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回転寿司店がAIカメラで迷惑行為を監視 画期的な試みも……やはりダメだと考える理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

AIカメラを導入

回転寿司店で犯罪まがいの迷惑行為が頻発し、大きな社会問題となっています。大手の回転寿司店は被害届を出して、毅然とした態度で臨んでいますが、いつになったら騒動が落ち着くのかわかりません。

世間が関心を寄せる中で、2023年3月2日に「くら寿司」がAIカメラを開発して全532店に導入したというニュースが報道されました。

不審な行為→本部に警報 くら寿司が「すしテロ」対策AIカメラ公開/朝日新聞デジタル

<特報>くら寿司が「すしテロ」対策でAIカメラ全店導入 客の迷惑行為を監視/産経ニュース

くら寿司が「AIカメラ」を全店舗に導入 相次ぐ迷惑行為対策に 不審な動きを検知、責任者へ即時連絡/ITmedia NEWS

このAIカメラはレーンの上部に設置されており、一度取った寿司を戻したり、カバーを繰り返して開閉したりするなど、不審な動きがあると本部に通知するという仕組み。本部が状況を確かめて、該当の店舗に連絡する流れとなっています。

事件の対策として、科学的な手段を迅速に導入したのは、非常に評価するべきことです。ただ、大変残念ながら、それでもやはり回転寿司店は前途多難であるように感じられます。

レーン以外での迷惑行為

レーンに流れている寿司だけしか監視していないのであれば、十分であるとはいえません。なぜならば、レーンを回っている寿司に対してだけではなく、レーンを回っていない共用物に対しても犯罪まがいの迷惑行為が行われ、動画が投稿されているからです。

レーンを回っている寿司を取らなくても、オーダーすれば寿司が直接届きます。つまり、寿司に関しては安心安全が担保できる手段があります。しかし、醤油さしや割り箸、ガリや調味料、お茶など、レーン以外に置かれている共用物は、そのまま使用するしかなく、安心安全が確保できません。

AIカメラがレーン以外での不審な動きを感知し、不適切であると通知できればよいですが、どのようなパターンが不適切であるかを判定するのは、まだ難しいのではないでしょうか。

共用物はテーブルに置かず、店内の共通スペースにだけ置いて客に勝手に取ってもらい、その場所をスタッフがチェックするような運用にした方がよいかもしれません。

外食マインドの低下

一度事件が起きてしまい、これだけ大きな社会問題になると、回転寿司店に対する不安感が醸成されてしまいます。回転寿司店だけではなく、他業態の飲食店に対しても食品衛生に関する不安が広がったので、割り箸や調味料をテーブルから撤去し、客に手渡しするように変更した店も少なくありません。

食べ物は口に入れるものなので、安心と安全は絶対に必要です。少しでも懸念があれば、リスクを負ってまで、わざわざ食べに行きたいと思う人は多くありません。

食中毒をひとたび起こしてしまえば、損害賠償、営業停止などの行政処分、評判や信頼の低下によって、よほど体力のある飲食店ではない限り、続けていくことは難しいです。客による犯罪まがいの迷惑行為は、飲食店が起こす食中毒と事情も状況も全く違います。しかし、外食マインドが著しく損なわれ、経営の危機に瀕するのは同じです。

犯罪まがいの迷惑行為は、食品衛生を毀損し、食中毒に匹敵するネガティブなインパクトを飲食店に与えます。食中毒を起こした飲食店が行政処分されるように、意図して不衛生な行動をとった人が刑事罰に処されるのは、飲食店にとって当然の感覚です。

抑止力が働かない

ファインダイニング=高級レストランに訪れる客層は限られていて、客席数も少ないです。さらには、ウォークイン客はおらず、完全予約制であったり、事前のデポジットがあったりもします。その飲食店をリスペクトして訪れることも多く、非日常的で緊張感もあるだけに、客が迷惑行為を行う可能性は低いといえるでしょう。

その一方でカジュアルな店はウォークインが基本で、客席数も多く、実に様々な人々が利用します。価格が安いので訪れるハードルは低く、客が自身で行うセルフサービスの範囲も広いです。日常的なので緊張感もなく、訪れた飲食店に対して深い思いがあるわけでもないでしょう。

そのため、回転寿司店のようなカジュアルな業態では、ファインダイニングよりも抑止力が働かず、犯罪まがいの迷惑行為が行われる可能性が高いといえます。

変革の必要性

「すし銚子丸」は2023年3月3日にフルオーダーシステムを全店舗に導入するとアナウンスしました。

全店舗へのフルオーダーシステム導入のお知らせ/すし銚子丸

レーンによる提供を全て停止し、全てのメニューをタッチパネルで注文できるようにするということです。

回転寿司は日本で発祥した、日本の食文化のひとつ。ただ、食文化は常に新しくなっていき、その時代にフィットしたものに生まれ変わっていくものです。

SNSが発達した昨今において、客の制御が難しい回転寿司店という業態では、レーンを完全に止めたり、客がオーダーした時にだけ直接レーンで届けたりするなど、何かしらの大きな変革が必要ではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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