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今年の「流行語大賞」に、「3密」などと並んで「愛の不時着」

碓井広義メディア文化評論家
ソウルの夜景(写真:Panther Media/アフロイメージマート)

毎年恒例の「流行語大賞」が発表されました。「3密」や「アベノマスク」といった新型コロナウイルス関連が目立ちますが、このトップ10の中に、韓国ドラマ「愛の不時着」が入っています。

師走の風物詩みたいな「流行語大賞」、正確には「2020年ユーキャン新語・流行語大賞」というんですね。

昨年の12月から今年の11月30日までを対象期間として、新たに登場した新語・流行語から「トップ10」を選ぶというものです。

今年の年間大賞は「3密」。あまり楽しい言葉でも、嬉しい言葉でもありませんが、まあ、今回は仕方ないかもしれません。

他に受賞語として選ばれたのは、

「あつ森(あつまれ、どうぶつの森)」

「アベノマスク」

「アマビエ」

「オンライン〇〇」

「鬼滅の刃」

「GoToキャンペーン」

「ソロキャンプ」

「フワちゃん」

そして、

「愛の不時着」でした。

韓国ドラマ『愛の不時着』

2020年上半期、韓国ドラマ『愛の不時着』、そして『梨泰院(イテウオン)クラス』が大きな話題となりました。

『愛の不時着』は、財閥の後継者であるヒロイン(ソン・イェジン)が、パラグライダーの事故で北朝鮮に侵入し、現地の将校(ヒョンビン)の家で身分を隠して暮すという、一見途方もない物語です。

しかし、現実の社会問題を、ドラマというフィクションの力で突破しようとする果敢な挑戦であり、背後には国家と人間を分けて考えようとする意思が見えました。

何より、この奇想天外ともいえるストーリーを具体的な映像で見せたこと、また良質のエンターテインメントに仕立て上げたことに、「韓国ドラマ」の底力を感じました。

そして『梨泰院クラス』は、大企業の会長とその息子によって前科者にされただけでなく、父親を死に追いやられた青年(パク・ソジュン)の復讐劇です。

彼は梨泰院の街で開いた小さな居酒屋を、やがて韓国ナンバー1の企業へと成長させていきます。しかも堂々の「青春ドラマ」であると同時に、「企業ドラマ」であり、格差社会やジェンダーなどのテーマも取り込んだ「社会ドラマ」でもありました。

今年は、テレビ放送が新型コロナウイルスの影響を受ける中で、動画配信サービスの利用者が飛躍的に増えました。『愛の不時着』も『梨泰院クラス』も、ネットフリックス(Netflix)の作品です。

ご存知のように、ネットフリックスは、アメリカのオンラインDVDレンタルおよび映像ストリーミング配信事業会社であり、同社が提供している定額制動画配信サービスも指しています。

ユーザーの好みをビッグデータとして蓄積し、それに合ったコンテンツを推薦、提供するという、特色のある仕組みをもっています。20年7月時点で、全世界有料会員数は約1億9300万人にもなります。

また映画など既存作品の配信だけでなく、オリジナル作品も制作していることが強みと言っていいでしょう。代表作に『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などがありますが、『愛の不時着』と『梨泰院クラス』がそれに加わった形です。

第4次韓流ブーム

『冬のソナタ』が日本でヒットした2003年~04年が第1次韓流ブーム。第2次は「少女時代」などのK-POPブームが起きた2008年頃でした。

東京・新大久保を中心とした韓国料理や、韓国ファッションが話題となった2014年くらいが第3次ですから、今回は第4次韓流ブームというわけです。

前述のように、新型コロナウイルスの影響で在宅の機会が増え、テレビだけでなく動画配信サービスの利用者が急上昇したことも韓流人気の追い風となりました。

ちなみに、「流行語大賞」のトップ10の中に韓国ドラマのタイトルが入ったのは、2004年の「冬ソナ」以来のことです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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