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テレビ65年の歴史の中から選ばれた「日本一のテレビドラマ」とは!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

これまでに放送されてきたドラマの中から、何と「日本一のテレビドラマ」を選ぶ。そんな暴挙とも蛮行ともいえる(笑)、「週刊現代」の特集に参加させていただきました。

ちなみに、この特集における「選者」は以下のような皆さんです。

<日本一のテレビドラマ選者>50音順、敬称略

碓井広義(上智大学文学部教授)/柏田道夫(脚本家)/倉田真由美(漫画家)/黒田昭彦(All Aboutテレビドラマ)/中町綾子(日本大学芸術学部教授)/成馬零一(ドラマ評論家)/桧山珠美(テレビライター)/古崎康成(テレビドラマ研究家)/ペリー荻野(コラムニスト)/森永卓郎(経済評論家)/山田美保子(コラムニスト)

また、選考方法としては、これらの選者11名が、これまでのドラマの中から1位~15位までをランク付けする形で投票。1位を15点、2位を14点・・15位を1点として、合計点数でランキングが作成されています。

「日本一のテレビドラマ」ベスト30

誌面には、結果発表として「ベスト100」がズラリと並んでいますが、さすがに全部記すには多いので(笑)、ここでは「トップ30」を挙げておきます。「歴代テレビドラマベスト30」と呼んでもいいでしょう。

31位から100位までは、発売中の「週刊現代」5月11日増刊号をご覧いただけたらと思います。

1位 「あまちゃん」13年、NHK

2位 「傷だらけの天使」74年、日本テレビ

3位 「俺たちの旅」75年、日本テレビ

4位 「北の国から」81年、フジテレビ

5位 「淋しいのはお前だけじゃない」82年、TBS

6位 「すいか」03年、日本テレビ

7位 「早春スケッチブック」83年、フジテレビ

8位 「高校教師」93年、TBS

9位 「東京ラブストーリー」91年、フジテレビ

10位 「寺内貫太郎一家」74年、TBS

11位 「半沢直樹」13年、TBS

12位 「天下御免」71年、NHK

13位 「あ・うん」80年、NHK

14位 「岸辺のアルバム」77年、TBS

15位 「夢千代日記」81年、NHK

16位 「阿修羅のごとく」79年、NHK

17位 「木枯し紋次郎」72年、フジテレビ

18位 「カルテット」17年、TBS

19位 「時間ですよ」70年、TBS

20位 「必殺シリーズ」72年、TBS

21位 「ふぞろいの林檎たち」83年、TBS

22位 「男たちの旅路」76年、NHK

23位 「お荷物小荷物」70年、TBS

24位 「西遊記」78年、日本テレビ

25位 「細うで繁盛記」70年、日本テレビ

26位 「思い出づくり。」81年、TBS

27位 「逃げるは恥だが役に立つ」16年、TBS

28位 「不良少女とよばれて」84年、TBS

29位 「どてらい男」73年、フジテレビ

30位 「ドクターX~外科医・大門未知子~」12年、テレビ朝日

(週刊現代 2018年5月11日増刊号

「ドラマ好きが本気で選んだ 日本一のテレビドラマ ベスト100」より)

30本を局別に数えてみると・・・

NHK   6本

日本テレビ 5本

TBS   13本

フジテレビ 5本

テレビ朝日 1本

NHK、日テレ、フジはほぼ横並びで、TBSの圧倒的な強さが目立ちます。かつて「ドラマのTBS」といわれていたことを思い出しました。

また年代別では・・・

70年代  14本

80年代   8本

90年代   2本

00年代   1本

10年代   5本

ベスト30の約半数が70年代に集中していました。70年代というのが、いわば「ドラマの黄金時代」だったことがわかりますね。

私が選んだテレビドラマベスト15

週刊現代編集部の要請にしたがって、私が選んだ15作品とその理由は、以下の通りです。掲載された集計結果と比べてみるのも一興かもしれません。

1位 「北の国から」 フジテレビ 1981年

ドラマの成否は脚本にかかっていることを、あらためて実感します。倉本聰さんの脚本は、約20年にわたって「ドラマの登場人物たちと同時代を生きる」という稀有な体験をさせてくれました。北海道の四季を取り込んだドラマ自体が前代未聞で、しかも内容がまた重層的でした。家族の物語というだけでなく、仕事、子育て、高齢化社会、地域格差といった多様なテーマが盛り込まれている。多面体というか、立体的なドラマでした。特に視聴者が無意識の中で感じていた「家族」の危機と再生への願いを、苦味も伴う物語として具現化していました。まさに“社会の合わせ鏡”としてのドラマだったのです。

2位 「あまちゃん」 NHK 2013年

ドラマの場合、作品の骨格であり設計図である脚本、登場人物たちを演じるキャスト、そして映像表現としての演出の3つが成否の鍵となります。「あまちゃん」では脚本家の宮藤官九郎、能年玲奈をはじめとする出演者、秀作ドラマ「ハゲタカ」を生んだ訓覇圭プロデューサーと井上剛ディレクターという絶妙の組み合わせでした。それぞれが能力を最大限に発揮した結果、1 前代未聞のアイドル物語、2 80年代カルチャーの取り込み、3 時間軸と物語の舞台を自在にあやつる異例の脚本、4 脇役まで目配りの効いた秀逸なキャスティングといった特色を持つ名作が生まれました。

3位 「岸辺のアルバム」 TBS 1977年

企業人としての父。女としての母。家族は皆、家の中とは違った顔を隠し持っています。それは切なく、また愛すべき顔でした。洪水の多摩川を流れていく家々の映像と、ジャニス・イアンが歌う「ウィルユー・ダンス」が忘れられません。脚本、山田太一。

