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フランス農事功労章とは? 直木賞作家のベストセラーの舞台にもなったホテルの総料理長が紡ぐ受章ディナー

東龍グルメジャーナリスト
ロイヤルパークホテル (C) 東龍

フランス農事功労章とは

フランス農事功労章を知っていますか。

1883年に設立された非常に栄誉ある勲章で、農業、食やワインなど、フランスの食文化に功績があった人に与えられます。フランス人だけではなく、外国人にも与えられるのが特徴的。フランスの食に尽力した日本人も栄誉に浴しています。

等級は下から順番に、シュヴァリエ、オフィシエ、コマンドゥールとなっており、段階的に昇叙していくシステム。オフィシエはシュヴァリエ受章から5年以上、コマンドゥールはオフィシエ受章から5年以上が必要となります。受章と昇叙は、1月1日と7月14日の年2回です。

直近の受章者の中で注目したいのが、ジュヴァリエを受章したロイヤルパークホテル総料理長の松山昌樹氏。

ロイヤルパークホテルは、直木賞作家の東野圭吾氏による、累計490万部のベストセラー「マスカレード・シリーズ」(2022年4月時点)の舞台になったホテルとしても有名です。

木村拓哉氏の大ヒット映画「マスカレード・ホテル」は、あの美食ホテルが舞台?(東龍)/Yahoo!ニュース

松山昌樹氏のガラディナー

ダイニングエリア (C) 東龍
ダイニングエリア (C) 東龍

松山氏はロイヤルパークホテルの第1期生として入社しました。フランス料理アカデミーの世界大会「Le Trophée International de Cuisine et Pâtisserie 2001」をはじめとして、多くの料理コンクールで優勝し、在米国日本国大使公邸では約6年間料理長に就任。フランス料理の第一線で活躍を続け、“洋食はロイヤルパークホテル”という地位を築き上げました。

栄誉あるシュヴァリエ受章を記念して、2023年2月15日、16日、18日のディナーに、20階のレストラン&バンケット「パラッツオ」で「Menu Inspiration 2023 ~アンスピラシオン2023~」(25,000円、グラスシャンパーニュ付、税・サ込)を開催。松山氏がこれまで培ってきたフランス料理に新しい発想を取り入れた料理を提供し、多くのゲストに口福をもたらしました。

メニューを詳しく紹介していきましょう。

京人参/桜肉/毛蟹/真鯛

京人参/桜肉/毛蟹/真鯛 (C) 東龍
京人参/桜肉/毛蟹/真鯛 (C) 東龍

最初のアミューズは4品の盛り合わせです。アンチョビを鋳込んだ京人参のフリットはピンチョス風に。サクサクのチップに載せられた桜肉のタルタルはシャンパーニュとの相性が抜群です。真鯛の昆布締めは引き締まった旨味があり、ポテトフライがよいアクセント。滋味のある毛蟹の身と殻を煮出したジュレは、ウイキョウのヴルーテ=濃厚なスープによく合います。

サプライズでダブルコンソメもサーブされました。松山氏いわく「自信のあるロイヤルパークホテル伝統の一品なので、是非ともみなさまに味わっていただきたく、ご提供しました。肉の繊維を潰さず、脂が溶けないように冷やした包丁で手切りにしてから、煮出しています。コースの中で最も手間がかかるメニューです」

クエ/サーモン/大根/梅酢

クエ/サーモン/大根/梅酢 (C) 東龍
クエ/サーモン/大根/梅酢 (C) 東龍

長崎県のクエとオーストラリアのサーモンのコンビネーション。サーモンはマリネしてから、低温でミキュイ=半生に仕上げました。3センチくらいの厚みがあって、食べ応え満点です。クエはソテーして塩胡椒で整えてシンプルに。梅酢、赤紫蘇、ホワイトバルサミコ酢、グレープシードオイルのドレッシングは、酸味が心地よく効いています。5種類のダイコン、マッシュルームのスライス、カリフラワーと野菜もたっぷり。

鮑/ホタテ/雲丹/九条ネギ

鮑/ホタテ/雲丹/九条ネギ (C) 東龍
鮑/ホタテ/雲丹/九条ネギ (C) 東龍

アワビはしっかりと煮てからソテーし、ホタテは生のものを軽く焼きました。九条ネギはウニとアワビの煮汁を加えたものや、フレッシュなままで使ったりと変化をつけています。焦がしバターのソースには、ベーコンの周りのかたい部分を入れて、旨味とパンチを加えました。松山氏は「2種類の魚介類を一緒にすることで、味わいの対比を楽しめます。貝類の可能性が広がる料理だと思います」と力を込めます。

オマールブルー/キャビア/リンゴ

オマールブルー/キャビア/リンゴ (C) 東龍
オマールブルー/キャビア/リンゴ (C) 東龍

フランス・ブルターニュ産のオマールブルーはレアに仕上げており、とろけるような甘味。オマールブルーの殻、爪、肝を用いたアメリケーヌソースも実に濃厚です。下にはアサリとエストラゴンのマヨネーズがあり、アメリケーヌソースと合わせると古典的なオーロラソースのようになるという、ひと工夫も。付け合わせは、サワークリームとキャビアをのせたブリニ、レモンの酸味を加えた王林のコンポート。松山氏いわく「オマールブルーがとてもおいしいので、半生ではなくレアに仕上げました。合間にキャビアの塩味、王林の甘酸っぱさを味わっていただくことで、最後まで飽きずにお召し上がりいただけます」

