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吉田正尚やセーブ王を加えながら、その一方で「エース」の放出はあり得るのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
クリス・セール(ボストン・レッドソックス)Jul 12, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 クリス・セール(ボストン・レッドソックス)に対し、いくつかの球団が興味を抱いているらしい。ニューヨーク・ポストのジョン・ヘイマンは「複数の球団が入手の可能性をチェックしている。レッドソックスはどの先発投手も放出する気はないが、ローテーションは層が厚いエリアと見ていて、少なくとも申し出に耳を傾け、検討するようだ。セールはトレード拒否権を持っていて、トレードの実現を阻むことができる」とツイートしている。

 レッドソックスのローテーションからは、ネイサン・イオバルディマイケル・ワカリッチ・ヒルの3人がFAになった(いずれも、まだ球団は決まっていない)。現時点で5人を並べるとすれば、セール、ニック・ピベッタジェームズ・パクストンギャレット・ウィットロックブライアン・ベイオだろうか。他に、タナー・ハウクカッター・クロフォードジョシュ・ウィンカウスキーコナー・シーボルドらも候補だ。

 確かに、人数は多い。ただ、9人のうち、メジャーリーグで1シーズンに80イニング以上を投げたことがあるのは、セール、ピベッタ、パクストンの3人だ。「この投手がオプト・アウトしないのは当然。ここ3年は計48.1イニング、残る契約は2年5500万ドル」で書いたとおり、ここ3シーズン、セールはまともに投げていないが、それまでの実績からすると、このなかではエースだろう。他球団がセールを欲しがるのも、健康でありさえすれば、かつての投球ができると見ているからに違いない。

 また、レッドソックスからは、ザンダー・ボガーツJ.D.マルティネスも抜けたが、加わったのは吉田正尚だけではない。レッドソックスは、ジャスティン・ターナーケンリー・ジャンセンクリス・マーティンジョエリー・ロドリゲスと契約を交わしている。最初の2人は、J.D.に代わるDHと今シーズンのセーブ王だ。日本プロ野球の経験者2人のうち、マーティンは、3年ぶり2度目の奪三振率10.50以上&与四球率0.85未満を記録した。このスタッツと契約については「元・北海道日本ハムのマーティンが得た2年1750万ドルは高いのか。ここ2年は防御率3点台、来年37歳」で書いた。

 これらの動きからすると、セールの放出はないような気がする。レッドソックスが他球団からのトレードの申し出を検討し、応じるとすれば、セールの交換要員に、遊撃か二塁かセンターを守ることができ、すでにメジャーリーグで頭角を現しているか、来シーズンにそうなりそうな選手が含まれている場合だけではないだろうか。

 トレバー・ストーリーを遊撃、キーケー・ヘルナンデスをセンターとすると、二塁がクリスチャン・アローヨでは心許ない。ストーリーが二塁、キーケーは遊撃だと、センターに穴が空く。他のパターンも考えられるが、いずれにせよ、レギュラーの野手が1人足りない。

 レッドソックスの需要を満たす選手はいても、セールと交換に、その選手を手放そうとする球団があるかどうかはわからない。アリゾナ・ダイヤモンドバックスには、どちらもセンターを守れるドールトン・バーショーコービン・キャロルがいたものの、今オフ、ダイヤモンドバックスは、バーショーをトロント・ブルージェイズへ放出した。ピッツバーグ・パイレーツのセンター、ブライアン・レイノルズはトレードを志願しているが、パイレーツが再建を終えるまでには数年かかると思われ、あと2シーズンでFAになるセールは、パイレーツのプランに合わない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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