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大谷翔平、見送るべきは残り試合の打者での出場、必要なのは最終戦での登板

豊浦彰太郎Baseball Writer
最近の「投手大谷」は、正に将来のサイ・ヤング受賞の可能性を感じさせる(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

1918年のベーブ・ルース以来の「10勝&10本塁打」にあと1勝に迫っていた大谷翔平は、今季残り試合での登板を見送るようだ。勤続疲労を考慮すると致し方ない気もするが、むしろDHでの出場を見合わせ、十分な休養を取っての最終戦登板を選択して欲しかった。

今季の大谷の鉄人ぶりは空前にして絶後だ。チームは現地9月29日現在158試合を消化しているが、投手としての23先発を含め145度スタメンに名を連ね、途中出場も加えると154試合に出場している。これが、チームナンバーワンの投球回数を誇るエースの出場数なのだから恐れ入る。

もっとも、大谷は怪我と無縁の選手ではない。NPB時代も含め、昨季まで4年連続で大きな故障を経験している。したがって、ポストシーズンの可能性が完全に消え失せたエンジェルスにあって、二刀流でのフル出場を強行する必要はない。

しかし、その場合封印すべきは登板ではなく、打者としての出場だと思う。前半戦飛ばした打者大谷だが、8月以降は失速した。本塁打のペースだけでなく、打率や三振率も悪化している。単なるスランプというよりガス欠を感じさせる。

それに対し、投手大谷はシーズンが深まるに連れ進化してきた。単に「好調」というだけでなく、豪速球の荒れ玉型から球速をややセーブし制球に意を払うクレバーなエースに変貌した。正直なところ、球宴に投手としても選出されたのはその時点での成績からして、MLBの堕落としか思えなかったが、仮に球宴が10月に開催されるなら胸を張って登板できるだろう。

かつて、あのイチローは大谷のポテンシャルに関し「ある年は打者としてMVPを、翌年は投手としてサイ・ヤング賞を狙える」と評したが、後半戦の投球ぶりは正に来季以降のサイ・ヤング受賞を期待させるものだった。

「登板回避は大谷自身の意思」との報道もあるが、不要な登板は身体への負担を考慮して回避とのスタンスに立つなら、首脳陣は前回登板の9月26日のマリナーズ戦では6回終了98球の時点で降板させるべきだったし(7回も続投し112球を投げたが同点本塁打を浴びた)、9勝目を挙げた9月3日のレンジャーズ戦で、すでにチームはポストシーズン出場は絶望的であったのに117球も投げさせるべきではなかった。

タイトルの行方は最後まで分からないが、本塁打数では48本でトップのサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)に3本差を付けられている。残り4試合で追いつくのは難しい、と考えるべきだろう。

本塁打王になれなくても、ルース以来の「10勝&10発」を達成できなくても、今季の大谷翔平のパフォーマンスは十分すぎるほど歴史的だった。残りの4試合において、記録に拘るより無理をしないことを重視するのは立派な見識だが、「どちらか」にするならに「投手大谷」であって欲しかった。故障の兆候がないことが前提だが。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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