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元楽天のアンドルー・ジョーンズは将来殿堂入りできるか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
ホームランパワーとGグラブ10度の守備、彼のプレーはファンを魅了した(写真:ロイター/アフロ)

2013-14年に楽天でもプレーしたアンドルー・ジョーンズが現役引退を表明した。現在38歳。選手寿命が伸びた近年では、やや早い印象もあるが、彼がメジャーの舞台に登場したのは1996年の事だ。もう十分やってくれたと思う。

日本では「メジャー通算434本塁打」の大砲としてのイメージが強いが、彼の本領はそのオールラウンドぶりにあった。1998年から2007年まで10年連続ゴールドグラブを受賞した守備は、その守備範囲の広さ、打球への判断の良さ、正確をも併せ持った強肩など見どころ満載だった。

30代も後半に入って来日した頃は、何やら人格者の風格すらあった。米での通算1933安打に加え、楽天での67本目を放ち「日米通算2000本安打」で祝福された際には、おそらく本心では「オイオイ、そんなのありかよ」と思ったのだと思うが、素直に嬉しそうに振舞ったのはその典型だ。いや、「日米通算」には苦笑しながらも、何の疑いもなく「偉業達成」を祝ってくれる日本のファンの気持ちには素直に感動したのだろう。

しかし、20代の頃の彼は、ぼくにはやや野球に対する姿勢に真摯さが欠けるようにも見えた。あまりにも才能に恵まれ過ぎたせいか、「素質だけで野球をやっている」風に見えた(あくまで印象だが)。彼が、それこそイチローのようなストイックさで野球に打ち込んでいれば、ハンク・アーロンやウィリー・メイズ級の選手にも成れたのでは、と今でも思っている。

そんな、適度にチャランポランに取り組んだ程度でも残した成績は超一流で、ぼくは将来の殿堂入りの可能性さえ感じている。

一般的に、野手の殿堂入りの条件とは「3000本安打、もしくは500本塁打」、に加えMVPを獲得するなどの「明確なピークとなるシーズンがあること」だと、古くから言われてきた。その点ではアンドルーは1933安打、434本塁打と数字的な基準をクリアしていないが、10度のゴールドグラブを誇る守備力がそれを補完しているとも言える。また、MVPを受賞したことはないが、51本塁打&128打点で二冠王となった05年のパフォーマンスはそれに匹敵するものだ。

そのようなトラディショナルな視点からのみならず、セイバーメトリクスの観点からも彼は素晴らしい。例えばWAR(Wins Above replacement)では、ジョーンズは62.8で歴代(野手、投手合算で)153位タイだ。ちなみに、殿堂入りの野手では通算573本塁打のハーモン・キルブリューは60,3、強打者にして名捕手のヨギ・ベラは59.4だ。将来の殿堂入りが確実視されているイチローですら58.4で196位タイだ。この点でも、彼の殿堂入りは将来大いに検討に値すると言えるだろう。

将来のホール・オブ・フェイマーかもしれないアンドルーのプレーを日本で2年間も見ることができわれわれは幸せだったが、彼の外野守備を見る機会がほとんどなかったのはちょっぴり残念だった。

日本のファンには馴染みがないかもしれないが、メジャーでは上手い外野手ほど浅く守る(2014年秋の日米野球では、デクスター・ファウラーの守備位置の浅さに東京ドームのファンは驚いていた)。そして、ジョーンズは極めて浅く守ることで有名だった。ちょっぴり自慢させてもらうと、ぼくはジョーンズがそのキャリアを通じて、最も浅く守った試合を現場で見守ったことがある。いや、彼のキャリアに限らず瞬間的な特殊なシフトではなくほぼ1試合を通じてだと、史上最もセンターが浅く守った試合かもしれない。

それは2008年開幕寸前のオープン戦でのことだった。その年からジョーンズが所属したドジャースは、ロサンゼルスへの移転50周年ということで、移転当時の本拠地ロサンゼルス・オリンピック・コロシアムでレッドソックスとの1試合限りの記念試合を戦った。

1932年と84年の五輪の会場でもあったその会場は本来陸上競技やフットボール用のため、レフトはポールまで60.9メートルしかなかった(そのため高さ18.2メートルのネットフェンスが張られた)。そのため、ドジャースのジョー・トーリ監督(当時)は、レフトをセンターのポジションに近い左中間に守らせ、センターのジョーンズを二塁ベース付近で守らせたのだ。

もっとも、そのトーリのアイデアも虚しく、本来なら浅いレフトフライと思われる力のない打球が、フラフラとレフトスタンドに吸い込まれた。その極めて効率的な本塁打を放った1人が、14年に短期間楽天に在籍した「四球のギリシャ神」ならぬ「故障のギリシャ神」、ケビン・ユーキリスだった。

もうひとつ自慢させていただく。昨年11月16日、プレミア12の準々決勝2試合をぼくは台湾まで実質日帰りで観に行った。そのうちの1試合がオランダ対アメリカで、アメリカが6対1で勝利したのだけれど、それは(おそらく)アンドルーにとって最後の試合だった。その日、桃園棒球場で付けたスコアを見ると、彼は4打数1安打。その日の夜同じ球場で開催された侍ジャパン戦の盛り上がりとは異なり限りなく無観客試合に近かったのだけれど、彼の最後の試合(だと思う)をシカと見届けることができたのは幸運だった。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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