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「ちょっとマイアミ行ってきた」WBCの侍ジャパン世界奪還以外も見極めに

豊浦彰太郎Baseball Writer
観戦したファンにとっても、人生で数度もない経験だった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ちょっとマイアミに行ってきた。もちろん、WBC観戦だ。3日間で準決勝2試合と決勝を見届けた。

侍ジャパンは世界一?

日本は全勝で決戦の地マイアミに乗り込んだ。逆転サヨナラの対メキシコ準決勝を経て、決勝では大谷翔平がマイク・トラウトを三振に打ち取って優勝を決めるという、日本流に言えば「マンガ」、あちら風なら「ハリウッド映画」のようなストーリー展開だった。

「アメリカを下して真の世界一」は、日本プロ野球にとって産声を上げた時からの夢だった。これは素直に喜びたい。

もっとも、今回のチームUSAは当初謳われたような「銀河系集団」だったのか、という声もある。トラウトを始め、ムーキー・ベッツやポール・ゴールドシュミットらMVP受賞者がラインナップに名を連ねるが、ブライス・ハーパーの欠場は手術の影響のため致し方ないとしても、アーロン・ジャッジの姿はない。

投手陣に目を移せば、クレイトン・カーショウが保険問題で欠場を余儀なくされ、中の上クラス中心の編成だった。ジャスティン・バーランダーもマックス・シャーザーもゲリット・コールもアーロン・ノラも居ない。

しかし、このような世界大会においては、「編成力も実力のうち」と言えるのではないか。スター選手が揃いにくいのは、彼らのあまりにも高い年俸のせいかもしれない、MLBという舞台自体が基本的にアメリカであるため、母国のために馳せ参じたいというメンタリティの選手の比率が、他国に比べ相対的に低いのかもしれない、またはそれ以外の理由かもしれない。

いずれにせよ、これまでの計5回の大会で、今回も含め真のドリームチームであったことは一度もない。「ジャッジやカーショウらが参加したらもっと強かったはず」という意見が出てきてもそれは言い訳でしかない。自国代表となり得る選手たちの中から最大限のタレントを集める能力と、勝利を目指すチーム内のケミストリー醸成力は、日本の方が優っていた、ということだろう。

日本人、日本人、日本人!

WBC決勝ラウンドには、第2回大会から全て現地に足を運んでいるが、日本人ファンはダントツに今回が最多だった。過去の西海岸開催時とは異なり、直行便のないマイアミであったことを考えると驚異的だった。

ぼくは、ホテルは、開場のローンデポ・パークに歩いて行ける(30分近くかかるが)コテージ風の安宿を取ったが、それほどコアなファンとも思えない女子グループも数組見かけた。彼女らはもちろん侍ジャパン関連のギアを身につけていた。

試合開始前に座席で撮った写真を日本でテレビ観戦している友人に送ったら、「ちょうどその辺りに、(ぼくは知らない)友人がいるので探して声を掛けて欲しい」とのメッセージがその人物の写真と共に帰ってきた。

しかし、日本人がポツンと居るならともかく、ぼくの座席周辺は完全にリトルトーキョー化していた。「ちょっとそれは無理ですね」と返信した。

優しかったメキシコ、アメリカのサポーター

今回の日本戦2試合、感銘を受けたのが対戦相手のメキシコやアメリカのファンの温かさだった。試合中は彼らもかなり熱くなって応援していたのだが、終了後はその多くが素直に祝福してくれた。決勝で、試合中に何度もピーナッツをおすそ分けしてくれた隣席の60代と思しきアメリカ人男性は、試合終了後Congratulations!と言って握手と共に小さな物をぼくの手のひらに包ませた。それはアメリカ国旗のピンバッジだった。

チケットが届かない!

今回の決勝ラウンドのチケットは、某有名チケット再販サイトで購入した。もちろん、正価より高く、そこに無視できない手数料が乗るのだが、公式サイトでの発売後間もなく完売になってしまったので、致しかたなかった。

その3試合中、準決勝の2試合のチケットはものの数日で電子転送されてきたのだが、肝心の決勝は渡米の時期が近づいてもその気配はなかった。その再販サイトの謳い文句によると「前日までの転送」がスタンダードとのことだし、購入したチケットが届かないということがあるとそのサイトの信用問題になるので、それほど不安はなかった。

しかし、実際に試合前日ともなると、不安なことこの上ない。意を決し、カスタマーセンターにメールした。その後かなりの数のメールのやり取りと電話の直接交渉が功を奏し、試合当日の午前11時(試合開始の8時間前)にようやくぼくのスマホにチケットが届いた。

チケットの提供者が予定通りに転送してくれない事態は、本来あり得ると思う。問題は、その場合のサイト運営社の対応だが、これはプロフェッショナルだったと言っておこう。最悪の事態は絶対回避する、という彼らの執念が伝わってくる対応だった。

もっとも、カスタマーセンターとのやり取りは、当然ながらメールも電話も英語だ。ぼくの英語力は決して自慢できる程ではないが、いざという際には問題に対処できる水準ではあったようで助かった。

ベースボールの将来のために

日本の野球界にとってはもちろん、お金儲けに熱心なMLBとしても、限りなく大成功と言える大会になった。MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは、早々と2026年の次回開催を発表した。それ自体はメデタシ、メデタシなのだが、侍ジャパンの世界一奪還や、収益拡大を喜ぶだけでなく、この素晴らしい競技の発展と普及という大義は忘れてほしくないと思う。実質的主催者のMLBとMLB選手組合だけでなく、優勝率6割の日本にもその任務を担う権利と義務はあるのではないか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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