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打者天国で奇跡が起きている!? ロッキーズからサイ・ヤング賞投手が生まれる日

宇根夏樹ベースボール・ライター
カイル・フリーランド(コロラド・ロッキーズ)Aug 11, 2018(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 この秋、カイル・フリーランド(コロラド・ロッキーズ)がサイ・ヤング賞を手にすることはないだろう。防御率2.90はリーグ5位にランクインしているが、1位には1.68のジェイコブ・デグローム(ニューヨーク・メッツ)がいて、アーロン・ノラ(フィラデルフィア・フィリーズ)とマックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)も2.30未満だ。

 ただ、フリーランドは、打者天国のクアーズ・フィールドを本拠地としている。これまで、ロッキーズで規定投球回をクリアして防御率3.00未満の投手は、2010年に2.88を記録したウバルド・ヒメネスしかいない。フリーランドの防御率は、この年のヒメネスとほとんど変わらない。

 また、ホーム防御率が3.00未満(50イニング以上)の投手も、2013年に2.76を記録したホルヘ・デラロサ(現シカゴ・カブス)以外にいない。フリーランドのホーム防御率は2.27だ(アウェーは3.44)。このままいけば、デラロサの球団記録を大きく塗り替える。

 フリーランドはメジャーリーグ2年目。25歳の左投手だ。4シームの平均球速は91~92マイル。他には、スライダー(カッターあるいはスラッター)、チェンジアップ、シンカー、カーブを投げる。各球種の投球割合は登板ごとにかなり違い、奪三振率と与四球率は平凡ながら、ゴロ率が高い。両コーナーに球を集め、打たせて取るスタイルだ。

 昨シーズンも、アウェーの防御率4.57に対し、ホームでは3.72を記録した。クアーズ・フィールドで成功している理由としては、グラウンド・ボーラーであることが挙げられる。それと、もう一つ。フリーランドはコロラド州デンバーで生まれ育った。大学はインディアナ州だが、高校まではデンバーで過ごした。クアーズ・フィールドに限らず、海抜1マイルの「マイルハイ・シティ」では、打球がよく飛ぶ。フリーランドはその環境に慣れ親しんでいる。

 打者天国で好投できれば、他でもそうできないわけがない。今シーズンの5月以降、フリーランドはホーム防御率2.32とともに、アウェーでも2.78を記録している。今シーズンは無理としても、ロッキーズからサイ・ヤング賞投手が生まれる日が、近づいているのかもしれない。

 ちなみに、サイ・ヤング賞の投票でポイントを得たことがあるロッキーズの投手は、1994年のマービン・フリーマン(4位タイ)と2007年のジェフ・フランシス(9位)、2010年のヒメネス(3位)だけだ。この秋、そこにフリーランドが加わることは、間違いないだろう。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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