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ワールドシリーズで代打に起用された投手がヒットを打つ。こんな投手はもう出てこない!?

宇根夏樹ベースボール・ライター
ザック・グレインキー(ヒューストン・アストロズ)Oct 31, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ザック・グレインキー(ヒューストン・アストロズ)が、ワールドシリーズの第4戦と第5戦に、2試合続けてヒットを打った。グレインキーは野手ではなく、投手だ。先発登板の第4戦は、4イニングを投げて得点を許さず、翌日の第5戦は代打に起用された。どちらのヒットも当たり損ねの打球ではなく、1本目はゴロでセンターに達し、2本目はライトを守る外野手の前でワンバウンドした。

 代打として登場したのは、1点ビハインドの4回表、1死走者なしの場面だった。同じく投手のイーミ・ガルシアに代わり、打席に入った。ダスティ・ベイカー監督は、イニングが始まる前から、ガルシアを続投させないと決めていたのだろう。だが、イニングはまだ浅く、チャンスでもない。野手を代打に使うのはもったいない。そこで、同じ投手でも、打撃が得意なグレインキーを起用したのだと思われる。

 グレインキーは、レギュラーシーズンの通算600打席で、打率.225(521打数117安打)を記録している。長打は、ホームランが9本、三塁打が1本、二塁打は29本だ。つけ加えると、9盗塁を決め、失敗は1度しかない。

 グレインキーの前に、ワールドシリーズで投手が代打として起用されたのは、そう昔のことではない。2018年の第3戦に、クレイトン・カーショウ(ロサンゼルス・ドジャース)がフリオ・ウリーアスに代わって打席に立ち、ライト・ライナーに討ち取られた。この時は17回裏。ベンチに野手は残っていなかった。

 だが、ジ・アスレティックのジェイソン・スタークらによると、ワールドシリーズで投手が代打としてヒットを打ったのは、1923年のジャック・ベントリー以来だという。今から98年前のことだ。当時、ニューヨーク・ジャイアンツでプレーしていたベントリーは、シリーズの6試合中5試合に出場。第2戦と第5戦に投げ、第1戦と第4戦と第6戦は代打に起用され、最初の3試合にヒットを1本ずつ、それぞれ、代打、投手、代打として記録した。ちなみに、このシリーズのジャイアンツは2勝4敗。ニューヨーク・ヤンキースが優勝した。

 現在の労使協定は12月に失効し、新たな協定には「ユニバーサルDH」が盛り込まれる可能性もある。昨シーズンと同じく、ナ・リーグにもDHを導入するということだ。そうなれば、投手には打順が回ってこないので、投手に対し、代打として投手が起用されることも(野手が起用されることも)なくなる。今年のワールドシリーズも、ここからの試合、第6戦以降はアストロズのホームで行われる。DHがなかったのは、第3戦から第5戦までだ。

 ただし、例外はある。例えば、大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)の代打出場は、投手による代打と看做すこともできる。また、大谷の登板時にDHを解除した場合は、大谷の降板後に登板した投手に打順が回ってきた際、すでに野手を全員起用しているか、この場面では野手を使いたくないと監督が考えれば、その投手よりも打てそうな投手が代打に起用されることもあり得る。

 いずれにせよ、グレインキーがアストロズのユニフォームを着てプレーするのは、この代打出場が最後になるかもしれない。6年2億650万ドルの契約が満了し、今オフ、グレインキーはFAになる。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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