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MLB282発、オリ新外人ジョーンズは差別に敢然と立ち向かった「モノ言う」正義漢でもある

豊浦彰太郎Baseball Writer
自慢のパワーは近年少々衰えぎみだが・・・(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

オリックスの新外人アダム・ジョーンズを語る際に見落とせないのが、かつて差別に敢然と立ち向かった熱いキャラだ。それが、ともすれば媚びることが「適応」と解釈される日本社会にマッチするかは少々心配だ。

メジャー通算282本塁打&ゴールドグラブ4度受賞のアダム・ジョーンズがオリックスとの契約に合意した、との報が流れた。来季途中には35歳となりここ2年はジリ貧の印象は拭えないが、大物であることには変わりない。全盛期はパワー&スピード、そして守備力を併せ持ったスターだった。日本のファンに説明するなら、かつて楽天に在籍した「アンドルー・ジョーンズを一回り小物化したくらいの大物」という表現でご理解いただけるだろうか。

彼の本質を語る際に、その優れた身体能力を利した実績以外に見落とせないポイントがある。それはキャラクターだ。何も扱いにくいワガママ者ということではない。ある意味その正反対の正義感を持つ男なのだ。それが、出る杭は打たれ、ともすれば媚びることが「適応」と解釈される日本社会、NPBにマッチするかは少々心配している。

2017年5月のことだ。当時オリオールズに在籍していたジョーンズは、ボストンのフェンウェイパークで観客に人種的侮蔑行為を受けたとメディアにぶちまけ、このことは全米に波紋を広げた。

ぼくは、その時彼は心底立派な人物だと感心した。人種差別の現実をちゃんと言葉として伝えてくれたからだ。その後、他の多くのアメリカ黒人、ラテン系選手が同様な経験を告白した。彼らは、その後の社会的反応を考慮し公言を控えていたのだ。それまで口を閉ざしていたことを非難することはできない。彼らは野球選手であり、人権活動家ではない。人種問題はあまりに根が深く、この問題を取り上げた後に想定される事態にしっかり向き合うことは相当な覚悟を要する。一人が声高に叫んだところで、この問題は解決しない。ならば、不満や理不尽を感じながらも黙っていた方が賢明だ、とも言える。

しかし、ジョーンズはその困難との対峙を厭わなかった。彼は思慮の末、社会正義のためにこの事例を公にしたのではなく、衝動的なものだったのかもしれない。しかし、彼が怒れるマイノリティであることは確かだ。

その前年、白人警官が黒人を射殺したことが発端となり、全米各地でBlack Lives Matter(黒人の生命を軽視するな)をスローガンとする抗議運動が起こった。この動きはスポーツ界にもおよび、NFLでは多くの選手が試合前の国歌斉唱時に起立をしない、ということで抗議の意思を示した。ところがこの動きがMLBでは広まらない。その際に、ジョーンズは「野球は白人のスポーツだからだ」と発言し物議を醸した(近年のMLB はチケットが高騰したこともあり、観客のほとんどは白人層だ)。

ただし、アダム・ジョーンズという人物を単に「闘う人権論者」とだけ捉えるのは正しくない。彼の言動の多くはチーム優先の視点に立ったもので、積極的にリーダーシップをとる人格者としても知られている。

彼は「沈黙は金」という考えは持っていないし、正義感は人一倍だ。そのキャラをオリックスがしっかり理解し活かしてあげることができれば、フィールド上のパフォーマンスだけでなく、若い選手の手本としてもチームの財産になるだろう。ただし、不条理を黙って受け入れることはないだろうし、長いものに巻かれることもないはずだ。その起用法や私生活も含めた対応については阿吽の呼吸など求めず、誤解なきよう具体的にしっかりコミュニケーションを取るとともに、フェアネスを心がけることが必要だろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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