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炎上したラーメン二郎の「ニンニク『普通で』事案」は何がダメか? 飲食店にとって本当に大切なこと

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ラーメン二郎で店主が炎上

回転寿司店での犯罪まがいの迷惑行為が世間を騒がせました。客に非があることは明白なので、行為者に対して大きな批判があったのは当然のこと。今度は、回転寿司店と並んで日本の食文化であるラーメン店で、スタッフのとった態度が炎上しています。

熱狂的なファンがいることで知られている「ラーメン二郎」でのこと。店主から「ニンニク入れますか?」と訊かれた客が「普通で」と答えると、店主は「コンビニで袋いりますか?って聞かれて普通でって返すの?」と半ギレしながら言い返したといいます。

この言い方について大きな批判があると、店主はTwitterで「キレていない。『普通で』では、ニンニクを入れないのか、ニンニクを普通の量で入れるのかわからない」と説明するも、炎上は収まっていません。

既にいくつか記事が配信されており、店主個人を責めたいわけでもないので、ここでは具体的な情報には触れません。私はラーメンを専門にしているわけではありませんが、飲食店という大きな枠組みで今回の事案を考察していきましょう。

ルールを決めるのは自由

全ての飲食店は、飲食店営業許可をとって運営されています。飲食店営業とは、食品衛生法で定められている営業許可が必要な32業種のうちのひとつです。

食品衛生法の目的は、その第一条で述べられているように「食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もつて国民の健康の保護を図ること」。人の口に入るものは、人体に大きな影響を及ぼし、危険が生じることもあります。したがって、安心と安全を担保できるように、法律で定められたことを遵守しなければ、飲食店を営業できないということです。

逆にいえば、食品衛生法に則っており、飲食店営業許可がとれていれば、好きな業態の店をオープンして自由にルールを決め、運営できることになります。当然のことながら、他の法に触れてはならないのは言及するまでもありません。

「ラーメン二郎」のオーダーは難しいといわれており、通い慣れた人=熱狂的なファン=ジロリアンしかスムーズに注文できないともいわれています。しかし、ややこしくて、わかりにくいルールを設けること自体は、食品衛生法としては何も問題がありません。

オーダー方法

当事案は、オーダーのやり取りに焦点が当たり、店主の態度や言い方が炎上しました。では、飲食店ではどのようなオーダー方法があるのでしょうか。

スタッフが直接オーダーを取らない方式では、客が自動券売機でお金を支払って選ぶ方法、紙に記入してスタッフに渡す方法、店に備え付けられたタブレットなどの端末を操作する方法、自身のスマホなどの端末でアクセスして選択する方法があります。これに対して、スタッフが直接オーダーを取る方式では、口頭や指さしでやり取りする方法しかありません。

さらには、客がスタッフに口頭でオーダーする方法は、メニューから選んで名前を伝えるのが最もオーソドックスな方式です。他には、メニュー名ではなく番号を読み上げる方式もあります。

オーダーミスの種類

客とスタッフのトラブルで多いのは、オーダーのやり取りです。特にオーダーミスは双方にとって、全く嬉しいことではありません。なぜならば、客にとっては、つくり直してもらうのに時間がかかったり、クレーマーだと疑われることもあったり、店にとっては、食品ロスが生じたり、オペレーションの負担が増えたり、信頼度が低下したりするからです。

オーダーミスの対象は、アラカルトおよびセットやコース、プリフィックスでのチョイス、セットやコースのドリンク、アップグレードが挙げられます。さらには、付け合せやソース、コンディメントやトッピングと、非常に幅広いです。

特殊なケースとしては、好き嫌いやアレルギーの食材、お祝いプレートやサプライズ演出などもあります。こういった“特別オーダー”に関するオーダーミスが起きれば、事態はより深刻になるはずです。

オーダーミスの理由

どのようにしてオーダーミスが起きるのでしょうか。

多いのがスタッフによる打ち間違いや書き間違いです。打ち間違いはハンディターミナルなどの端末の扱いが未熟であること、書き間違いは字が汚いことが、主な原因となります。

