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エンジェルスキャンプ参加の全選手への公平性の観点から、大谷翔平はマイナーへ送られるべきだと思う

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

大谷翔平の苦戦が続いている。当初は打撃の未熟度のみが槍玉に上がっていたが、16日のロッキーズ戦で2回と持たず7失点と大炎上してからは、投打とも適応にはそれなりの経験が必要との観点から、開幕はマイナーで迎えるべしとの声も大きくなって来た。

確かにそうだ。ここまで打率は1割で長打はゼロ。その結果以上に内容が悪い。メジャーで主流の動く速球に対応できず打球が上がらない。緩急に弱い。追い込まれるとボールに手が出る、という按配だ。

拠り所だったピッチングでも、奪三振の高さを別にすれば防御率は16.21(メキシカンリーグとの非公式試合を含む、カクタスリーグ戦のみでは27.00)と目も当てられない。

まだ評価を下すのは時期尚早との意見もある。確かにメジャーでは、一旦抜擢すると少々結果が出なくても、辛抱強くチャンスを与え続ける傾向にある(そうあるべきだと思う)。

同じ日本人選手のケースでも、2002年の石井一久はオープン戦ではメロメロだったが、当時のドジャースのジム・トレーシー監督は当初の構想通りローテーションから外さず、開幕5戦目に先発陣のしんがりとして登板させた。すると石井は6回途中までに10奪三振で無失点と結果を出し、その年は14勝を挙げた。

ヤンキースでデビューの松井秀喜の場合も辛抱の賜物だった。彼の場合は試練は開幕後だった。デビュー戦で満塁本塁打というこれ以上ないスタートを切ったが、その後は現在の打者大谷同様に手元で動く速球に手を焼きゴロを連発した。しかし、その後殿堂入りを果たしているジョー・トーリ監督は忍耐強くスタメン起用を続けた。その結果が初年度の106打点であり、翌年には31本塁打とそのパワーも開花した。恐らく、彼がNPBに鳴り物入りでやって来たメジャーリーガーだったとしたら、開幕2ヶ月くらいの段階で「ダメ外人」とレッテルを貼られ、下手すれば登録枠を外れただろう。

しかし、現在の大谷とかつての石井や松井との間に決定的な違いがある。言うまでもない。大谷はマイナー契約だということだ。メジャー登録の40人枠に入っていさえすれば、その選手を信じて起用を続けるのは監督の判断として許容できる。しかし、マイナー契約の大谷を開幕からメジャーで起用するならば、現在40人枠に入っているだれかをわかりやすく言えば戦力外にしなければならない。

これは実はすごく重いことだ。2005年にドジャースとマイナー契約を結び渡米した中村紀洋が、スプリングトレーニング(キャンプ)でそこそこの成績を残しながら開幕メジャーを獲得できず、最後の1枠を争った選手(オスカー・ロブレスというメキシカンだった)と自らを比較し「オレの方が成績が良い」とブンむくれたことがあった。しかし、この指摘はお門違いだった。マイナー契約の中村を残すためには、ロブレスまたは他のメジャー契約選手を戦力外にしなければならない訳で、そのためには中村は有無を言わせぬ圧倒的なパフォーマンスを示す必要があったのだ。オレの方が少し優っている、という程度ではダメなのだ。マイナー契約でメジャーを目指すとはそういうことだ。

話を大谷に戻す。もちろん、彼にはこれから大いに盛り返して欲しいのだけれど、仮にそうでなかったとするとやはりマイナーに戻すべきだろう。彼がマイナー契約であるのは、実力への評価ではなく、ある意味では理不尽な労使協定上の制約のためだ。しかし、マイナー契約であることには変わりはない。その彼を開幕メジャーとするなら、それは前評判通りの結果を残した場合のみとしないと、他のメジャー契約の選手や必至に生き残りを賭けているノンロースターのインバイティー(直訳すると招待選手だが、実態はテスト生だ)に対し、フェアでないと思う。

大谷をメジャーに残すべきか?この話題に関しては日米のメディアが様々な意見を述べているが、基本的に大谷のためどちらが良いか?という視点だ。しかし、ぼくはキャンプ参加の全選手へのフェアネスという観点から、(今のままでは)大谷は「カット」し、マイナーキャンプへ送るべきだと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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