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レイズ、タンパベイ&モントリオールの2都市本拠地案は理想の姿と言えるか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
モントリオールの春先、秋以降の冷え込みは半端ないが・・・(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

レイズが驚きのプランを検討している。開幕は現在のフロリダで迎え、途中からはモントリオールで戦うというものだ。斬新なアイデアだが、実現に向けた課題は多い。

レイズが検討中のプランとは、シーズンの開幕は現在と同じフロリダのタンパベイエリアで迎え、途中からはカナダのモントリオールを本拠地として戦うというものだ。しかも、両都市とも新球場になるという。すでにMLB機構から検討許可は得ているというが、果たしてこれは同球団が目指す理想の姿なのか、それとも最終的な転出を前提とする暫定措置なのか。

レイズに遠い「約束の地」

レイズは、年俸総額が約6500万ドルと全球団中最低クラスでありながら、その対極にあるヤンキースと互角に戦い、ア・リーグ東地区の首位を争っている(ここに来てちょっと離されているが)。大したものだ。しかし、その観客動員は悲劇的で、1試合平均では1万4500人強でしかない。これも、サラリー同様にメジャー最低クラスだ。

不入りの理由には多くが挙げられるが、人工芝で密閉式ドームの本拠地トロピカーナ・フィールドの魅力のなさが含まれることは間違いない。

地元セントピータースバーグ市との同球場リース契約は2027年まで残っている。地元に留まることを条件に、これまで何度か新球場プランをレイズは発表したが、いずれも資金調達の目処がつかずお蔵入りになった。

今回のプランも新球場建設を前提とするなら、また頓挫するではないのか?そして、新球場建設に固執しながら、なぜモントリオールとのダブルフランチャイズなのか?

2都市本拠地案は建設費低減策

そのカラクリはこうらしい。夏場の暑さと雨の多さがネックで屋根とエアコンディショニングが望ましいタンパベイエリアでの開催は、開幕から暑さが本格化する時期までとする。それなら、ルーフも空調もなしでなんとかやっていける。そして、その頃になれば、4〜5月は冷え込みが厳しい日の多いモントリオールも暖かくなっており、こちらもドーム構造でなくてもOKという算段のようだ(閉幕の頃には、モントリオールに早くも「冬将軍」がやって来るが)。

要するに、このダブルフランチャイズ構想は、必須と思われていた屋根を付けないことによる建設費節約計画でもあるというのだ。しかし、この一見斬新なアイデアにも課題は多い。

シンプルな構造の新球場ならタンパベイエリアでも建設資金を調達できるかもしれないが、本格的な夏場を迎える前にそこでのベースボールシーズンは終わってしまうのだ。そうなると、球場がもたらす収入も理論上半分どまりだ。屋根のない施設では、野球以外でのイベントでの活用も制限される。その新球場の維持は並大抵ではないだろう。そもそも半期しか居てくれない球団を、ただでさえ盛り上がりに欠けるファンが熱心に支持してくれるだろうか。それ以前に、セントピータースバーグ市は、「現契約が満了するまでは、このようなプランは絶対に承認しない」とおかんむりだ。

MLB再誘致に熱心なモントリオール

モントリオールサイドはどうだろう。

2004年を最後に、エクスポズがワシントンDCに転出しナショナルズとなった。それ以来、空き家となったモントリオールは、近年MLBの再誘致に力を入れて入る。2014年以降、開幕前の恒例行事となったプレシーズンマッチ(現在唯一のカナダに本拠地を置く球団のブルージェイズによる主催)は、大観衆を集めている。

以前のエクスポズ時代の反省から?地元財界のバックアップ体制も充実しているようだ。そんなモントリオールは、エクスポズの本拠地だったオリンピック・スタジアム(1976年の五輪メイン会場を野球用に改造したものだ)の評価が最悪だっただけに、球団誘致の前提が魅力的な新球場の建設であることを十分すぎるほど自覚している。加えて春先と秋口は極寒ながら夏は蒸し暑い気候だ。固定にせよ、可動式にせよ屋根と空調施設もMustで「織り込み済み」のはずだ。そんなモントリオールが、建設費用が安くあがることに飛び付き、半期だけの本拠地球団で良しとするのだろうか。

モントリオールに屋根付きの新球場ができれば、レイズはタンパベイエリアにも本拠地を置いている必要性はなくなってしまう。ここから先は邪推の域を出ないのだが、本音のシナリオは最終的なモントリオールへの移転を実現するための暫定措置かもしれない。

ダブルフランチャイズにせよ、モントリオールへの完全移転にせよ、事態は動き出しつつあるようだ。現在のモントリオールのMLB誘致活動の先頭に立っている地元の実力者スティーブン・ブロンフマンがレイズの株式の一部を取得し、マイノリティ・オーナーとして球団経営に加わることが噂されているのだ。彼は、1969年にエクスポズが誕生した際の初代球団オーナーのチャールズ・ブロンフマンの息子でもある。

基本的に、モントリオールはエクスパンション(球団数拡張)によるMLB誘致を目指していた。しかし、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは将来のエクスパンションには意欲を見せつつも、「レイズとアスレチックスの新球場建設問題が解決してから」と明言している。そして、その両球団の新球場への道のりは険しい。その状況に業を煮やしたモントリオールは、まずは準フランチャイズとしての参入という近道を選んだのか、それともレイズ買収に一気に舵を切ったのか。

本拠地2都市の継続性は?

仮に、アメリカ南端のフロリダとカナダに本拠地を置く、デュアルフランチャイズ球団が誕生したとする。それは果たして成功するだろうか。

2003年と2004年のエクスポズは、慢性的な不入りに業を煮やし主催試合も22試合をタンパベイよりももっと離れたプエルトリコのサンファンで開催した。ミルウォーキーが空き家だった頃にホワイトソックスが主催試合を開催したこともある。NBAでも前例はあるらしい。

しかし、これが真の意味で成功する(長期的に継続する)には、両地域を代表する2人のオーナーの保有株式(と支配力)、開催試合数、地元ファンの盛り上がり度と平均動員数、結果的な収益貢献度のバランスがきっちり取れていなければならない。

これは必ずしも全てが50対50であるべき、ということではない。仮に片方が明確に平均動員数で優るなら、開催試合数もそれに準じるような力学が働くはずだ。収益貢献度にインバランスが生じているのに公平な試合開催数に固執していると、この制度は崩壊に向かうはずだ。しかし、より儲かる方にシフトしていくと、結局もう一方での開催は意義を失ってしまう。やはり、最終的にはどちらか1球団になってしまうのではないか。

この奇策、仮に実現するとしても新球場建設期間も考慮すると早くても2024年くらいか?状況を見守っていきたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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