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『ドクターX~外科医・大門未知子~』は、なぜ快進撃を続けているのか!?

碓井広義メディア文化評論家

米倉涼子さん主演の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)。今回、第5シーズンを迎えましたが、“失敗しない”どころか、快進撃が続いています。それを可能にしているのは、一体何なのでしょうか。

ヒットシリーズが衰退する原因は、あれこれあるかもしれませんが、最も怖いのが制作側の「慢心」です。ストーリーはワンパターンとなり、レギュラー出演者の緊張感が緩み、視聴者は飽き始める。シリーズ物こそ、現状維持どころか、「進化」が必要となります。

ベースとなる「世界観」は変えずに、細部は時代や社会とリンクさせながら、柔軟に変えていくこと。それをしっかり実現しているのが、このドラマなのです。

『ドクターX』――その「進化」の歴史

2013年 第2シーズン ハブとマングースの戦い!?

このドラマが始まった時の帝都医大付属病院「分院」から、堂々の「本院」へ。「新たな舞台」が設定されました。これは『半沢直樹』で、主人公が大阪西支店から東京本部に異動したようなもの。これにより、大学病院“本店”ならではの権力闘争も存分に描けるようになったのです。

次に「新キャラクター」の投入です。外科統括部長に西田敏行さん。映画『釣りバカ日誌』の浜ちゃんもいいですが、西田さんはアクの強いヒール役も実にうまい。そして内科統括部長は三田佳子さん。当時70代の三田さんが、58歳の敏腕女医を堂々と演じていました。出てくるだけで画面が豪華に見えたのは、さすが大女優です。

次期院長の座をめぐって対立するこの2人。いわばハブとマングースの戦いです。その暗闘が激しいほど、「私、失敗しないので」とマイペースで患者の命を救っていく米倉さんが際立つ仕掛けになっていました。

2014年 第3シーズン 往年の「東映やくざ映画」!?

この時は、「国立高度医療センター」という新たな舞台を設定。手術室などの施設や設備を含め、病院としてのスケールがぐんとアップしました。

またそこに居並ぶ面々が豪華です。いきなり更迭される総長に中尾彬さん。入れ替わる新総長は北大路欣也さん。そして次期総長の座を狙うのが古谷一行さんでした。

ライバル関係が続く外科部長は、伊武雅刀さんと遠藤憲一さん。また、前シリーズで帝都医大を追われながら、しっかり西京大病院長に収まっている西田敏行さんも“健在”でした。

こうしたメンバーを眺めていると、『白い巨塔』(フジテレビ)と『華麗なる一族』(TBS)と『半沢直樹』(同)がオーバーラップして、思わず苦笑いしたものです。

しかも男たちの権力争いは、往年の「東映やくざ映画」のようにむき出しで、遠慮がなく、分かりやすい(笑)。すべてはヒロインを引き立てるためであり、おかげで実質的「紅一点」としての大門未知子の印象が一層鮮やかになりました。

舞台の病院が変わろうと、男たちの争いが激化しようと、大門=米倉は決して変わらない。超のつく手術好き、天才的な腕前、少しヌケた男前な性格。このブレなさ加減こそが、当シリーズの命です。

2016年 第4シーズン 権力とビジネスの巨塔!?

昨年の第4シーズン、第一の進化は、やはり「登場人物」でした。アクが強く、アンチもたくさんいる(笑)泉ピン子さんを副院長役に抜擢。「権力とビジネスの巨塔」と化した大学病院で、院長(西田敏行)との脂ぎった対決が展開されました。

また、米国の病院からスーパードクターとして戻ってきた、外科医・北野(滝藤賢一)の投入も有効でした。

さらに肝心の「物語」も進化していました。たとえば第7話では、当初、耳が聞こえない天才ピアニスト・七尾(武田真治)が患者かと思われましたが、七尾は中途半端な聴力の回復よりも、自分の脳内に響くピアノの音を大事にしたいと手術を断ります。大門はその過程で、七尾のアシスタント(知英)の脳腫瘍を見抜き、彼女の命を救っていったのです。

この回の寺田敏雄さんをはじめとするベテラン脚本家たちが、「必ず大門が手術に成功する」という大原則を守りつつ、より豊かな物語を模索している。そうした努力があるから、『ドクターX』一座の興行は継続可能なのです。

2017年 最新シーズン 「不易と流行」絶妙なバランス

今シーズンの初回。舞台となる東帝大学病院に、「初の女性院長」である、志村まどか(大地真央)を持ってきました。

彼女のモットーは「都民ファースト」ならぬ「患者ファースト」であり、医学界や医師たちに清廉性を求めることから、「マダム・グリーン」ならぬ「マダム・クリーン」のニックネームがついています。

結局、初の女性院長は、キャスターも務めるジャーナリストとの不倫問題で首を切られてしまいましたが、シーズン開幕のインパクトとしては十分でした。

また普通なら、この大地さん演じる女性院長を数週間は活用するところですが、たった1週で舞台から下げてしまったことも驚きです。「もったいない」と考えるより「贅沢感」を、そして「スピード感」を大事にしたのでしょう。余裕の物語展開です。

それは第2話でも同じでした。このシリーズから登場した「ゆとり世代」の若手医師(永山絢斗など)のひとり、伊東亮治(野村周平)が自分の母親(中田喜子)の難しい手術を担当することになります。その手術の最中に、彼は自らの力不足を痛いほど知るのです。

もちろん大門の活躍で母親は命拾いするのですが、この「ゆとり君」は医師をやめて、なんとミュージシャンを目指すと言い出します。初回の大地さんに続き、好演した野村さんも1回限り。あらためて贅沢感とスピード感を見せつけました。

一方、ブレない大門はもちろん、「あきらさ~ん(by 大門)」こと神原(岸部一徳)、仕事仲間の麻酔科医・城之内(内田有紀)、院長に返り咲いた蛭間(西田敏行)とその取り巻き(遠藤憲一など)といった面々の“変わらなさ”に、見る側はホッとします。

今シーズンもまた、「不易と流行」のバランスが絶妙な『ドクターX』。このドラマの名物ともいえる、米倉さんの「目ヂカラ」と「美脚」も、放送開始当時と変わらないどころか、ますます磨きがかかっています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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