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1年が経ってさらに進化! 星のや東京の発酵をテーマにした美食の全容

東龍グルメジャーナリスト
石/ 五つの意思 (C) 東龍

発酵食品がブーム

発酵食品が数年前からブームとなっています。レシピサイトで発酵食品の検索数が伸びたり、積極的に発酵食品を摂取して健康維持や免疫力改善に努めたりする人が増えているのです。

日本の暑い夏が始まり、今年も猛暑になっています。夏バテ防止や免疫力向上を意識して、発酵食品がますます注目されています。

発酵食品とは

ところで、発酵食品とは何でしょうか。

発酵とは、主に微生物の働きで有機物が分解され、特定の物質が生成される現象。この発酵によって生み出された食品が、発酵食品です。

微生物の働きで有機物が分解され、特定の物質を生成する現象。狭義には無酸素状態で糖質が分解されること。生物体はこれにより必要なエネルギーを獲得する。生成される物質によってアルコール発酵・乳酸発酵・メタン発酵などとよぶ。酒・醤油・味噌・ビール・チーズなどの製造に利用。

発酵とは - コトバンク

醤油、味噌、酢、塩麹、みりん、納豆、鰹節、漬物、日本酒、甘酒といった日本の食文化に根ざしたものから、かんずり、なれずし、いぶりがっこ、くさや、ふなずし、どぶろくといった郷土で培われてきたものがあります。

発酵食品の文化が進んでいるから長寿であるといった主張もあるなど、日本は世界でも類を見ないほど発酵食品が食べられている国です。

発酵×フレンチをテーマにした美食

星のや東京ダイニング (C) 東龍
星のや東京ダイニング (C) 東龍

発酵食品はファインダイニングやガストロノミーで部分的に取り入れられることはありますが、発酵そのものがテーマに据えられたものはなかなかありません。

こういった状況にあって、発酵を美食のテーマに掲げ、1年が経過するレストランがあります。それは星のや東京にある「星のや東京ダイニング」。

星のや東京は、国内外に51施設を運営する星野リゾートが掛けた塔の日本旅館です。玄関で靴を脱ぎ、イグサの香りや畳表のテクスチャを感じたり、地下1500mから湧き出る大手町温泉に浸かったり、各階に設けられた宿泊者専用の「お茶の間ラウンジ」で時を忘れて過ごせたりする、都会の贅沢な旅館。

そして、宿泊者だけが利用できるのが地階にある「星のや東京ダイニング」。地層をイメージしたデザインはまるで違う世界にいるかのように幻想的。6室の個室とセミプライベートな4テーブルでは、他のゲストを気にせずに、料理を味わい、会話を楽しめます。

料理長は浜田統之氏

この「星のや東京ダイニング」で料理長を務めているのが浜田統之氏。2004年のボキューズ・ドール国際料理コンクールの日本大会で最年少優勝を果たし、2013年の同コンクールフランス大会では魚料理の世界1位に輝きました。

華麗な経歴を誇り、天才とも称される浜田氏が創り出し、2020年8月から提供しているコースが「Nipponキュイジーヌ~発酵~」(19,800円、税込・サ別、宿泊料別)。日本に古くからある醤油、味噌といった調味料、漬物、塩辛などの様々な発酵食品とフレンチの技法の組み合わせをテーマにしています。メニューに食材とともに料理を表す漢字一文字が書かれているのも、面白い試みです。

提供当初から話題を呼んだ発酵×フレンチコースは1年経ってどのように進化したのでしょうか。

2021年6月16日から8月31日まで提供されている「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」の夏のコースについて、いくつかのメニューを詳しく紹介していきます。

肥/ 鰻

肥/ 鰻 (C) 東龍
肥/ 鰻 (C) 東龍

最初の一品はウナギとサマートリュフ、サワークリームをライ麦パンにのせたオープンサンドウィッチです。ハスの葉にのせられたプレゼンテーションも印象的。ウナギの土っぽさとサマートリュフがもつ独特の香りがよく合っています。

石/ 五つの意思

石/ 五つの意思 (C) 東龍
石/ 五つの意思 (C) 東龍

浜田氏のシグネチャーディッシュのひとつ。酸・塩・苦・辛・甘という五味をそれぞれ小さな料理で表現しています。どれも一口サイズながら、複雑な味わいとテクスチャがあって繊細な技術が必要です。

酸味は味噌の「鯵のルーロー」、塩味は塩麹の「ほおずきのガスパチョ」、苦味はサザエの麹漬けと海苔醤の「サザエのムース」、辛味は辛麹の「たこのメルゲーズ」、甘味は黒みりんの「穴子の甘露煮」と様々な発酵食品が用いられています。

尽/鰹

尽/鰹 (C) 東龍
尽/鰹 (C) 東龍

夏に旬を迎えるカツオの冷前菜。藁焼きにして旨味が閉じ込められたカツオを米麹醤とごま油でマリネしました。南高梅やミョウガ、酒盗を用いた酸味のあるソースがよく合います。

