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今さらながら「打席」と「打数」について知っておきたいこと。「首位打者」や「連続安打試合」にも関わる話

宇根夏樹ベースボール・ライター

スタッツには「打席」と「打数」がある。「打席」は英語では「plate appearance(プレート・アピアランス)」、「打数」は「at bat(アット・バット)」だ。それぞれ、頭文字をとって「PA」「AB」と表記する。

「打席」はわかりやすい。例えば、ある試合でイチロー(マイアミ・マーリンズ)が、2回表、4回表、6回表、8回表に、それぞれ1度ずつバッター・ボックスに立ったとしよう。この場合、結果にかかわらず「打席」は4となる。

一方、その「打席」のすべてが「打数」に数えられるわけではない。メジャーリーグのルールはこう定義している。打者が「犠打」か「犠飛」を打った時、「四球」を得た時、「死球」を受けた時、「妨害による出塁」となった時は、いずれも「打数」には数えない。付け加えると、「四球」には「敬遠四球」も含む。「妨害による出塁」はたいてい、捕手による「守備打撃妨害」だ。

従って、2回表が「犠打」、4回表が「犠飛」、6回表が「四球」、8回表が「死球」であれば、この試合のイチローの「打席」は4だが、「打数」はゼロとなる。

「打率」を算出する計算式は「安打÷打数」、「長打率」は「塁打÷打数」だ。「塁打」は「単打+二塁打×2+三塁打×3+本塁打×4」で計算できる(「単打」であって「安打」ではない)。「出塁率」の計算式は「(安打+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)」。こちらにも「打席」は出てこない(分母は「打席-犠打-妨害による出塁」という見方もできる)。

では、「打席」はいつ使うのか。いくつかあるが、しばしば出てくるのが「規定打席」だ。「打率」「出塁率」「長打率」などの順位を示す時に、「規定打席以上の打者中1位」といったように用いる。「規定打席」は「所属チームが行った試合×3.1」。所属チームがレギュラーシーズンに162試合を行えば、162×3.1=502.2で、「規定打席」は502となる。

ちなみに、「規定打席」に届かなくても、首位打者の獲得はあり得る。不足分の「打席」をすべて凡退として計算しても、その「打率」が、リーグで「規定打席」をクリアした他の打者を上回った場合だ。

1996年に162試合を戦ったサンディエゴ・パドレスにおいて、トニー・グウィンSr.は116試合に出場し、498打席で打率.353(451打数159安打)を記録した。「規定打席」に足りない分を凡退して計算すると「打数」は4増えて打率.349(455打数159安打)となるが、それでも、コロラド・ロッキーズのエリス・バークスが記録した打率.344(613打数211安打)を凌ぐ。この年、グウィンは首位打者のタイトルを手にした。

2012年のナ・リーグの首位打者も、本来ならバスター・ポージー(サンフランシスコ・ジャイアンツ)ではなく、彼とチームメイトのメルキー・カブレラ(現シカゴ・ホワイトソックス)が得るはずだった。ポージーの打率.336(530打数178安打)に対し、メルキーは打率.346(459打数159安打)。メルキーの「打席」は501だったが、460打数159安打として計算しても、打率は.346のままだ。

ただ、メルキーは薬物の陽性反応によって、8月半ばから50試合の出場停止処分を受け、9月下旬には首位打者を辞退することが発表された。その時点のナ・リーグの打率ランキングは、メルキーを除くと、ピッツバーグ・パイレーツのアンドルー・マッカッチェン(打率.339)がトップにいて、ポージー(打率.335)はその次だった。

なお、「連続安打試合」が継続するかどうかについては、こう定められている。その試合のすべての「打席」の結果が、「四球」「死球」「守備打撃妨害」あるいは「犠打」のいずれかであれば、ストリークは途切れずに持ち越しとなる。例を挙げると、アルバート・プーホルス(ロサンゼルス・エンジェルス)はセントルイス・カーディナルスにいた2003年に、31試合で30試合連続安打を記録した。この31試合の2試合目は、1打席目に「死球」を受け、代走と交代した。

もっとも、「打数」に数えない結果のなかでも、「犠飛」だけは扱いが違う。その試合の「打席」すべてが「犠飛」なら、「打数」がゼロであってもストリークは途切れる。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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