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朝ドラ「ごちそうさん」の総括と、地方局による共同制作の試み

碓井広義メディア文化評論家

●反戦を標榜しない反戦ドラマだった「ごちそうさん」

3月29日、NHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」が最終回を迎えた。終わってみれば、全話の平均視聴率は22.4%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)。この10年間で最高の支持を得たことになる。

このドラマは、異色作にして傑作「あまちゃん」から一転し、「女性の一代記」という朝ドラの定番に戻っただけではない。主人公のめ以子(杏)が、「食」という身近なものを支えとして、激動の時代をたくましく生きる姿に、多くの共感が集まった。

しかも、め以子がプロの料理人になったりはせず、あくまでも妻や母として、つまり主婦として食と向き合ってきたことも大きい。

また登場する料理は特別な食材や技術を必要とせず、どこの家庭でも作れそうなものだ。それでいて料理のシーンは楽しそうで、食事のシーンはおいしそうだった。家庭の食をこれほど素敵に見せてくれたドラマは過去になかった。

その一方で、国が戦争へと向かっていく過程を庶民の目線でリアルに描いてもいた。愛する息子を戦場へと送るつらさも、失ってしまう悲しみも、抑制の効いた脚本と演技が十分に伝えてくれた。これは反戦を標榜しない反戦ドラマであり、朝ドラの新たな王道を探ったと言える1本だった。

●地方局 共同制作の試み

もう1本、評価したい番組がある。3月28日の夜11時15分から、北海道テレビで放送された「現代%(パーセン)基礎チシキ」だ。気になることを「アンケートによる%」で数値化し、それをエンターテインメントとして楽しむバラエティである。

たとえば、「女性からボディタッチされると自分に気があると思う男性」は65%。「下着の上下は基本バラバラ」という女性が54%など、放送時間が遅いこともあり、やわらかなネタが並んでいた。

司会はバナナマンの設楽統。出演者に同じくバナナマンの日村勇紀、ますだおかだの岡田圭右など。さらに壇蜜やデーブ・スペクターもVTR出演する賑やかさで、新機軸のバラエティを開発しようという意欲は十分感じられた。

しかし、それ以上に注目すべきは、この特番が北海道テレビ、名古屋テレビ、九州朝日放送による初の共同制作だったことだ。いずれもテレビ朝日系列局で、それぞれ、キー局であるテレビ朝日の番組を流すと共に、多くの自社制作を行っている。

だが、そんなオリジナル番組は基本的に地域限定であり、全国ネットに乗る機会はほとんどない。また人員的にも予算的にも限りがある。そこで、共同制作することで全国に通用する番組を生み出そうというのだ。

今後、3局以外の全国の放送局(テレビ朝日を含む)に番組販売という形でセールスをしていく。いわばキー局を軸とする中央集権的なネットワークシステムに風穴を開ける試みでもある。そのチャレンジ精神に声援を送りたい。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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