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五輪本番では、侍ジャパンには悲壮感漂う犠打重視ではなく、WBSC1位らしい戦い方を期待したい

豊浦彰太郎Baseball Writer
壮行試合とは異なり、本番は無観客だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

侍ジャパンは、壮行試合では日本伝統の犠打重視の姿勢を披露したが、これは世界の価値観とは異なるものだ。本番では、世界ランク1位に相応しい戦い方を期待したい。

4連休最終日となる25日(日)の午後、東北新幹線で仙台に向かった。侍ジャパン壮行試合の対巨人戦を、楽天生命パークで見届けるためだ。

到着時には夕刻だったこともあり、うだるような暑さの都内に比べると格段に凌ぎやすい。屋外の天然芝球場での暮れなずむ時間帯の美しい夕暮れと凪、コンセッションスタンドからの食欲をそそる匂い。侍ジャパンの戦いぶり以前に、夏のボールパークでのかけがえのない時間だった。またいつもの日々が戻って欲しい、と心から感じた。

試合は5対0で侍ジャパンの快勝だったが、気になる点もあった。

初回、先頭打者の山田哲人が中前打で出塁すると、2番の源田壮亮はキッチリ犠牲バント。巨人先発の直江大輔のエラーを誘い、先制のお膳立てとなった。源田は4対0の7回も、無死二塁の場面で犠牲バントを決め、ダメ押しの5点目に結びついた。伝統的な日本式2番打者のGood jobだった。

日本らしい堅実な戦い方だ。しかし、メジャーでは本塁打王争いをリードする大谷翔平が2番を打つ。犠打は、早い回では統計学的に、点差が開いた終盤ではスポーツマンシップの観点から控えるのが世界的には一般的なこの時代に、若干の違和感も残った。

この試合はオープン戦であるため、来る本番での戦い方を念頭に、点差に関係なく一通り試しておきたかっただけかもしれない。しかし、本番に於いても、序盤戦の犠打や、タイブレークでは判で押したようにまずバント、というのは十分あり得る展開だと思う。個人的には、侍ジャパンにはこのような戦い方をして欲しくない。

率直に言って、五輪野球競技で、今回に照準を合わせ過去数年研鑽を積んできたのは日本だけだと思う。他の多くの競技では、東京大会を目指して厳しい戦いを勝ち抜いて出場権を得たアスリートの五輪への思い入れは並々ならぬものがあるだろう。

しかし、野球の場合、残念ながら現役メジャーリーガーが一切出場していないため、日本以外の多くの出場国は、ベストなナショナルチームとは言い難い。もちろん、試合が始まれば彼らの闘争心に火がつくだろうが、本当の来日の目的は、ベテラン選手の場合はNPBやその他プロリーグのスカウトへのアピールであったり、若いマイナーリーガーの場合は早期昇格のために目立っておきたい、というところだろうか。良し悪しは別にして、現在の野球世界大会は、プレミア12も含めこれが実態だ。WBC(果たして次回はあるのだろうか?)の場合はメジャーリーガーは出場するが、本当のトップ選手は出場を回避する傾向にあるのは間違いない。

このことは、もちろん侍ジャパンの責任では無いのだけれど、そのような環境下、悲壮感すら漂わせた戦い方に100%共感するのは難しい。

大相撲の世界では、7月場所で横綱の白鵬が45回目の優勝を果たしたが、彼の張り手を多用する取り組みに対し「横綱らしくない」という批判も少なくなかった。大相撲は純粋な競技としての価値観のみで成り立っている訳では無いため、野球を考察する参考事例としては不適かも知れないが、やはり侍ジャパンにはWBSCランキング1位としての戦い方を期待したい。世界の価値観をリードする戦法を取って欲しい。これは、ベースボールか野球か、というこのゲームに対する解釈と美学によって答えは異なるのだけれど。

壮行試合を見届け最終の新幹線で帰京したが、車内で試合の余韻に浸りながらそんなことを考えた。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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