Yahoo!ニュース

マリナーズの「ジャックZ時代」を振り返る。7年間のトレード、FA契約、延長契約、ドラフトから20選

宇根夏樹ベースボール・ライター
左から、ズレンシック、カノー、ロイド・マクレンドン監督。12/12/2013(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

シアトル・マリナーズは8月28日に、GMを務めていたジャック・ズレンシックの解任を発表した。ズレンシックのGM就任は、2008年10月22日。ミルウォーキー・ブルワーズでスカウト部長やGM特別補佐として手腕を揮ってきた「ジャックZ」に対する期待は大きかったが、前任のビル・バベシと同じく、マリナーズにポストシーズン(プレーオフ)進出をもたらすことはできなかった。昨シーズンはワイルドカード2枠目のオークランド・アスレティックスと1勝違い。今シーズンはまだ終わっていないが、マリナーズが2001年以来のポストシーズン進出を果たす可能性は、限りなくゼロに近い。

約7年間に及ぶGM時代に、ズレンシックは数多くのトレードを成立させ、FA契約や延長契約を交わし、ドラフト指名を行ってきた。経営陣の意向によってネルソン・クルーズの加入が1年遅れたことからもわかるように、ズレンシックがすべてをコントロールしていたわけではないし、選手の活躍や不振にはさまざまな要因が絡んでいる。それでも、「トレーダー・ジャック」と呼ばれたズレンシックが、ここに取り上げた動きに――もちろん、それ以外の動きにも――GMとして関わっていたことは間違いない。

■2008年12月3日―FA契約:ラッセル・ブラニヤン(1B)/1年140万ドル

ブラニヤンにとって、マリナーズで過ごした2009年はベストシーズンとなった。31本塁打と21二塁打を放ち、OPS(出塁率+長打率)は.867。マリナーズは再び1年契約を提示したが、複数年契約を望むブラニヤンは11月に却下。結局、翌年2月にクリーブランド・インディアンスと1年200万ドルで契約した。だが、その4ヵ月後にトレードでマリナーズへ復帰。以降の57試合で15本塁打と10二塁打、OPS.802を記録した。

■2008年12月11日―トレード(ニューヨーク・メッツ、クリーブランド・インディアンス):<獲得>フランクリン・グティエレス(OF)、ジェイソン・バーガス(LHP)、エンディ・チャベス(OF)、アーロン・ハイルマン(RHP)、マイク・カープ(1B)、エゼキール・カレーラ(OF)、マイケル・クレイト(RHP)<放出>J.J.プッツ(RHP)、ショーン・グリーン(RHP)、ジェレミー・リード(OF)、ルイス・バルブエナ(IF)

トレードのキーマンとして加入したグティエレスは、最初の2年間に計30本塁打、49二塁打、41盗塁を記録し、センターで好守も披露。マリナーズは2010年1月に4年2025万ドルで契約を延長した。しかし、2011年以降は度重なる故障に泣かされている。バーガスは2010年から3年続けて190イニング以上を投げ、いずれも4点前後の防御率を記録した後、ケンドリス・モラレスとの交換でロサンゼルス・エンジェルスへ。現在は、モラレスとともにカンザスシティ・ロイヤルズにいる。一方、放出した4選手は移籍先ではパッとしなかったものの、プッツは2010年にシカゴ・ホワイトソックスで甦り、2011~12年はアリゾナ・ダイヤモンドバックスで計77セーブを挙げた。バルブエナは2013~14年にシカゴ・カブスで計28本塁打を放ち、今シーズンはヒューストン・アストロズで22本塁打(9月13日時点)を記録している。

■2009年1月20日―トレード(ボストン・レッドソックス):<獲得>デビッド・アーズマ(RHP)<放出>ファビアン・ウィリアムソン(LHP)

