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「ガラパゴス」松坂大輔は復活できるか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
Dice-Kはアメリカでは適合に苦労した。(写真:ロイター/アフロ)

「最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるでもない。 唯一生き残るのは、変化できる者である」これは『種の起源』を著したチャールズ・ダーウィンのあまりにも有名な言葉だ。今季復活を期す松坂大輔について書くに当たり、このプレーズを引用したい。彼は環境へ適合する変化を遂げることがなく、独自の進化だけを果たした「ガラパゴス」だと思うからだ。

4年ほど前、ある媒体から依頼をいただいたコラムで「松坂はガラパゴスだった」というタイトルの原稿を送ったら、あっさりボツになったことがある。「それはマズいでしょう」とのことだった。その後、担当の編集者は気遣ってくれてもっと柔らかい?媒体に掲載してくれた。

それはともかく、スポーツ紙の報じるところでは、昨年8月に右肩の手術を受けた松坂は術後5ケ月を経て60メートル遠投を行うまでに快復したようだ。今月中にブルペン投球を再開すると言う。

果たして松坂は復活できるだろうか。今年9月に36歳になる。選手寿命が伸びた昨今では、もう一花咲かせてもおかしくはない年齢だ。しかし、高校時代には甲子園で延長17回250球などの酷使を経験し、プロでも初年度からエースとしてフル回転してきた彼のタンクには、もうガスは残っていないのかもしれないとの思いも拭えない。

十年一昔と言うが、その一昔前には彼は第1回WBCで見事MVPを獲得した(ちなみに第2回大会のMVPも彼だ)。シーズンでは圧倒的な成績を残し、オフにはポスティングでMLB移籍を果たした。初年度のキャンプでは、公式戦で1球も投げていないうちから『スポーツイラストレイテッド』の表紙を飾り、多くの専門家がサイ・ヤング賞候補に挙げた。そして日米メディアによるDice-K狂想曲。3年目以降は、低迷に対する地元ボストンでの「球団史最悪の契約」とのバッシング・・・

結局、メジャーでの8年間は渡米時のあまりに高い注目度からすると、期待外れだったと言わざるを得ない。

アメリカで正札通りの活躍を見せることができなかったのは、故障もあったが突き詰めれば「日本とのプレー環境の違いに適応できなかった」ということだとぼくは思っている。

立ち上がりの悪さやタマ数の多さにより長いイニングを投げられない、という傾向に最後まで改善が見られなかった。150球でも投げさせてくれるNPBならいざ知らず、この傾向を改めぬ限りメジャーでは成功できないのは自明の理だった。また、調整方法も投げ込みに頼る日本式からの脱皮ができなかったし、ボールやマウンドの違いにも最後まで慣れることがなかったように思う。さらに、故障の兆候があってもそれを隠して無理を強いるというタブーを犯し、状態を更に悪化させた。松坂は、NPBという国際的にみればむしろ特殊な舞台のみでしか活躍できなかった“ガラパゴス”だったとぼくは思っている。

そんな彼が苦しみ抜いたアメリカ生活にピリオドを打ち、1年前に日本球界復帰を果たした。キャンプで200球の投げ込みもここではOKだし、立ち上がりに苦しみ初回だけで40球を費やしても、その後立ち直れば完投もできる。その環境に戻ってきながら昨季1試合も投げることができなかった松坂は、さぞかし悔しかっただろう。

トミー・ジョン手術による対処が一般的になったヒジとは異なり、肩の故障は根本的な治療が難しいと言われている。願わくば、順調に快方に向かいマウンドで躍動する姿を再び見せてほしい。「約束の地」にようやく戻って来たのに、その時には機を逸していたとしたら悲しすぎる。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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