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ZOZO前澤社長がプロ野球参入を表明も「日米で球団数拡張の実現性に差異があるのはなぜか?」

豊浦彰太郎Baseball Writer
マンフレッドMLBコミッショナーはエクスパンションに意欲的だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ前澤友作社長の、プロ野球参入意向の表明が話題となっている。既存球団の買収狙いかもしれないが、そのターゲットの最右翼とされる千葉ロッテマリーンズは球団売却を強く否定している。ネット上では、これを機にエクスパンション(球団数拡張)を求める声も挙がっている。確かに、ファンの視点からはエクスパンションはプロ野球運営を理想の形態に近づけるが、地殻変動でも起きない限り実現は容易ではないだろう。

一方で、MLBでは先日ロブ・マンフレッド・コミッショナーが現行の30球団から32球団への拡張への強い意欲を改めて表明した。ラスベガス、モントリオール等6都市がその候補だと明言した。こちらは、レイズとアスレチックスの新球場建設問題が解決することが前提ではあるものの、リアリティは充分だ。なにせ、最高責任者が明言しているのだから。

なぜ、日米でエクスパンションの実現性に大きな隔たりがあるのか。それは、「エクスパンションは既存の全球団にも利益をもたらす」かどうかが、日米で大きく異なるからだ。

プロ野球経営における利益の柱は、1.入場料、2.放映権料(テレビ、ウェブ、ラジオ)、3.スポンサーシップ、4.グッズのライセンス料で、基本的にこれはNPB、MLBとも同じだ(構成比にはかなり隔たりがあるが)。ただし、日本の場合はこれらが全て各球団単位の管理となっているのに対し、あちらでは2.のうち、ローカル放送の放映権料は各球団の収入となるが、全米放送に関してはMLB機構が一括してテレビ局と契約を結び、各球団に収益を配分する形態を取っている。また、3.や4.も同様で、売り上げは全て機構が吸い上げ配分している。

もうお分かりだろう。日本の場合、例えば四国あたりにNPB球団が生まれたとしても、既存の12球団には目に見えるメリットはない。それどころか、関西や中国、九州の球団からすると「客を取られる」と敬遠されかねない。日本にせよ、アメリカにせよ、球団数増加はプロ野球全体の市場を拡大する効果をもたらすのだが、日本の場合は全体として拡大したパイを配分するスキームを持たないため、既存球団はそれを積極的に支持する理由がないのだ。それに対し、MLBではエクスパンションは既存球団にも利益をもたらすため、最高意思決定機関であるオーナー会議に諮られた場合、賛同を得るのは容易だ。

では、放映権などの一括管理(各球団単位より交渉力が増す)への移行に向けてのNPB機構やコミッショナーの強力なリーダーシップが期待できそうにないNPBの場合は、永遠にエクスパンションは一切期待できないのか?というと必ずしもそうではないと思う。そのあたりを、MLBで過去エクスパンションを促した要因を元に考察してみたい。

1903年以降、MLBでは長きに亘りフランチャイズの増減はなかった。それが、61年にア・リーグが、翌年にナ・リーグがそれぞれ2球団を増やし、両リーグとも10球団になった。これを促したのは、まずはライバルの出現であり、両リーグの対立構造だった。今でこそ、市場開拓のため主体的にエクスパンションを推し進めるMLBだが、当初はそれ自体を目的としたものではなかったのだ。

しかし、その前に本拠地移動について触れねばならない。球団配置という観点からは平穏無事だった20世紀前半とは異なり、50年代に入ると、ボストン・ブレーブスがミルウォーキーへ、フィラデルフィア・アスレチックスがカンザスシティへ、セントルイス・ブラウンズがボルティモアへそれぞれ移転した。

これらの球団は経営不振が続き移転もやむなしとの見方もあったが、58年に名門ブルックリン・ドジャースとニューヨーク・ジャイアンツがビッグアップルを見切って西海岸へ移転した衝撃は大きかった。全米最大のマーケットであるニューヨークからナ・リーグ球団が消滅したのだから。

しかし、球団拡張の要因としては「コンチネンタル・リーグ」という第3の大リーグ設立の動きが大きく影響していた。彼らは、ニューヨーク、ヒューストン、ミネアポリスーセントポール、デンバー、トロントなどの当時は既存リーグ球団がない、もしくは手薄な都市を中心に球団を配置するプランを持っていたため、危機感を感じたナ・リーグはコンチネンタル・リーグと接触。彼らの計画の一部を吸収する形での62年からの球団拡張(ニューヨークとヒューストン)を発表した。60年10月のことだった。

一方のア・リーグも、ナ・リーグへの対抗でエクスパンションを発表した(背後の要因としては、ワシントン・セネタースのミネソタへの転出も挙げられる)。しかも、ナ・リーグを出し抜くために、1年早い61年からとした。対象都市としては、「空き家」のワシントンDCとロサンゼルスだった。後者は、「カリフォルニアをナ・リーグに独占させるな」という戦略からの決定であったのは間違いない(現在とは異なり、当時両リーグは完全に独立した団体だった)。

そして、驚くなかれ、60年11月と12月には新球団が既存球団から選手を獲得するいわゆるエクスパンション・ドラフトが行われている(ちなみに、先に拡張を決めたナ・リーグで同ドラフトが行われたのは、翌61年のワールドシリーズ終了後だ)。

以上のとおり、20世紀初のエクスパンションは、新規参入リーグへの危機感と既存リーグの対立構造があればこそだった。

これを現在のNPBに当てはめるとどうだろう。

スタートトゥデイ社の前澤氏が(彼にそこまでの意向があるかどうかは別だが)、仮に独立リーグあたりを母体に新リーグを立ち上げようとしたとする。この場合、1950年代末期のアメリカと決定的に違うのが、既存リーグが「ここを獲られると困る」というほどの魅力的なオープンマーケットが日本には残っていないことだ(せいぜい京都くらいか)。中規模以下の地方都市のみに球団が配置され、戦力的にも見劣りする(これは致し方ない)リーグを果たして、NPBは脅威と感じるだろうか。

その一方で、パ・リーグのセに対する対抗意識はそれなりに期待できるかもしれない。ZOZOがもう1社同じ志を持つ企業とともにパ・リーグに参入を求めたらどうだろう。パ・リーグが8球団制になれば、東西(南北?)2地区制も現実味を帯びて来る。2地区制なら各地区優勝球団によるプレーオフは、何かと問題の多い現在の上位3球団によるクライマックスシリーズより真の王者決定戦として盛り上がるのではないか。これがファンの支持を集めるようであれば、セ・リーグも追従するかもしれない。パ・リーグの方が、セよりも何かと進取の気質に富んでいることは確かだ。しかし、セの後塵を拝し続けた時代は去った今、そこまでの気概と対抗意識がまだ残っているかどうかが鍵だろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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