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「あと2アウトでシリーズ敗退」の場面でバント!? 走者を進めることはできたが…

宇根夏樹ベースボール・ライター
トレント・グリシャム(サンディエゴ・パドレス)Oct 14, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ第5戦の9回表、1死一、二塁の場面だ。打席には、トレント・グリシャム(サンディエゴ・パドレス)が入った。マウンドには、2人続けて歩かせたデビッド・ロバートソン(フィラデルフィア・フィリーズ)に代わり、第3戦に先発登板のレンジャー・スアレスが上がった。

 パドレスはすでに3敗を喫し、この試合も、3対4とリードされていた。4点目を挙げる前に、あと2アウトを取られると、シリーズ敗退となる。

 グリシャムは、初球を振るのではなく、バントをした。ボールを拾ったスアレスは、一塁へ送球。2人の走者は進塁したが、グリシャムはアウトになった。次の打者のオースティン・ノラは、初球を打った。右方向の浅い外野フライとなり、シリーズは終わった。

 パドレスのボブ・メルビン監督は、試合後の会見で、芝が濡れていて、左対左だったことを挙げ、こういった状況について、前にグリシャムと話をしたことがある、と語った。さらに、一塁手が前進守備を敷いておらず、次が右打者だったこともつけ加えた。

 この試合は、途中で雨に見舞われた。グリシャムは、盗塁こそあまり多くないものの、足は速い。センターを守り、今シーズンは8本のバント・ヒットを記録している。この本数は、ドールトン・バーショー(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)の9本に次ぎ、ナ・リーグで2番目に多い。

 グリシャムは、左投手を苦手としているわけではないが、スアレスとの対戦は、6月23日の4打席と第3戦の2打席を合わせて、6打数1安打。サンプル数はわずかながら、内野安打が1本と内野ゴロが5本(うち1本は失策で生きた)なので、スアレスを得意としているとは言い難い。

 また、このシリーズは、対右も含め、それまで18打数0安打だった。ちなみに、ワイルドカード・シリーズは8打数4安打(打率.500)、ディビジョン・シリーズは13打数4安打(打率.308)。2シリーズで計3本のホームランを打っていた。

 こうしたことからすると、グリシャムのバントも、まったく不可解とまではいかない。ただ、そのプレーを改めて確認すると、グリシャムは、両足を地面に着けたまま、バットにボールを当ててから走り出している。ボールは、真正面よりも少し右に転がった。マウンドから駆けてきて、ボールを拾ったスアレスは、素早く一塁へ投げた。一塁手が捕球するのとスアレスグリシャムがベースを踏むタイミングは、どちらが先だったのか、ビデオで検証する必要もなかった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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