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あらためて、今年の終戦特番を総括する

碓井広義メディア文化評論家

敗戦から70年となる今年の8月。NHKと民放で、様々な終戦特番が放送された。今後も新たな戦争が起きないようにするためにも、過去の戦争の記憶を引き継ぐことは重要だ。あらためて今年の終戦特番を総括する。

戦争の理不尽さを伝えた、ドラマ「妻と飛んだ特攻兵」

まず、ドラマを振り返る。2夜連続の「レッドクロス~女たちの赤紙~」(8月1日・2日、TBS)は、松嶋菜々子主演で従軍看護婦たちの戦いを描いていた。

また、「一番電車が走った」(10日、NHK)は、原爆投下から3日後に、女学生(黒島結菜)たちが路面電車を走らせた実話をドラマ化したものだ。

どちらも戦争と女性をテーマにした力作だったが、一連の終戦ドラマの中で最も見応えがあったのは、堀北真希と成宮寛貴が主演した「妻と飛んだ特攻兵」(16日、テレビ朝日)である。

舞台は満州。特攻兵の訓練を担当していた少尉(成宮)が、終戦後の8月19日に、ソ連軍に対する特攻作戦を敢行した。しかも、彼が操縦する戦闘機の後部座席には、結婚から間もない妻(堀北)が乗っていたのだ。一瞬耳を疑うが、実話が基になっている。

当時、満州には多くの民間人が開拓団として入植していたが、日本軍は彼らを見捨てるような形で撤退していった。このドラマでは、開拓団の人たちがどれほどの辛酸をなめたかも丁寧に描いていた。そして、彼らが避難する時間を稼ぐことを目的に、11人の特攻兵が侵攻してきたソ連軍の戦車に体当たりするのだ。

物語全体は、いわゆるメロドラマではない。また戦争を美化するような隙も見せない。堀北の凛とした美しさに頼り過ぎることなく、戦争が人々の大切なものを奪い、全てを破壊し尽す理不尽さを伝えていた。

出撃前、成宮演じる少尉が基地に残る上官(杉本哲太)に言う。「これからの日本は、国が国民を苦しめるような、そんな国にならないことを願います」

NHKスペシャル「カラーでみる太平洋戦争~3年8か月・日本人の記録~」の衝撃

一方、ドキュメンタリーでは、「私たちに戦争を教えてください~いま、会っておかなければいけない人がいる 今日、聞いておかなければいけない声がある~」(15日、フジテレビ)や、「戦後70年 千の証言スペシャル 私の街も戦場だった2 今伝えたい家族の物語」(15日、TBS)が目を引いた。

共通するのは、「戦争を学ぼう」という基本姿勢だ。もちろん、それ自体は悪くない。ただ、そこに若手人気俳優やタレントの投入が必要だったのか、疑問が残る。たとえば、「私たちに・・」では、戦争経験者の話を聞きに行くのが福士蒼汰、有村架純、広瀬すずなどだった。若年視聴者の代表という設定かもしれないが、彼らの反応のほうが気になって、貴重な証言に集中できない視聴者も多かったのではないか。単なる話題作り、視聴率対策にしか見えなかったのが残念だ。

そんな中で衝撃的だったのが、15日のNHKスペシャル「カラーでみる太平洋戦争~3年8か月・日本人の記録~」である。

見せてくれたのは、NHKが独自に国内外で収集した戦時中の映像だ。当時はモノクロフィルムによる撮影がほとんどだが、番組では最新のデジタル技術を駆使して、映像をカラー化していた。モノクロに色がついただけかと思っていたが、見事に裏切られる。南の島での壮絶な戦いや、戦時下の庶民の日常が、予想を超える生々しさで再現されていたのだ。戦争が、よりリアルなものとして伝わってきた。

特に驚いたのは、戦場はもちろん、戦禍の街に横たわる死体の映像だ。これまでテレビで放送されたどんなテレビ番組と比べても、これほど多くの死体が画面に映し出された例はないだろう。制作側の勇気ある決断であり、そのおかげで、「良い戦争」も「正しい戦争」もあり得ないことを、あらためて認識することができた。

「国が国民を苦しめるような国」への傾斜が強まっている、戦後70年の今。テレビというメディアに何ができるか、何をすべきかもまた問われている。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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