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金曜深夜の悦楽ドラマ『サ道』で、ずっと整っていたい!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

金曜の夜。忙しかった一週間も終わり、ようやくほっとする時間です。ふと、テレビをつけたりします。

とはいえ、うるさいばかりのバラエティも、鬱陶しい殺人事件や恋愛物のドラマも見たくはありません。だけど、寝てしまうのも惜しい。

そんな時です。テレビ東京の深夜ドラマが本領を発揮するのは。

もうすこしで午前1時というタイミングで始まるのが、ドラマ25『サ道』です。「さどう」と読むのですが、もちろん茶道ではありません。サウナも極めれば「道」になるんですね。でも、お作法講座の番組ではありません。れっきとしたドラマです。

ドラマなので、主人公をはじめとする登場人物たちが存在します。ナカタアツロウ(原田泰造)、偶然さん(三宅弘城)、そして若手のイケメン蒸し男(むしお、磯村勇斗)といった面々です。

普通のサウナ好きは「サウナー」、達人の域にある者は「プロサウナー」と呼ばれるのですが、この3人のプロサウナーは同じ行きつけのサウナで知り合いました。互いに、プライベートなことは最小限しか、知りません。そこがいいんですね。

毎回、彼らは上野のサウナ「北欧」で、のんびりとサウナ談義を交わしています。その最中に「ところで、あそこに行ってきましたよ」とナカタが言い出し、画面には彼が一人で訪れた各地のサウナが現れる仕掛けです。

いえ、旅番組のように原田泰造さんがレポートするわけではありません。あくまでもドラマの中の架空の人物、ナカタによる「サウナ巡礼」の様子が映し出されるのです。

特色は、出かける先が「実在のサウナ」ばかりであることです。たとえば、杉並の住宅街にあり、遠赤外線サウナと屋外での外気浴が人気の「吉の湯」。水風呂がミニプールになっている錦糸町の「ニューウイング」。珍しいテントサウナが楽しめる平塚の「太古の湯 グリーンサウナ」。

さらに、富士山の天然水を使った水風呂で知られ、“サウナの聖地”として崇められている静岡の「サウナしきじ」も登場しました。そうそう、名古屋の栄にある「ウエルビー栄」での、キャップを被ってサウナに入るフィンランドスタイルも良かったなあ。

いずれのお店も魅力的で、見ていると、深夜にもかかわらず、すぐにも駆けつけたくなります。

ナカタは、どこのサウナに行っても、サウナ・水風呂・休憩という基本の「セット」を数回繰り返します。決まりというか、ルーティンというか、儀式というか。それぞれのお店の個性を五感で楽しみながら、修行僧のように「セット」を積み重ねていく・・・。

すると、やがて一種のトランス状態のような快感がやってくるんですね。これは「整う」と表現されますが、他では得られない恍惚感であり、サウナーの求める究極の癒しです。

つまりこの番組、ジャンルとしてはドラマなんですが、本当の主役は原田泰造さんではありません。一軒一軒のサウナこそが主役であり主人公です。現実の出来事や実在の人物を描く「ドキュメンタリードラマ」のサウナ版だと言っていいでしょう。

「架空の人物」と「実在の場所」の絶妙なハイブリッド。それはヒットシリーズ『孤独のグルメ』などで鍛え上げてきた、テレ東深夜ドラマのお家芸です。

金曜深夜の悦楽ドラマ。まだまだ『サ道』を見続けたい。ずっと整っていたい。そう思う、今日この頃であります。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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