アーズマはマリナーズで花開き、2009~10年に計69セーブを挙げた。ウィリアムソンは現在26歳。まだメジャーデビューはしていない。

■2009年2月18日―FA契約:ケン・グリフィーJr.(OF)/1年200万ドル

グリフィーは当時39歳。アトランタ・ブレーブスからも誘われていたが、マリナーズへ戻ってキャリアの最後を過ごすことに決めた。復帰1年目は0PS.735ながら、本塁打は19本。だが、1年235万ドルで再契約した2010年は、1本塁打も打てないまま、6月2日に引退した。その1ヵ月前には、試合中にクラブハウスで居眠りをしていたと報じられるなど、後味の悪い幕切れに。もっとも、殿堂に来年飾られる(ことが確実な)プラークでは、笑顔でマリナーズのキャップをかぶっているはずだ。

■2009年6月9日―ドラフト:ダスティン・アクリー(OF)/全体2位

アクリーは2011年にメジャーデビューし、90試合でOPS.766を記録したが、翌年以降は.700未満と伸び悩み、今年7月にトレードでニューヨーク・ヤンキースへ移籍した。2009年にマリナーズがドラフト指名した選手では、5人目のカイル・シーガー(3巡目・全体82位)が大当たり。メジャーリーグ2年目から今シーズンまで4年続けて20本塁打以上を放っているのみならず、その本数は毎年少しずつ増え、今シーズンも前年の25本塁打を上回る勢いだ。マリナーズは2014年12月に、シーガーと7年1億ドルの延長契約を交わしている。

■2009年7月29日―トレード(ピッツバーグ・パイレーツ):<獲得>イアン・スネル(RHP)、ジャック・ウィルソン(SS)<放出>ジェフ・クレメント(C)、ロニー・セデーニョ(IF)、ブレット・ロリン(RHP)、アーロン・プリバニック(RHP)、ネイサン・アドコック(RHP)

スネルは2007年に200イニングをクリアして3点台の防御率を記録したものの、その後は冴えず、マリナーズへ移ってからも低調だった。ウィルソンは移籍後、ニックネーム「ジャンピン・ジャック」の由来となった好守こそ披露したものの、パイレーツ時代に輪をかけて打てなかった。2011年はブレンダン・ライアンに遊撃を譲って二塁へ。そこでもアダム・ケネディに出番を奪われ、8月にアトランタ・ブレーブスへ放出された。一方、クレメントは2005年のドラフト全体3位だが、開花することなく、昨年4月に引退した。セデーニョはウィルソンがいなくなった遊撃を任され、2011年までパイレーツでプレー。こちらもレギュラーには物足りない打撃成績ながら、ウィルソンよりは上だった。

■2009年12月8日―FA契約:ショーン・フィギンス(UT)/4年3600万ドル

マリナーズ1年目のフィギンスは、前年と同数の42盗塁を稼ぎ、リーグ最多タイの17犠打も決めたものの、出塁率は.395から.340へダウン。その後は不振と故障でまったくいいところがなく、契約3年目が終わった時点で解雇された。マリナーズからすれば、最後の1年分だけでなく、少なくとも3年分の年俸をどぶに捨てたようなものだった。また、マリナーズはフィギンスとの契約に伴い、2010年のドラフトで全体18位の指名権を失っている。

■2009年12月16日―トレード(フィラデルフィア・フィリーズ):<獲得>クリフ・リー(LHP)<放出>フィリップ・オーモント(RHP)、タイソン・ギリース(OF)、J.C.ラミレス(RHP)

マリナーズはこのトレードの7ヵ月後にリーを放出したため、在籍は短く、登板は13試合ながら、その投球は素晴らしかった。103.2イニングを投げて与四球は6、防御率は2.34。交換要員のマイナーリーガー3人は、現時点でも26~27歳なのでまだ将来はあるが、メジャーリーグに定着した選手はおらず、ギリースはメジャーデビューすらしていない。ラミレスは今年7月にマリナーズへ戻った。リーを放出した2010年7月9日のトレードでは、マーク・ロウもテキサス・レンジャーズへ移籍。この時にマリナーズが得た4人のなかには、ジャスティン・スモークがいた。スモークは2014年10月にウェーバーにかけられ、それをトロント・ブルージェイズが獲得した。

