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張り紙に「店内で吐いたら罰金2万円」も弁護士は無効と指摘! 飲食店が嘔吐で大迷惑な5つの理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店での嘔吐

飲食店で体調が悪くなり、嘔吐してしまった経験はありますか。

自分ではなかったとしても、子どもなど家族であったり、同僚や友人であったりと、同席者が嘔吐したことはあるかもしれません。

弁護士ドットコムで、飲食店での嘔吐に関する記事がありました。

「吐いたら罰金2万円」飲食店の張り紙、本当に支払う必要あるの?/弁護士ドットコム

ある居酒屋で、店内での嘔吐は損害賠償として2万円を請求するという注意書きがあったといいます。

弁護士の尾崎博彦氏は、張り紙がされているだけで、店と客の間で嘔吐したら2万円支払うという契約が成立していないので、嘔吐してもお金を請求できないと述べました。

無理して飲みすぎたのではない限り、体調が悪くなって嘔吐してしまうのは仕方ありません。ただ、店内での嘔吐は、様々な観点から飲食店に迷惑をかけることになるので、説明していきましょう。

店が汚れる

店内で嘔吐すると、どれくらいの範囲が汚れるのでしょうか。東京都健康安全研究センターの調査によれば、1メートルの高さから嘔吐した場合には、半径2メートルの範囲に影響が及ぶとあります。

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したがって、食べている時に嘔吐すれば、テーブルやイスだけではなく、床や壁など広い範囲に飛散していると考えてよいでしょう。

テーブルクロスやイスのクッションは、汚れが完全には落ちません。汚れが落ちたとしても、臭いは残ってしまいます。通路や壁、トイレであれば、客席ほど影響はないかもしれませんが、汚れや臭いが残るのは同じです。

臭いはいずれなくなるかもしれません。しかし汚れは残ってしまうので、クリーニングや買い替えの必要が生じます。その場合には数千円から数万円の費用がかかるので、飲食店にとっては少なからぬ出費となるでしょう。

人的リソースを要する

汚物を掃除するには、人的リソースが必要です。しっかりと処理すれば、面倒な作業になります。

まず時計など身につけているものを外して、エプロンや手袋などを着用。汚物に次亜塩素酸ナトリウムをかけ、キッチンペーパーやシートなどで拭き取ります。そこからまた次亜塩素酸ナトリウムをかけ、15分ほど経過してから、水拭きや乾拭き。汚物や使用したものをポリ袋にまとめて捨てて、最後にしっかりと手洗いやうがいをして、ようやく終了です。

汚物処理に1人のスタッフが20分から30分も対応しなければなりません。飲食店はただでさえ、ギリギリのスタッフ人数で運営しているところがほとんど。

サービススタッフが1人から2人という小箱の飲食店であれば、他の客へのサービスが大きく滞ってしまうのは明らかです。大きな飲食店であれば、スタッフの人数が多いのでまだ何とかフォローできるかもしれませんが、人数が減ることによって、サービスのクオリティが低下することは間違いありません。

雰囲気が悪くなる

嘔吐があると、店内の雰囲気が悪くなってしまいます。

スタッフが嘔吐に対応するので店内が騒々しくなり、落ち着きません。嘔吐する様子を見てしまった場合には当然のことながら、そうでなかったとしても、流れてきた臭いによって、料理やお酒がおいしく感じられなくなってしまいます。

席の近くで嘔吐されれば、ノロウイルスなどの感染症の心配もあり、楽しく食事できる心境ではなくなるでしょう。

ファインダイニングではもちろん、場末の居酒屋であったとしても同じことです。嘔吐によって快適であるはずの空間が毀損されてしまいます。

来店機会を逸失する

客席が汚れると、清掃しなければならないので、その席をすぐに使用することができません。清掃が終わったとしても、まだ汚れが残っていたり、臭いが漂っていたりすれば、客を案内することは難しいでしょう。場合によっては、その席だけではなく、周りの席に案内することも控えられます。

そうなれば、客席の稼働率が落ちてしまうのは避けられません。たとえば、2人テーブル10卓、全20席の店であれば、客席稼働率が10%も落ちます。隣のテーブルにまで影響があれば、客席稼働率が30%も落ちてしまうのです。

客席稼働率の低下は、売上低下に直結します。せっかくの来店機会を逃すことにもつながるのは、由々しき事態です。

イメージダウンになる

飲食店の雰囲気は客がつくるものとよくいわれます。まさにその通りであり、たとえば、ファミリー客が多ければ子連れにも優しい賑やかなカジュアルダイニングであると認識され、カップルが多ければデートに誘えるファインダイニングであると思われ、1人客がちらほら見掛けられたらふらりと寄ってもよさそうな店であると感じられることでしょう。

飲食店にとって、最も重要な要素のひとつは衛生環境。したがって、嘔吐が発生することによって、衛生的ではない店であると思われてしまうのは、大きなイメージダウンです。

どんなにおいしい料理を食べていたとしても、どんなにプレミアムなワインで喉を潤していたとしても、どんなに大切な相手と楽しく会話していたとしても、嘔吐の場面に遭遇すれば心象が悪くなってしまいます。飲食店が悪いのではないにせよ、このような体験をすれば、同じ店に行きたいと思う客は減ってしまうでしょう。

飲食店にも他の客にも迷惑がかかる

飲食店で体調が悪くなってしまい、嘔吐するのは、客にとっても気の毒なこと。ただ以上のように、店内で嘔吐すると、飲食店は様々な点で迷惑を被ってしまいます。他の客にも迷惑がかかってしまうのも、困ったところです。

それにもかかわらず、冒頭で紹介したように、飲食店が迷惑料や損害賠償として客にお金を請求するのは難しいといいます。そうであれば、せめてもの救いとして、少しでも多くの方に飲食店の苦労をわかってもらえたら幸いです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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