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「トリプル3」と「三刀流」という呼び方について

宇根夏樹ベースボール・ライター
大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)Aug 28, 2019(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「トリプル3」は、同じシーズンに、打率3割以上、30本塁打以上、30盗塁以上をすべて記録することを指している。「三刀流」は、あまり聞き慣れない表現だが、先日、大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)とマイケル・ロレンゼン(シンシナティ・レッズ)について、それぞれの記事で使われていた。

 日刊ゲンダイDIGITALは「エンゼルス首脳陣が温める大谷翔平に来季“三刀流”プラン」と題し、来シーズンは投手とDHに加え、外野手としても出場する可能性があることを報じた。ロレンゼンの「三刀流」は、9月4日の試合だ。一例を挙げると、スポーツニッポンの公式サイトは「レッズ・ロレンゼンが“三刀流”達成!ルース以来の1試合で「勝ち投手&本塁打&野手で守備」」というタイトルの記事を掲載した。

 同じシーズンに、首位打者、本塁打王、打点王を獲得する「三冠王」の場合、それよりもタイトルが一つ少ない「二冠王」が存在する。二冠の組み合わせは、首位打者と本塁打王、首位打者と打点王、本塁打王と打点王、いずれでも成り立つ。

「三冠王」は、英語では「Triple Crown(トリプル・クラウン)」だ。打者の「三冠王」を「Batting Triple Crown(バッティング――)」、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振を揃って獲得する、投手の「三冠王」を「Pitching Triple Crown(ピッチング――)」とすることもある。「二冠王」を「Double Crown(ダブル・クラウン)」と表現するのは稀だが、皆無ではない。例えば、スポーツ・イラストレイテッドは、2010年に「惜しくも三冠王を逃した選手」を紹介した記事のなかで、おそらく一種の造語としてだろうが、「double-crown」と記している。

 一方、「トリプル3」のうち、一つが欠ける場合は、どの組み合わせでも「ダブル3」とは言わない。ここからわかるのは、まず、30本塁打と30盗塁の両方を達成する「30-30(サーティ・サーティ)」があって、さらに、打率が3割以上であれば「トリプル3」になるということだ。ちなみに、英語には「トリプル3」に当たる言葉がない。そもそも、こういう括り方をしていない。

 また、DH以外の野手は、打席に立って守備にもつくが、当然ながら「二刀流」とは呼ばない。大谷のチームメイトであるアルバート・プーホルスは、一塁手としてもDHとしても出場しているが、これも「二刀流」ではない。「二刀流」も、英語の「Two-Way Player(ツーウェイ・プレーヤー)」も、投手ありきだ。

 ベーブ・ルースは、同じ試合で、投手として投げ、野手として守り、打席にも立った(そして、ホームランを打ち、勝利投手にもなった)。ロレンゼンがやってのけた「三刀流」だ。けれども、来シーズン、大谷がそうするかもしれない「三刀流」、投手、DH、DH以外の野手(大谷の場合は外野手)のそれぞれとして試合に出場することは――それを「三刀流」と呼ぶか、投手と野手の「二刀流」とするかはさておき――ルースには不可能だった。ア・リーグがDH制を採用したのは1973年だ。この時、ルースはすでにこの世にいなかった。

 なお、北海道日本ハムファイターズ時代の大谷は、2013年と2014年の両シーズンに、投手、DH、外野手のいずれとしても、出場している。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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