Yahoo!ニュース

「コンプラ的に問題あり?」米野球殿堂 時代委員会による選出方式

豊浦彰太郎Baseball Writer
野球殿堂に自らのプラークが掲示されるのは野球人にとって究極の名誉だ。

「時代委員会」選出の2019年野球殿堂入り選出結果が先日発表された。事前には「選出なし」の可能性も噂されたが、歴代3位となる通算478セーブのリー・スミスと通算2866安打のハロルド・ベインズが規定の75%以上の得票で晴れの殿堂入りを決めた。しかし、彼らの選出は選考形式の問題点を浮き彫りにしたとも言えそうだ。

もう一つの殿堂入りへの道

野球殿堂入りには2つルートがある。ひとつは全米野球記者協会(BBWAA)の記者投票によるもので、元選手の選出としてはこちらが「王道」だ(2019年の選出投票は年末に締め切られ、1月22日に発表される)。

ニューヨーク州クーパーズタウンにある野球殿堂博物館
ニューヨーク州クーパーズタウンにある野球殿堂博物館

もうひとつはEras Committees(時代委員会)による選出で、BBWAAでの資格を失った元選手や、監督、審判員、経営者などの選手以外を対象としている。この委員会は、長い歴史を5つのカテゴリーに分け、均等ではないサイクルで毎年ひとつのカテゴリーを取り上げ選出している。今回は1988年以降のToday’s Game(現代)で、以下の10名が事前にノミネートされていた。

元選手としては、スミス、ベインズの他、88年のサイ・ヤング賞投手で59回連続無失点のメジャー記録を持つオーレル・ハーシュハイザー、球宴選出6度の一塁手ウィル・クラーク、95年に50本塁打でタイトル獲得のアルバート・ベル、93年ワールドシリーズでの世界一を決める逆転サヨナラ本塁打で知られるジョー・カーターの6名だ。元監督の候補も3人いた。いずれも日本のファンにもお馴染みで、イチロー渡米時のマリナーズの監督ルー・ピネラ、現役時代は日本でもプレーしたデーブ・ジョンソンとチャーリー・マニエルだ。そして、元ヤンキースオーナーのジョージ・スタインブレナーも候補者に名を連ねていた。

「王道のBBWAA」での評価と極端に異なる結果

正直なところ、いずれも決定的な有力候補者とは言いかねる構成で、スミスやベインズの選出にはぼくも少なからず驚かされた。

スミスは、2006年にトレバー・ホフマンに破られるまでは通算478セーブが歴代1位だった。しかし、元々救援投手の評価に関しては意見が分かれるところで、かつ彼の場合はそのキャリアにおいてハイライトとなる傑出したシーズンや語り継がれる名場面に乏しい点が指摘されていた。その結果、BBWAA経由では規定の15年(現在は10年)を経ても選出には至らず、昨年資格を失っていた。

彼が殿堂入りに値しないと言っているのではない。しかし、15年という長きに渡っていわば散々議論(投票だが)を尽くした結果がNGだったのだ。その間得票率が50%を超えたのは10年目の一度きり(2012年に50.6%)だけでそれ以降はジリ貧だった。それが、翌年に別機関経由では満票で選出されるというのはどうだ。BBWAAでの15年は何だったの?といい思いは拭えない。

スミスやベインズら2019年の殿堂入り者のためのスペースはここだ
スミスやベインズら2019年の殿堂入り者のためのスペースはここだ

BBWAA 経由で資格を失った元選手に対し、時代委員会経由という敗者復活戦が設けられているのは良いことだ。選手への評価というものは普遍的ではないからだ。それこそ近年のセイバーメトリクスの進歩のように新しい評価軸が確立され、以前は軽視されていた選手の価値が再発見される場合もある。しかし、スミスに対する両ルートでの評価は時間軸では接近しすぎている割には手のひら返しが極端すぎはしないか。

