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吉本興業騒動と大船渡 佐々木投手の起用論争の妙な共通点

豊浦彰太郎Baseball Writer
選手の健康管理は高校野球の大きな課題だが、抜本的な改革に自発的に着手できるか?(写真:岡沢克郎/アフロ)

先週、世の中の注目を集めたワイドショー的ネタに、吉本興業問題と大船渡高校の佐々木朗希投手の起用を巡る議論に象徴される高校野球の健康管理問題がある。この二つ、似通った部分もある。

望まざるも変わらざるを得ない吉本興業

ぼくは、吉本興業問題を論じるほど芸能界事情に詳しくはないのだけれど、バッシングの矛先が闇営業芸人から吉本の経営体制に移ってくると、つい数ヶ月前まで面白おかしく文字通りネタにされていた同社のブラック経営ぶりが急に問題視されることになったのは興味深かった。

契約書が存在しないことや事務所9に対し芸人1ともいわれるギャラの配分比率も、ちょっと前まで「吉本はおもろいで」とみんな捉えていたのに、今や劣悪な労働環境の象徴として轟々たる非難を浴びている。恐らくこのまま沈静化を狙うのは不可能で、吉本の吉本たる部分に何らかの変革が加えられることになるのだろう。

自ら変革は出来ない高校野球の健康管理

もう一つは佐々木投手問題だ。個人的には4回戦で194球も投げさせたことの是非が大いに問われてしかるべきだと思うが、世間の議論は決勝での登板回避に集中している。しかし、それはそれで高校野球の残酷ショーとしての部分に世間の注目が集まったということで、全く意味がないわけではない。

高校野球には、酷暑の中での開催、過密日程、多すぎる投球数など、主として健康管理の面で問題が多い。それらは、2014年にアメリカのジェフ・パッサン記者が済美高の安楽智大投手の投げ過ぎを「虐待」と報じて、ようやく議論の機運が高まった。2018年には氏原英明氏の「甲子園という病」が出版され、大きな反響があった。しかし、それらの健康管理上の問題点は、湿っぽいお涙頂戴的ドラマとしての高校野球を構成する重要な要素であることも間違いない。コンテンツとしての夏の高校野球全国大会を考える際に、ナイトゲームを標準化したり、会場を京セラドームに移したり、ダルビッシュ有が提案するように5月あたりからの休養日をしっかり確保した日程での開催にしたり、開会式を廃止したりしたら、スポ根自己犠牲ショーとしての体裁が整わなくなってしまう。

改革論をぶち上げるのは簡単だが、汗と涙の感動人間ドラマの側面がなくなってしまうと困る人たちが多すぎる。朝日新聞も、NHKもテレ朝も決してそれを望んでいない。主としてネット上で識者とされる人たちが唱える改革論は恐らく正しい。しかし、それは残念ながら実現しない。その改革がなされると困る人たちがあまりに多いからだ。利権に群がる人たちだけでなく、高みの見物の一般市民の多くもそれを望んでいない。何せ未だに24時間テレビがそれなりに受け入れられているのだから。

高校野球が変わるとしたら・・・

しかし、時代の流れにあまりにもそぐわない運営は必ずいつか破綻する。本音と建前が両立していたのは昭和の話で、平成の30年間でそれらは揺らぎ始めた。おそらく令和の時代ではそれは通用しない。

吉本に話を戻すと、彼らは自身のいわゆるブラックな部分を自らの認識と行動力で改革していくことはできなかった。いまや、政府のプロジェクトにも関与し多大な補助金を受け取るようになったようだが、その体質の根幹をなす部分は「ひょうきん族」の頃から何も変わっていなかった。そんな吉本を変わらざるを得ない状況に追い込もうとしているのは、スキャンダルを起因とする世間からのバッシングだった。

別に芸能評論家でもお笑いマニアでもないぼくは、吉本がどうなろうが構わないのだけれど、野球界はそうなって欲しくない。高校野球界にも問題は多いが、それそのものに憎しみは全くない。今のままでは、そのうち吉本のように大きなスキャンダルが発生し、それに起因するバッシングにより崩れ落ちるように変わってしまうという可能性もありそうだ。そのきっかけとなる出来事が、健康管理問題への抜本的な対策に二の足を踏んでいるうちに発生する事故でないことを祈るばかりだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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