スタッフが客のオーダーを勘違いしたり、誤って解釈したりして、注文を受けるケースも少なくありません。スタッフが自身の店のメニュー名をよく覚えていなかったり、コースの構成を把握していなかったり、もしくは、仕組みが複雑であったり、似通ったメニュー名が多かったりすることが、大きな理由です。

特別オーダーは、もともとメニューにないオプションがほとんどなので、サービススタッフとキッチンスタッフの連携が重要となります。信頼関係が構築されていなかったり、意思疎通がスムーズでなかったり、オペレーションの効率が悪かったりすれば、オーダーミスを犯す確率が高くなってしまうでしょう。

オーダーミスの防止

オーダーミスを防ぐには、原因となっている問題を解決することが必要です。

ハンディターミナルなどの端末のトレーニングを行ったり、識別しやすい書き方を考案したり、メニューを覚えているかテストしたり、コースを再構成したり、仕組みをシンプルにしたり、まぎらわしいメニュー名を変更したりすることが求められます。

特別オーダーのミスを防ぐには、シミュレーションを実施したり、気軽に話し合える雰囲気をつくったり、綿密にブリーフィングを実施したり、ペルソナマーケティングを行ったりすることが有用です。

これらに加えて極めて重要となることがあります。それは、注文をとる時に、しっかりと復唱したり、最後に漏れなく確認したりすることです。オーダーミスを防止するための基本的なオペレーションなので、必ず行う必要があります。

当事案について

オーダーにまつわる状況を一通り説明したところで、冒頭の事案について話を戻しましょう。

「ラーメン二郎」のニンニク炎上事件は、最もオーソドックスな口頭でのオーダー方法で、トッピングのオーダーミスに分類できます。ただ、実際のところ、幸いにしてオーダーミスには至りませんでした。したがって、オーダーミスにつながりかねないオーダートラブルと表現した方が適切かもしれません。

店主は「普通で」という答え方がオーダーミスにつながると述べていました。オーダーミス防止のところで紹介したように、件のオーダートラブルは、仕組みが複雑であったり、わかりにくかったりすることが起因しています。解決するには、仕組みをシンプルにしたり、わかりやすくしたりすることが必要です。

オーダーミスを防ぐには復唱が必須であることも前述しました。「普通で」とオーダーされたら「普通の分量でニンニク」と復唱さえすれば、客に確認できるので問題なかったはずです。

口頭でのオーダートラブルが多かったり、スタッフのストレスが高かったりするのであれば、口頭での注文を廃止して、紙で記入してもらう方式にした方がよいかもしれません。常連客との連携感は失われてしまうかもしれませんが、常連客以外に安心感を与え、明瞭性も向上するので、全体的なCS=Customer Satisfaction(顧客満足度)は向上するはずです。

「客に喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい」と思うかどうか

客と飲食店の関係性において重要なことは、次の通りです。客は飲食店をリスペクトしたり感謝したりすること、飲食店は客に喜んでもらいたい、楽しんでもらいたいと思うこと。これが両立しなければ、飲食業界の健全な発展は難しいです。

客が飲食店をリスペクトしたり感謝したりしなければ、飲食店での食事は単なる栄養を摂るだけの行為となり、食文化になりえません。飲食業界の地位は向上せず、飲食店で働くスタッフの給与や環境も改善されないでしょう。飲食店は朝から晩まで、仕込みからクローズ作業まで働く激務といえる業種です。したがって、客に喜んでもらったり、楽しんでもらったりすることが自己実現につながらなければ、決して向上心を保てません。

オーダーミスにつながりかねないオーダートラブルが発生するのであれば、改善策を考えなければならないのは、客ではなく店の方です。件のオーダートラブルに関しては、店が防止策を立てるとともに、改めて客に喜んでもらいたい、楽しんでもらいたいと思えるかどうかが、とても大切であるように思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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