■2010年1月19日―延長契約:フェリックス・ヘルナンデス(RHP)/5年7800万ドル

2010年にサイ・ヤング賞を受賞したフェリックスは、その後も「キング」としてマウンドに君臨。マリナーズとフェリックスは2013年2月に、この年から始まる7年1億7500万ドルの延長契約を交わした。今のところ勢いは衰えず、契約最終年の2019年(2020年は球団オプション)でも33歳にしかならない。

■2010年6月7日―ドラフト:タイワン・ウォーカー(RHP)/全体43位

エイドリアン・ベルトレーの退団で得た1巡目補完の指名権を使い、マリナーズはウォーカーを指名した。ウォーカーとジェームズ・パクストン(4巡目・全体132位)は、翌年に全体2位で指名されたダニー・ハルツェンとともに、ここ数年、マイナーリーグで「ビッグ3」と称されてきた。ハルツェンは故障もあってメジャーデビューしていないが、ウォーカーとパクストンは今シーズン、開幕ローテーションに入った。パクストンは5月下旬に故障して3ヵ月以上離脱したものの、ウォーカーはローテーションを守り続けている。

■2011年7月30日―トレード(デトロイト・タイガース):<獲得>チャーリー・ファーブッシュ(LHP)、キャスパー・ウェルズ(OF)、フランシスコ・マルティネス(3B)、チャンス・ラフィン(RHP)<放出>ダグ・フィスター(RHP)、デビッド・ポーリー(RHP)

フィスターはこの年、マリナーズでも防御率3.33を記録していたが、タイガース移籍後は防御率1.79。先発投手として羽ばたいた。マリナーズが獲得した選手では、ファーブッシュが2012年からブルペンに回って成功した。

■2012年1月5日―FA契約:岩隈久志(RHP)/1年150万ドル

岩隈は2012年の中盤からローテーションに定着し、以降はフェリックス・ヘルナンデスに次ぐ2番手として投げている。地元メディアはこの2人を「キング&クマ」と形容する。2012年11月に2年1400万ドルで再契約。今シーズンの年俸700万ドルは、その契約に付随する球団オプションをマリナーズが行使したものだ。今シーズンは故障で2ヵ月半離脱したが、8月にはノーヒッターを達成した。

■2012年1月23日―トレード(ニューヨーク・ヤンキース):<獲得>ヘスス・モンテロ(C)、ヘクター・ノエシ(RHP)<放出>マイケル・ピネイダ(RHP)、ホゼ・カンポス(RHP)

トップ・プロスペクトだったモンテロは、2012年に15本塁打を放ったが、その後は低迷。捕手としても成長できず、現在は一塁を守っている。ノエシは期待に応えられぬまま、マリナーズを去った。一方、ピネイダは移籍後、故障に泣かされ続けてきたが、今シーズンはローテーションをほぼ守り、2011年のブレイクがまぐれではなかったと証明している。

■2012年6月4日―ドラフト:マイク・ズニーノ(C)/全体3位

ズニーノは2014年に22本塁打を放つと、今シーズンも正捕手として開幕を迎え、前半戦に9本塁打を叩き込んだ。だが、打撃の粗さは改善されず、出塁率は前年の.254からさらに低下。8月下旬にAAAへ落とされた。

■2012年7月23日―トレード(ニューヨーク・ヤンキース):<獲得>ダニー・ファーカー(RHP)、D.J.ミッチェル(RHP)<放出>イチロー(OF)

ファーカーもミッチェルも期待値は高くなかったが、ファーカーは2013年に16セーブを挙げ、2014年は66登板で防御率2.66を記録した。ただ、今シーズンはメジャーリーグとAAAを行ったり来たり。ミッチェルはここ2年、独立リーグで投げている。イチローは5年9000万ドルの契約最終年だった。マリナーズで記録した2533安打、79三塁打、438盗塁は球団最多で、敬遠四球172度もケン・グリフィーJr.と並ぶ最多タイ。

■2013年12月12日―FA契約:ロビンソン・カノー(2B)/10年2億4000万ドル

契約1年目にカノーが記録した打率.314と出塁率.382は、前年とほぼ同じ。14本塁打は半減ながら二塁打は4本しか減っておらず、リーグ7位タイの37本を放った。契約2年目の今シーズンは前半戦に低迷したが、これは体調不良が原因だったようだ。後半戦はいつもの彼に戻っている。ただ、契約はあと8年も残っていて、最終年は40歳で迎える。

