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就職活動中の大学4年生をめぐって

碓井広義メディア文化評論家

大学4年生の就職活動が続いているが、毎年この時期、学生は3つのタイプに分かれてくる。すでに就職先を決めた者、内定は得ているが就活を継続中の者、そしてまだ内定が出ていない者だ。

実は3番目の学生たちには、小さな「共通点」がある。

ひとつは、根拠のない自信に振り回されていることだ。プライドはもちろん高い。自分1人で何とかなると思っているから、教員や大学、親などへの報告や相談をしない。そのため、自分を客観視できていない場合が多い。

次に、仕事とは何か、会社や組織に所属することの意味といった、根本的な命題を考えないまま動いている。頭にあるのは自分の都合ばかりだ。企業の新人採用が「一緒に働きたい仲間」を探す行為だという自覚が足りないのだ。

また彼らから来るメールには「件名」がないことが多い。本文では相手の名前が省かれ、いきなり文章が始まっている。しかも一般的な敬語が使えていない。文末の名前も名字だけだったりする。すぐ連絡を取ろうと思っても携帯番号すら書いてない。

さらに言えば、もらったメールにこちらが返信しても梨のつぶてだ。自分からメールを出した場合、「返信、ありがとうございました」のひと言でもいいから、最後は自分のメールで終わるのがマナーだろう。

個々の学生はそれぞれいいものを持っており、少し修正するだけで違ってくる。私のアドバイスは毎年変わらない。「まずは、偉大なる常識人であれ」。

大学の教壇に立つようになって20年。特にこの10年の学生たちを見ていると、上記のような傾向がある。メールひとつにも、人間性は表れるから怖い。

「偉大なる常識人」は、日常的に学生たちに言い続けていることだ。さらに、「当たり前のことを、当たり前以上にできる常識を持った上での、個性や才能の発揮だと思って欲しい」と付け加えている。

ちなみに、ゼミ生たちの就職率は、毎年100%だ。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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