4位 「半沢直樹」 TBS 2013年

注目ポイントは2つです。まず主人公が大量採用の“バブル世代”だったこと。企業内では、「楽をして禄をはむ」など負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮でした。池井戸潤さんの原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」は、優れた企業小説の例にもれず、内部(ここでは銀行)にいる人間の生態を巧みに描いています。福澤克雄ディレクター(「華麗なる一族」など)の演出は、この原作を相手に、正攻法で真っ向勝負していました。第2のポイントは主演の堺雅人さんです。前年、「リーガル・ハイ」(フジ)と「大奥」(TBS)の演技により、ギャラクシー賞テレビ部門の個人賞を受賞しましたが、「半沢」ではシリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして目ヂカラが群を抜いていました。

5位 「俺たちの旅」 日本テレビ 1975年

フリーターという言葉もなかったこの時代、組織になじめない若者たちの彷徨を描いて秀逸でした。オンエア当時、ちょうど大学生だったこともあり、劇中の彼らに共感したり、反発したりしながら見ていました。カースケ(中村雅俊)、オメダ(田中健)、グズ六(津坂まさあき )の3人が当時の年齢のまま、今もこの国のどこかで生きているような気がします。脚本、鎌田敏夫ほか。

6位 「カルテット」 TBS 2017年

主要人物4人が、鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら、互いに交わす会話が何ともスリリングで、見る側にとっては、まさに“行間を読む”面白さがありました。ふとした瞬間、舞台劇を見ているような、緊張感あふれる言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二さんの本領発揮です。そして、台詞の一つ一つがもつ「ニュアンス」を、絶妙な間(ま)と表情で見せてくれた、4人の役者たちにも拍手です。

7位 「ふぞろいの林檎たち」 TBS 1983年

やがて自分が大学のセンセイになることなど思ってもいなかった頃、“フツーの大学生”の実態を、残酷かつユーモラスに見せてくれました。サザンが歌った「いとしのエリー」も、ドラマのテーマ曲ベスト10に入ります。脚本、山田太一。

8位 「傷だらけの天使」 日本テレビ 1974年

オープニング映像のカッコよさにぶっ飛びました。ショーケン(萩原健一)、水谷豊、岸田今日子、そして怪優・岸田森などの出演者。また市川森一や鎌田敏夫といった脚本家たち。深作欣二や工藤栄一などの監督陣。カメラは木村大作ほか。これで面白くないはずがありません。

9位 「ひよっこ」 NHK 2017年

東京オリンピックにはじまり、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組、ツイッギーとミニスカートブーム、そしてヒット曲の数々。同時代を過ごした人には懐かしく、知らない世代にとっては新鮮なエピソードが並びました。ヒロインのみね子は「何者」でもないかもしれませんが、家族や故郷、そして友だちを大切に思いながら、働くことが大好きな、明るい女性でした。市井に生きる私たちと変わらない、いわば等身大のヒロイン。いや、だからこそ応援したくなったのです。

10位 「金曜日の妻たちへ」 TBS 1983年

日常の中にあるエロスを再発見し、日本人の恋愛観を変えたシリーズの1本目です。特に、女性の不倫に対するハードルを下げた功績(?)は大きいのではないでしょうか。ちなみに、大ヒット曲となった小林明子「恋におちてーFall in loveー」が主題歌だったのは、85年の「金曜日の妻たちへIII  恋におちて」でした。「ダイヤル回して手を止めた」の歌詞が懐かしい。脚本、鎌田敏夫。

11位 「下町ロケット」 TBS 2015年

普段スポットの当たらない技術者たち、モノを作る人たちの思いを代弁してくれたドラマでした。俺たちの言いたいことを言ってくれた。そう快哉を叫んだ人も多いんじゃないでしょうか。立川談春、吉川晃司、池畑慎之介など重厚さと意外性を組み合わせたキャスティングが絶妙で、俳優の好演が目立ちました。

12位 「それぞれの秋」 TBS 1973年

最も身近な存在でありながら、家族の素顔や本心をどれだけ知っているのか。それまでのホームドラマでは見ることのできなかった家族の実像をクールに、そして優しく描ききっていました。脚本、山田太一。

13位 「時間ですよ」 TBS 1970年

「ドラマの黄金時代」ともいうべき70年代の幕開けを告げた1本。「松の湯」の脱衣所にドキドキし、堺正章と悠木千帆(現・樹木希林)の掛け合いに笑いました。天地真理が登場したのは翌年の第2シリーズでしたが、当時、確かに可愛かったです。脚本、向田邦子ほか。

14位 「バラ色の人生」 TBS 1974年

自分は何がしたいのか。何ができるのか。モラトリアムの時間を生きる若者たち(主演、寺尾聰)の姿が、ジョルジュ・ムスタキ「私の孤独」の歌声と共に記憶に残ります。松方弘樹さんにさらわれる(笑)前の仁科明子さんが可憐でした。脚本、高橋玄洋ほか。

15位 「七人の孫」 TBS 1964年

少子化社会とは無縁の元祖「大家族ドラマ」です。高橋幸治、いしだあゆみ、島かおり、勝呂誉などの孫たちもよかったのですが、一家の象徴ともいうべき森繁久彌のジイサマが最高でした。脚本、向田邦子ほか。

さて、皆さんなら、テレビ65年の歴史の中から「日本一のテレビドラマ」として何を選びますか!?

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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