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金足農・吉田投手は、進路は「恩義より自身にとって何がベストか」で選択を

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:岡沢克郎/アフロ)

夏の甲子園が終了して早1週間だが、大会前からのタマ数・健康管理問題に関しては、依然としてネットを中心にホットな議論が続いている。この問題の難しさは、酷暑や投球過多から選手を守りたいという思いは皆が共有しながらも、当事者、関係者、ファンの間に根本的な価値観の相違があり、単純な方法論の是非の議論に至らないことだ。

そして、そんな状況を象徴する記事を見つけた。

金足農業・吉田輝星「ドラフトか進学か」重い決断と恩義

要約すると、大会を通じて全国的なスターとなった金足農の吉田輝星投手は現在は今後の進路が注目の的になっており、本人は「巨人志望」を口にするも彼の才能開花に影響を与えた監督の在籍する大学への進学が既定であり、本人は「恩義」と「夢」の間で苦しい選択を迫られている、というものだ。

すごく気になる記事だった。その内容が全て事実だとすると、野球界の人々の価値観や因習の古臭さが凝縮された内容だからだ。

例を挙げよう。金足農の中泉一豊監督は八戸学院大学への進学が既定路線だと言う。「(同大野球部の)正村公弘監督の指導があればこそ、今の吉田投手がある。その恩を反古にできない」。また、当の正村監督も、吉田のプロ入りの可能性が取りざたされる中「(来てくれるかどうか)不安が残る。」とコメントしている。

彼らは「吉田本人にとってベストの選択」よりも、抜き差しならぬ関係にあると思われる「両氏間の義理(ということはおそらく利害)」の方を重視しているのだろうか。人は誰もが、進路に関しては自分自身にとってベストの選択をする権利を有している。また、それを尊ぶのが指導者というものだろう。もちろん、プロ入りして大金を得て世間の厳しい目に晒されるより、失礼ながら全国的な知名度・注目度は低い東北の大学リーグでのびのびとプレーする方が幸せだという価値観もある。しかし、それは吉田自身が決めることだ。指導者たちは本来そこまでコメントすべきではないと思う。

また、記事ではその昔、早大進学が決定的と思われたPL学園の桑田真澄投手が巨人のドラフト指名を受け入れプロ入りしたこと、その後PLから早大への進学が途絶えたことをごく普通に紹介している。暗に約束を反故にしてプロ入りすることの影響を示唆しているのだが、本来これはあってはならないことだ。有望高校球児の進学に関する大学と高校の悪しき利権闘争だからだ。

そうなると、「恩義」か「夢」かという記事のテーマそのものにも、個人の権利に対する記者の認識の不足を感じ取らざるを得ない。ぼくに言わせれば、メディアも含めたアマチュア球界の歪んだ因習・価値観が感じ取れる記事であった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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