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「故障のギリシャ神」ユーキリスの復帰はあるか?

豊浦彰太郎Baseball Writer

左かかとを痛め、5月7日から帰国している楽天のケビン・ユーキリスの復帰のめどは立っていないようだ。本人は「完治させ戻りたい」と意欲を見せているようだが、「このまま退団かも」という憶測記事もスポーツ紙に目に付く。残念ながら、「やはり」と言うべきだろう。

昨年12月に1年3億円で契約すると、即Yahoo!のトップに「四球のギリシャ神 楽天と契約」という見出しが躍った。しかし、その時点から率直に言って多くを期待するのはリスキーだと思っていた。

彼は間違いなく素晴らしい選手「だった」。過去球宴に3度選出され、2008年にはMVP投票で3位に入った。しかし、それらの栄光は過去のものでしかなかった。

なぜなら、メジャーではその時点でユーキリスはすでに「マネーボール」で取りざたされた「四球のギリシャ神」ではなかったからだ。彼は、04年のメジャーデビュー後数年は全打席の13~14%で四球を選んでいた。メジャーリーグの平均が約8%なので、確かに「神」だった。

しかし、年齢を重ね故障がちになった近年はこの能力に陰りが見え、12年は10.0%で昨季に至っては6.8%でしかなかった。

また、それに合わせ三振も急増した。全盛期の三振率はメジャー平均レベルの18%程度に留まっていたが、13年は26.3%まで上昇していた。

単に打率や本塁打数という結果指標が云々ではなく、三振率や四球率というプロセス指標が低下していたということは力が落ちてきている証だ。

それ以上の問題点はここ数年故障がちだったことで、13年は28試合しか出場していない。故障箇所も下半身が多かった彼にとって、日本での人工芝の上での出場が悪影響を及ぼす懸念は十分にあった。

35歳のユーキリスは日米を問わずレギュラーとしてのフル出場を期待できる選手ではなかった。私は彼にもっとも合った役割は、メジャーでの控え選手だと今でも思っている。故障者や休養者のスポットに入りながら時折DHもこなし、年間70~80試合程度先発出場する。この程度なら体への負担も少なく、エリック・チャベス(ダイヤモンドバックス)のような貴重な脇役としてあと数年は活躍できるのではないか。

正直に言って、「ケビン・ユーキリス」という名前だけで楽天は飛び付いてしまった印象は拭えない。現在の事態は決して予期できぬシナリオではなかった。

私の先輩のH氏は、「なるべく早いうちに見に行かないといつ怪我で離脱するかわからないので」と4月末に球場に足を運んだら、なんとその日から登録を抹消された。

日本でのユーキリスの成績は打率こそ.215だったが、79打席で12四球も選び四球率は15.2%。私の目論見は外れこの国では依然として「四球のギリシャ神」だった。しかし、それ以上に「故障のギリシャ神」であったようだ。

果たして、H氏にユークの溌剌としたプレーぶりを日本で見届ける機会は巡って来るだろうか?

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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