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大盛りで有名な「ラーメン二郎」で起きる大食いハラスメントが断じて許されない理由

東龍グルメジャーナリスト
大盛りラーメンのイメージ(写真:アフロ)

ハラスメントとは

ハラスメントといえば何を思い浮かべますか。

ハラスメントとは弱い立場の相手に嫌がらせをすることであり、英語ではharassmentと表記されます。

ハラスメントとして主に知られているのは、厚生労働省でも挙げられているパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントではないでしょうか。これ以外にもまだたくさんあり、30以上ものハラスメントがあるということです。

ジェンダーハラスメントやアカデミックハラスメント、ブラッドタイプハラスメントからテクノロジーハラスメントなど、実に様々なものがあります。

ここまで多岐に渡ると、名称を聞いただけでは、どういったものなのかすぐにわからないかもしれません。しかし、強者から弱者への行為という性質上、ハラスメントを受けた方が苦しい思いをしていることは確かでしょう。

「ラーメン二郎」でハラスメント

先日、J-CASTニュースの記事で、飲食に関する新しいハラスメントを知りました。それは、大盛りラーメンで有名な「ラーメン二郎」でのハラスメントです。

春先に先輩社員や先輩学生が後輩を連れて来て、無理やり大盛りを注文させ、食べるのに苦戦したり、食べ残したりしている様子を楽しそうに見ているというのです。

そして、こういった行為に対して、見ていて気持ちのよいものではないのでやめてもらうようにと、店側がTwitterに投稿しました。

お世話になってます。この時期になると先輩社員や先輩学生さんが後輩を連れてきて無理矢理大盛りを注文させて食べるのに苦戦していたり食べ残してるのを見ながらニヤニヤしてるのをよく見かけます。あまり見ていて気持ちの良いものではないのでその様な行為はしないでください。よろしくお願いします。

(原文ママ)

ラーメン二郎亀戸店(Twitter)

先の記事では、この行為がメシハラと表現されていました。メシハラとは無理やり食べさせたり、完食させたりすること。さらには、乗り気でないのに食事に誘ったりすることも含まれるといいます。

このどれもが第三者から見ても気分がよいものではありません。ましてや、食事の提供者からすれば、より気分がよくないのは明らかなので、注意を促すのも納得できます。

食事を通した嫌がらせ

食事に関するハラスメントには、どういったものがあるでしょうか。

アルコールを強要するアルコールハラスメント、コーヒーなどを飲ませるカフェインハラスメントが少し前に話題となりました。

すする音で不快にさせるというヌードルハラスメント、さらには、銘菓を特定の人だけに配らなかったり、無理に食べさせたり、購入を強要したりするお土産ハラスメントなど、食にまつわるハラスメントも少なくありません。一緒に食事する相手にひたすらウンチクを聞かせるグルメハラスメントまであります。

このように、食事に関するハラスメントもたくさんありますが、件のような大食いを強要するハラスメントは特に悪質です。その理由について説明しましょう。

様々な観点から推奨されない

食育では、色々なものを適量に食べ、バランスよく栄養をとることが大切であるとされています。食べられないような分量の料理をオーダーして食べ残すことは推奨されていません。食育の一環で行われているバイキング給食では、自分で食べられるだけの分量を取ることを学びます。

共に食事をとることは、古くから様々な地域の文化や風土の中で、宗教儀式、祝事や慶事の中で大きな役割を果たしてきました。同じコミュニティの中で同じものを食すことによって、絆を深めたり、身内意識を高めたりしてきたのです。嫌がらせのために食事を共にするのは、社会性が欠如しているように感じられます。

食品ロス(フードロス)の観点からしても問題。食べ残しやすくなる状況をつくり出すことによって、食品ロスが発生しやすくなるからです。

食べ物を遊びの道具のように扱うことは、飲食店や生産者を蔑ろにする行為。食材や食事を一生懸命につくってくれた人々に対する敬意の念が不足しています。

他の客にまで迷惑

大食いの強要は、食育や食文化、食品ロス、つくり手の観点に立ってみれば、決して行ってはなりません。それ以外に、他の客にも悪い影響を与えることも問題です。

人は通常、他の人がおいしそうに食べている様子を見ると、よりおいしいと思って食べられます。まずそうに食べていたり、苦しそうに食べていたり、つらそうに食べていたりする姿を見て、食欲が増す人はまずいません。

苦しそうに大食いさせられている人を見ていれば、おいしい料理もあまりおいしく感じられなくなってしまうでしょう。あまりおいしく食べられなくなった他の客だけではなく、本来はおいしく食べてもらえたはずの飲食店にとっても、大きな迷惑となります。

そもそも大食いは好ましくない

大食いを強要することは大きな問題であると述べてきました。ただ実をいえば、強要されなかったとしても、そもそも大食い自体がよいものではありません。

大食いは摂食障害を肯定することにもつながります。必要以上に食べることや食べようとすることは、食品ロスをはじめとして、サステナビリティ(持続可能性)の観点から好ましくありません。大食いをゲームや競技のように行うことは、つくり手や生産者の立場や気持ちを考慮しておらず、とても失礼です。

現代は大量生産して無駄に消費する時代ではありません。適量から逸脱した分量の食べ物を摂取したり、廃棄したりすることは何の自慢にもならないのです。

そして、飲食店で大食いメニューが提供されることも時代錯誤ではないでしょうか。今回の件を通して、大食いそのものを改めて見直すよい機会になることを願います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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