Yahoo!ニュース

イチローに捧げられた開幕戦、ドロドロロンドン、本塁打多過ぎ「2019年MLBの◯と× (出来事編)」

豊浦彰太郎Baseball Writer
引退会見でのコメントは多くの共感を呼んだ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

2019年のMLBを代表する出来事や傾向を一刀両断する。イチローの引退試合には感動だけでなく問題はないのか?多過ぎる本塁打も野球進化の過程の姿と捉えれば悪くない?

引退イチローに捧げられた開幕戦シリーズ ×

東京ドームを埋めた大観衆の願いは届かず。プレシーズンマッチ2試合も含め、日本ではそのバットから快音は響かなかった。昨季は5月初旬から実戦を離れたこと、今年のアリゾナでのオープン戦でも結果が出ていなかったこと、45歳という年齢、それらを総合的に考慮すると、やむなしの結果だったかもしれない。一旦守備位置についてからの退場というメジャー流のお別れ、長時間の試合後も残り続けたファンへの感謝の場内一周、深夜の長時間会見での深いコメントの数々、イチローは多くの感動を提供してくれた。

しかし、もはや戦力とは言えない彼に貴重な公式戦登録枠だけでなく、スタメン出場の機会まで与えてしまったことの是非は、もっと議論されるべきだったと思う。公式戦の尊厳よりマーケティングを優先したという点では、MLBはパンドラの箱を開けてしまったとも言えるだろう。

空前の本塁打ラッシュ ◯

今季、乱れ飛んだ本塁打は6776本。過去最高だった2017年の6105本を一気に更新した。全30球団中15球団がチーム新記録を樹立。4球団が昨季のヤンキースのメジャー記録267本を超え、ツインズとヤンキースは300発以上を記録した。

多すぎる本塁打は野球本来の魅力を損なうとの指摘もある。しかし、野球は変わり続けるものだ。本塁打過多は、「ボールが変わっている」からかはさておき(MLBは当初は否定していたが、その後縫い目が低くなっていたことは認めたようだ。ただし、それは製造上の誤差だとしており意図的ではないとしている)、「フライボール革命」等の新しい打撃理論の流行や映像・計測・分析技術の進歩に依るところも大きい。恐らく、現在の状況も野球の終着駅の姿ではない。今後も続く変化、革新、進化の過程なのだ。近い将来、現在とは異なる状況は必ず出てくる。そう考えると、本塁打と三振ばかりの今年の状況も否定する気にはなれない。

米ドラ1、スチュワートNPB入り ◯

2018年に米ドラフト1巡目指名を受けた(契約に至らず)当時高校生の右腕カーター・スチュワートが、6年総額700万ドルでソフトバンクと契約した。背景には、彼の故障歴とともに米球界の事情があった。本格的に稼げるのはメジャー在籍6年を経てFA 権を得てからであり、通常は在籍3年後である年俸調停権を得るまでは、メジャー最低年俸(2019年の場合は55.5万ドル)を甘受しなければならないのだ。

したがって、ホークスとの契約でスチュワートとその代理人であるスコット・ボラスは確実な果実を手に入れたと言える。NPBでずっと過ごしていれば7年目以降も年俸は4〜5億円がせいぜいだろうが、その頃にはホークスにポスティングを要求するだろう。それを球団が受けるかどうかは別問題だが、6年間しっかり活躍してくれれば、ホークスとてその後故障に見舞われるリスクを負うくらいなら、しっかりポスティングフィーをもらいメジャーに移籍してもらった方が良い、という考えも成り立つ。これは、新しいビジネスモデルになるかもしれない。

しかし、スチュワートにはまだ実績はなく、故障の懸念や日本文化への適応など不安要素も少なくない。上記の可能性はあまりに多くの仮定の上に成り立っている。スチュワートとソフトバンクはそこに存在する価値をシェアしたのではなく、まだありもしない将来の仮定の利益のためにそれなりのリスクを背負うことになった、とも言えるのではないか。

ナショナルズ歴史的逆転優勝も当然? ◯

最初の50試合で31敗、ワールドシリーズ制覇の確率は0.1%だった時期もあった。数字的には奇跡だが、開幕時点での下馬評は悪くなかったことを見落としてはいけない。スティーブン・ストラスバーグ、マックス・シャーザーらを要する先発投手人は強力で、ブライス・ハーパーのFA流出も、年俸総額の余裕を生むだけでなく超有望株のビクター・ロブレスにフル出場の道を拓くことを指摘する専門家は少なくなかった。

独立リーグで新ルール実験スタート ◯

MLBは、独立リーグのアトランティック・リーグと3年間の提携契約を結び、今季から数多くの新ルール実験を開始した。そのうちのひとつ、「投手はイニング完了か3人の打者との対戦を終えないと交代できない」は2020年からMLBでも実施される(実験開始前から2020年導入は事実上決まっていたが)。また、「ロボ審判」は、若手有望株によるアリゾナ秋季リーグで試験導入され、2020年はマイナーリーグの一部でも導入される。アトランティック・リーグでは、2020年からバッテリー間2フィート(約60センチ)延長というラディカル過ぎる試みも開始される。新ルールを個別に捉えると賛同しかねるものもあるが、「ベールボールをよりエキサイティングに」という試みは評価されるべき。NPBはMLBに追従するだけだ。

ドロドロのロンドンシリーズ ×

6月末、普段はサッカー場のロンドン・スタジアムで、レッドソックス対ヤンキースという黄金カードが2試合開催された。ぼくが購入した「ほぼ外野の内野席」でも邦貨換算で4万円超とチケットはバカっ高だったが、2試合ともほぼ満員だった。ただし、肝心のゲームは、長過ぎる試合時間(2試合とも軽く4時間超え)多過ぎる投手交代、安っぽい本塁打の乱発など、現代野球の悪い面が全て出た内容だった。営業戦略的には二重丸も野球の魅力を欧州に届けるという観点からは、フィールド上のクオリティには大きな×を付けざるを得なかった。

タイラー・スキャッグス 死去 ×

7月1日、遠征先のホテルのベッド上で遺体で発見された。エンジェルスはスキャッグス の死後はじめてのホームゲームでは全員が彼の背番号45を背負い、継投によるノーヒッターを達成した。その後、死因としてスキャッグスの薬物摂取が明らかになった。悲劇→感動ドラマでの勝利→薬物使用の判明、という点では、2016年にボート事故で死亡したホゼ・フェルナンデスと同様だ。

戦力の両極化 100勝も100敗も4球団 ×

アストロズ、ドジャース、ヤンキース、ツインズが100勝以上。一方で、オリオールズ、タイガース、ロイヤルズ、マーリンズが100敗を超えた。最もファンを引きるけるのは、全球団の戦力が限りなく拮抗することによるハラハラドキドキ感である。その点では今季のペナントレースには大きな×が付く。贔屓球団が強すぎるのも、長期的にはファンの関心を薄めてしまうものだ(1990年代全盛期のブレーブスが典型)。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事