■2014年7月31日―トレード(デトロイト・タイガース、タンパベイ・レイズ):<獲得>オースティン・ジャクソン(OF)<放出>ニック・フランクリン(IF)

マリナーズにはデビッド・プライス獲得の噂もあったが、プライスがレイズからタイガースへ移ったトレードに絡み、ジャクソンを手に入れた。ジャクソンは移籍後の54試合で11盗塁を決めたものの、極度の打撃不振に陥り、スラッシュライン(打率/出塁率/長打率)は.229/.267/.260。今シーズンは持ち直したが、オフにFAということもあり、ズレンシック解任の3日後にシカゴ・カブスへ放出された。交換にマリナーズが得る選手は、まだ決まっていない。フランクリンは今シーズン、AAAでは57試合でOPS.853ながら、メジャーリーグでは32試合で.438。

■2014年12月4日―FA契約:ネルソン・クルーズ(OF)/4年5700万ドル

マリナーズはこの1年前にもクルーズと契約直前までいったが、経営陣が破談にしたらしい。2013年に薬物使用が発覚したことを嫌ったか。マリナーズは2013年12月に1年600万ドルでコリー・ハートと契約。クルーズは翌年2月に1年800万ドルでボルティモア・オリオールズへ入団した。どちらも右のスラッガーだが、ハートは故障もあって2014年は6本塁打に終わり、クルーズは40本塁打でタイトルを獲得した。クルーズは今シーズン、5試合連続本塁打を2度記録し、トータルの本数はすでに前年を上回っている。ミルウォーキー・ブルワーズがハートをドラフトで指名した時、スカウト部長を務めていたのはズレンシックだった。マリナーズが2015年2月に契約したリッキー・ウィークス(1年200万ドル)の指名時もそう。ウィークスは6月に40人ロースターから外され、解雇となった。

■2014年12月3日―トレード(トロント・ブルージェイズ):<獲得>J.A.ハップ(LHP)<放出>マイケル・ソーンダース(OF)

ハップはマリナーズで21登板(先発20、救援1)して防御率4.64。7月末のトレードでピッツバーグ・パイレーツへ移ってからは、7先発で防御率1.79を記録している。ソーンダースは故障により、9試合に出場しただけだ。

■2015年6月3日―トレード(アリゾナ・ダイヤモンドバックス):<獲得>マーク・トランボ(1B/OF)、ビダル・ヌーニョ(LHP)<放出>ゲイブリエル・ゲレーロ(OF)、ジャック・ラインハイマー(SS)、ウェリントン・カスティーヨ(C)、ドミニク・リオン(RHP)

トランボは移籍後の79試合で12本塁打。ヌーニョは救援と先発をこなし、56.0イニングで防御率3.21を記録している。一方、カスティーヨはトランボ以上のパワーを発揮し、67試合で17本塁打。ゲレーロは、トリプル・スリーを2度達成したブラディミール・ゲレーロの甥だ。

なお、マリナーズからボルティモア・オリオールズへ移って花開いたアダム・ジョーンズは、2008年2月に移籍している。当時のGMはズレンシックではなく、バベシだった。

マリナーズではシーズン終了まで、ジェフ・キングストンGM補佐がズレンシックに代わって職務を遂行する。新たなGMが決まるのは、オフに入ってからだ。今のところ、候補にはジェリー・ディポートの名前が出ている。ディポートは7月にロサンゼルス・エンジェルスのGMを辞任し、8月からはボストン・レッドソックスでコンサルタントとして働いている。ズレンシックがマリナーズのGMに就任した時、ディポートはトニー・ラカーバ、キム・アングとともに、候補に挙がっていた。現在、ラカーバはトロント・ブルージェイズのGM補佐で、アングはMLB機構にいる。また、ディポートの他には、マイアミ・マーリンズのダン・ジェニングス監督も、マリナーズの新GM候補として噂されている。ジェニングスは5月の監督就任まで、マーリンズでGMを務めていた。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

宇根夏樹の最近の記事