これは、もう1人の選出者であるベインズにも当てはまる。彼の通算成績は前述の2866安打に加え、384本塁打だ。積み上げた数字は立派だが決定打には欠ける。さらにはタイトル獲得等の圧倒的にブレイクイヤーもない。そして全出場の6割がDHであり、守備での貢献度にも乏しい。実際、BBWAA経由では最高で6.1%の票しか獲得できず、ノミネート後わずか5年で翌年以降に資格を継続するために必要な5%を割り、候補者名簿から消えていた。しかも、「新しい価値観での再評価」項目もない。通算WARは38.7でしかないのだ(殿堂入り野手の平均は69だ)。その彼が、75%を集めてしまった。正直なところ、彼の選出は殿堂入りのバーを大きく下げたと言えるだろう。

ロビー活動でのコンセンサス形成が可能な少人数委員会

そして、摩訶不思議な選出結果となった理由として、この時代委員会の構成を挙げなければならない。

BBWAA経由では400人以上が投票するが、時代委員会では16人の有識者のみだ。もちろん選出は投票式だが、事前のロビーが十分可能な規模だ(実際にそのようなことが行われたかどうかは知らない)。

前年の投票では、BBWAAで資格を失って数年のジャック・モリスとアラン・トランメルが選出されたが、彼らは1980年代のタイガースの中心選手で、84年の同球団世界一の主力メンバーだ。果たして彼らがそれぞれ別の年にノミネートされたとしても、ともに選出されたかどうかは分からない。また、2014年にはトニー・ラルーサ、ジョー・トーリ、ボビー・コックスという同時代の2000勝以上の元監督がノミネートされ揃って選出されている。もちろん2000勝は十分殿堂入りに値するが、ノミネートの段階からそうすべき空気は形成されていたように思えてならない。

前回は歴史委員会からトランメル(左)とモリス(その隣)が選出された
前回は歴史委員会からトランメル(左)とモリス(その隣)が選出された

また、今回の時代委員会メンバー16人には、すでに殿堂入りを果たしている者が9名含まれている(他は球団フロント要職者4名とメディア3名)。ぼくはもともと、殿堂入りメンバーが投票権を持つことには反対だ。誰を選ぶか、または選ばないかが彼ら自身の価値に関わってくるからだ。

中立的立場とは言い切れない投票者も

また、他の時代を対象とする投票ならまだしも、1988年以降という「現代」の場合は現場出身の選出者と被選出者との間に利害関係がありすぎると思う。

実際、委員の中の重鎮であるジェリー・ラインズドルフはホワイトソックスのオーナーで、同球団に3度、都合14シーズン在籍したベインズの大ボスと言える存在だ。トニー・ラルーサも監督として同球団で7年(80〜87年)アスレチックスで1年(92年)、ベインズを指揮する立場にあった。パット・ギリックは97年にオリオールズでGMと選手の関係だった。

スミスの場合も、ジョー・トーリはカージナルス時代の監督だったし、オジー・スミスは同僚だった。グレッグ・マダックスもカブスで同じ釜の飯を食った仲だ。

要するに、投票権を持つ委員達は客観的には中立的立場の第三者とは言いかねるのだ。

念のためにもう一度言わせていただくが、時代委員会の選出において談合が行われているとか、彼らが情実優先で投票する狭量な人物だと決めつけているわけではない。しかし、コンプライアンスというものは、不正や不公平な行いそのものの有無を問うだけではなく、そのような行為が発生しかねない組織やプロセスを問題視するものであることを考慮すると、時代委員会の在り方にはおおいに議論の余地がある、と言えるだろう。

マンハッタンからクルマで4〜5時間の場所にありながら、年間30万人もの人々が訪れるクーパーズタウンのメインストリート
マンハッタンからクルマで4〜5時間の場所にありながら、年間30万人もの人々が訪れるクーパーズタウンのメインストリート

<写真は全て、豊浦彰太郎撮影>

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事