、他局番組のパロディも辞さない。

以前には、碧の恋愛指南に対して、「私が広瀬すずだったら立ってるだけでいいのに!」と空。

すかさず碧が「私も井川遥だったら、ただ座ってるよ」なんて言うから笑っちゃいました。このドラマ、随所で、この調子です。

ラブコメ風エピソードを散りばめ、笑わせたり泣かせたりしながら、今、「家族」とか「親子」って何だろうと探ってみようとしている。

であれば、これまでにない「家族像」や「親子像」が、物語の中で提示されるかもしれません。

次回が「出生の秘密」的な話になるなら、前半の山場になりそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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