黒毛和牛/聖護院蕪/牛蒡/オリーブ

黒毛和牛/聖護院蕪/牛蒡/オリーブ (C) 東龍
黒毛和牛/聖護院蕪/牛蒡/オリーブ (C) 東龍

黒毛和牛ロースは、肉質等級がA4、B.M.S.=ビーフ・マーブリング・スタンダード(脂肪交雑)が6程度なので、脂が適度で赤身をしっかりと楽しめます。ストレスをかけずに火入れしているので、和牛香が素晴らしく、非常にやわらかいです。聖護院蕪は、ヘタをとって皮はそのままにして3時間じっくりとローストして味を凝縮、最後にオリーブオイルで揚げました。しっとりとしたテクスチャで、聖護院蕪の甘味が閉じ込められています。堀川牛蒡は厚みをもたせ、その朴訥とした風味が存分に感じられるように。周りに配されているのは、セルバチコ、グリーンオリーブと西京味噌のペースト、花椒を隠し味にしたグレービーソース。松山氏は「味噌は牛肉にもカブにもよく合います」と自信をもちます。

フロマージュ

フロマージュ (C) 東龍
フロマージュ (C) 東龍

松山氏の好きなフロマージュ3種の盛り合わせ。スティック状の一品はクロックムッシュをイメージし、ハムの代わりに、12ヶ月のコンテチーズとトリュフを挟みました。サクサクとした食感で、まろやかなコンテチーズの風味が印象的です。その隣には青カビのフルムダンベール、スプーンにのせられたモンドール。付け合わせは、ドライアプリコットとドライフィグです。

苺/イチゴ/いちご

苺/イチゴ/いちご (C) 東龍
苺/イチゴ/いちご (C) 東龍

イチゴずくめのデザート。真ん中に鎮座しているのは、あまおうのソルベです。ソルベの土台は茨城県とちとおとめのマリネとライムのグラニテで、ソースは3種のいちごミルク。オパリーヌ=飴細工やメレンゲで、アーティスティックなシェイプを表現。リムにのせられているのは、ヘタがピスタチオのビスキュイでつくられた紅ほっぺのムースと、とちおとめのチョコレートがけと、細やかな技が光ります。

小菓子

小菓子 (C) 東龍
小菓子 (C) 東龍

最後は3種類の小菓子です。グリオットチェリーを包んだルビーチョコレート、チョコレートの飾りがのせられたマンダリンオレンジのパート・ド・フリュイ、金粉のかかったピスタチオのケーク。見た目も味わいも異なるので、最後までおいしく食べられます。

ペアリングワイン

ペアリングワイン (C) 東龍
ペアリングワイン (C) 東龍

豪華な料理に負けないよう、ワインも充実していました。コースに付くシャンパーニュは「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」。バランスのとれた味わいと果実味があり、きめ細やかな泡が心地よいです。アミューズや前菜との相性は抜群です。

ペアリングワイン(5,000円、税・サ込)も用意されており、白2種、赤1種と良心的な価格。

「ドゥ・ラドゥセット プイィ・フュメ 2020」はハーブや柑橘系フルーツの香りが豊かな辛口で、クエやサーモン、ホタテやアワビにぴったり。「ジョセフ・ドルーアン サン・ヴェラン 2020」は優しい酸味と樽の風味が特徴で、滋味のあるオマールブルーによく合っていました。

「シャトー マルテ レゼルヴ・ド・ファミーユ 2018」はメルロー100%で果実味の凝縮感が味わえます。ボディがしっかりした赤ワインで、黒毛和牛に負けていません。

2回目の開催

個室テーブル (C) 東龍
個室テーブル (C) 東龍

松山氏のシュヴァリエ受章を記念したガラディナーでしたが、「Menu Inspiration ~アンスピラシオン~」が開催されたのは、今回で2回目でした。

前回の開催は2019年で、この時は松山氏の総料理長就任を記念してのこと。本来であれば毎年行いたかったのですが、コロナ禍でそれが叶わず、受章記念を契機に開催されたのです。松山氏は次のように振り返ります。

「2022年11月に受章の連絡をいただき、12月にガラディナーの開催が決定しました。普段からアイデアが浮かぶとその場でメニューをメモしていたので、コース内容はすぐに決まりましたね」

ゲストも心待ちにしており、3日間の予約はすぐに満席となりました。

「満席でしたが、全てのテーブルを回ってお客様にしっかりとご挨拶し、料理を説明させていただけました」

息が吹き込まれたもの

「アンスピラシオン」は英訳すると「インスピレーション」=「息を吹き込まれたもの」という意味です。松山氏はどのような意図で命名したのか答えます。

「メニューにはあえて詳細を記さず、食材だけを載せました。どのような一皿が目の前に現れるのか、どのような味わいが体験できるのかと、期待していただきたかったからです」

ゲストの反応について、松山氏は言葉を続けます。

「『おいしかった』も嬉しいですが、『楽しかった』といっていただけると、特に嬉しいですね。みなさまにより楽しんでもらえるように、今後もフランス食材を学び、可能性を広げるべく、さらに研鑽を積んで技を磨き上げ、個性をだしていきたいです」

来年以降も開催していきたいということなので、松山氏が“息を吹き込んだ料理”の数々に今後も期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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