カツオのブーダンノワールにも注目です。ブーダンノワールとは、豚肉の血と脂でつくられたフランスの腸詰めですが、これをカツオで創りだしました。普段は捨てられる血合いが用いられており、尽という文字の通り、カツオ尽くしの一皿に。

蒼/鮎

蒼/鮎 (C) 東龍
蒼/鮎 (C) 東龍

約6時間コンフィしたアユをパートブリックで包み、まるごと全て味わえるようにしました。身や内蔵の味わいに複雑さがあって、食感のコントラストも楽しめます。アユの内臓を発酵させてつくられた発酵調味料「黒うるか」に黒オリーブやニンニク、ケッパーを合わせたタプナードソースが出色です。

アユはスイカの香りがするといわれていることから、スイカのピューレやグリーントマト、ビネガーを用いたスイカのカッペリーニが添えられているのも、素晴らしいアイデアです。

凝/牛タン

凝/牛タン (C) 東龍
凝/牛タン (C) 東龍

牛タンとアワビを用いた贅沢なメインディッシュ。香ばしく焼いた牛タンと煮たアワビ、発酵昆布の佃煮をミルフィーユ状に重ねました。アワビの肝と赤ワインのソースはコクとほんのりとした苦味があって、牛タンの旨味を引き出しています。

牛肉の幅広い味わい方を知ってほしいという浜田氏の想いから、温かい料理だけではなく、冷たい料理も味わえるのも特長。冷たいテリーヌは牛テールとフォアグラ、奈良漬けやシイタケの佃煮、牛テールのブイヨンで構成された和洋折衷の一品です。

遊/桃

遊/桃 (C) 東龍
遊/桃 (C) 東龍

真空調理したフレッシュな桃のコンポートを爽やかな発酵クリームとあわせた夏らしいデザート。上には蝶を象ったラングドシャがのせられており、草原の中の一輪の草花に向かう様子をイメージしています。

ナイフを入れると、蝶が舞うという演出もあり、遊び心が満載。詳しくは実際に体験してみてもらえたらと思います。

浜田料理長の想い

どのメニューにも発酵食品が用いられ、美食の一品に仕上げられていることが、わかってもらえたと思います。

発酵をテーマにしたコースの提供を始めてから1年が経過しますが、何か変化はあったのでしょうか。浜田氏は次のように答えます。

「一年前に比べると、発酵食材に対する理解が深まり、使用する発酵食材や発酵調味料の幅が広がった。日本で馴染みのある発酵食材をフランス料理に組み入れることで、発酵食材の新しい表現方法を確立できたように思う。ただ単に発酵食材を取り入れるだけでなく、主役の食材を引き立たせることを意識している」

完成させたメニューの中でも思い入れの深いものがあるといいます。

「最も思い入れのあるメニューはアユのコンフィ。アユは夏の季語にもなる日本ならではの食材。フレンチの技法で調理することによって、一匹まるごと味わえるように仕立てた。日本ならではの黒うるかを用いたタプナードソースも、このコースならでは」

コロナ禍で自粛生活が続いていることから、工夫していることもあります。悩みやストレスを抱える機会も多いので、頭で考えて食べる料理ではなく、目で見て感覚的に楽しめるような料理を提供するようにしているのです。

こういった工夫もあり、ゲストからは「免疫力を高めるだけではなく、おいしかった」「コロナ禍ということを忘れて、食事を楽しめた」という言葉があったといいます。

今後についてはどのように考えているのでしょうか。

「日本各地に伝わる伝統的な発酵食材を追求していき、フレンチの技法を用いて、今までにない食材を組み合わせたい。日本にはまだ知られていない発酵食材がたくさんあるので、常識に捉われず、魅力的な料理をつくれたらと思う」

東京の文化を学ぶ催し物も

星野リゾートは、その地に根ざしたおもてなしを行うことでも有名です。星のや東京は7月22日から8月8日にかけて、東京の魅力を再発見する「お江戸・文化の宴」を開催。この催しでは、江戸時代に発展した文化にルーツがあり、今もなおこだわりを持ちながら商いを続けている和菓子店や料理店、工芸店など日によって異なる老舗が星のや東京に集まりました。

蛇の市本店 (C) 東龍
蛇の市本店 (C) 東龍

2階にあるレセプションスペースで、日本橋本石町にある「いづもや本店」のウナギを串に巻き付けて焼いた「くりから焼き」、日本橋魚河岸に1889年創業した「蛇の市本店」の「煮穴子の握り」および星のや東京オリジナル枡を使用した「特製ちらし」など老舗の味を楽しめるようにしました。

食以外には、戸田屋商店による「梨園染」の手ぬぐいなど、職人技を学べる機会もあり、東京の文化をより深く知ることができる意義ある試みだったのです。お祭り気分を味わえる設えや、縁日で親しまれている遊びを楽しめる「東京・夏夜の宴」は8月31日まで開催中。

発酵や熟成は、食べ物の旨味や栄養価を増して、身体を内側から元気にしてくれます。発酵食品をふんだんに取り入れた「Nipponキュイジーヌ~発酵~」を体験すれば、日本の食文化を再認識できるとともに、日本の暑い夏も元気に乗り切れるのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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