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閉店する帝国ホテル 東京「ラ ブラスリー」で復刻コースを提供 40年間で人気トップ2のメニューは?

東龍グルメジャーナリスト
帝国ホテル 東京「ラ ブラスリー」 (C) 東龍

帝国ホテル 東京のタワー館が閉館

1890年に開業した帝国ホテルは、国内外でも評価の高い日本を代表するホテル。様々なホテル初のサービスを始めたほか、時代を先行して客室や料飲施設をリノベーションするなどし、常にトレンドを牽引してきました。

帝国ホテル 東京は、1970年に3代目となる現在の本館が開業。1983年にタワー館が隣に開業してからは、大きな建て替えが行われていませんでしたが、もうすぐ大きな節目を迎えます。2036年の新本館完成に向けた建て替え計画に先駆けて、タワー館が2024年6月末に営業を終了するのです。

営業を終了して閉館するまでには2つのステップを踏みます。

2024年3月末で、「ホテルバル」のほか、テナントレストランの「東京吉兆」 「鮨源」「天一」 「北京」、さらにはタワー館にあるオフィスや商業施設「帝国ホテルプラザ 東京」がクローズしました。そして6月末に「ラ ブラスリー」、長期滞在向け「サービスアパートメント」や「プール・サウナ」、宴会場 「光の間」が営業を終了します。「帝国ホテル 寅黒」とホテルショップ「ガルガンチュワ」、「フィットネスセンター」は本館に移動して営業を継続する予定です。

惜しまれながらクローズする「ラ ブラスリー」

帝国ホテル 東京「ラ ブラスリー」 (C) 東龍
帝国ホテル 東京「ラ ブラスリー」 (C) 東龍

終了するレストランの中で多くのファンに惜しまれているのが「ラ ブラスリー」。

「ラ ブラスリー」は1983年にオープンし、40年余りの歴史を刻んできました。コンセプトは「本場パリのブラスリーのような気取らない雰囲気の中で心ゆくまで料理とワインを楽しむ」こと。数ある帝国ホテルの伝統の味を継承しながらも、時代に合わせて進化させ、舌の肥えたゲストを魅了してきました。

ブラックボードでも案内 (C) 東龍
ブラックボードでも案内 (C) 東龍

2021年11月1日からは帝国ホテル第14代東京料理長を務める杉本雄氏が中心となってメニューをリニューアル。ホテル伝統のフランス料理はもちろん、サステナブルな視点でつくられたメニューもラインナップされています。シェフのおすすめメニューをブラックボードで案内するなど、よりブラッスリーらしいスタイルとなりました。

2022年4月からは、鎌田英基氏がシェフに就任。フランス料理の三大コンクールのひとつ「<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール・ジャポン」で2度も優勝し、世界大会でも3位に入賞したという実力派です。

多数のシグネチャーディッシュ

伝統と歴史があるだけに、「ラ ブラスリー」には定番料理が多数あります。

「伝統のダブルビーフコンソメスープ」(2,700円)は、1890年の開業当時から基本的なレシピをほぼ変えず、歴代のシェフが代々受け継いできた伝統の一品。牛肉と香味野菜をじっくり煮込んで旨味を引き出し、それを元にさらにコンソメをとる極みのコンソメスープで、琥珀色に澄んだ色合いが非常に美しいです。

海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風 (C) 東龍
海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風 (C) 東龍

驚きの逸話をもつのが「海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風」(6,400円)。1975年イギリスのエリザベス二世女王陛下が帝国ホテルで開催された午餐会へ出席した際に、当時料理長を務めていた村上信夫氏が、魚介類好きの女王のために考案したメニューです。大変気に入られた女王が、自身の名を冠することを快諾しました。

シャリアピンステーキ (C) 東龍
シャリアピンステーキ (C) 東龍

「シャリアピンステーキ」(5,900円)は、1934年帝国ホテルに滞在したロシア人オペラ歌手 フョードル・イワノビッチ・シャリアピンのために生み出されたステーキ。玉葱に漬け込んでやわらかく仕上げた生ランプ肉と、ソースの代わりにたっぷりのせた玉葱のソテーが、牛肉の上味を引き出しています。

「チェリージュビリー」(2,800円)は、大粒の甘酸っぱいチェリーとキルシュソースのふくいくたる香りが調和したデザート。温かなソースと冷たいバニラアイスクリームのコントラストもまた出色です。

復刻メニュー

前述のメニュー以外にも、ゲストに愛されたものが、まだまだたくさんあります。

2024年1月23日から3月31日までは「Menu du Voyage Historique(ムニュ デュ ヴォヤージュ イストリック)」(13,500円)と称された復刻料理コースの第1弾が登場。

Menu du Voyage Historique
・前菜
サラダ・ド・フリュイ・ド・メール
・魚料理
ソール・ファルシー
・肉料理
仔牛のカツレツ・コルドンブルー
・デザート
ピーチ・メルバ
・スープ(オプション) +2,000円
オマール海老のビスク

クラシックな料理を、鎌田氏が伝統とエッセンスを大事にしながら、現代にも合うように仕上げました。

そして、2024年4月1日から6月30日にかけては、第2弾となる「Menu du Voyage Historique Ⅱ」(13,500円)が提供されています。

Menu du Voyage Historique Ⅱ
・前菜
パリ・ソワール
・魚料理
ホタテ貝のポワレ
・肉料理
仔羊背肉のロースト ソース・シャスール
・デザート
クレープシュゼット

こちらも前菜、魚料理、肉料理、デザートという大満足のコース。営業終了日まで体験できるのも嬉しいところです。

パリ・ソワール

パリ・ソワール (C) 東龍
パリ・ソワール (C) 東龍

凛としたロングステムのカクテルグラスで提供。二層になっていて、上が冷たいジャガイモのスープ=ヴィシソワーズ、下は旨味たっぷりのコンソメジュレ。底まですくって一緒に食べると、渾然一体となり、甘味と旨味が調和します。だんだんと暖かくなってくるだけに、ひんやり感がより一層おいしく感じられます。

ホタテ貝のポワレ

ホタテ貝のポワレ (C) 東龍
ホタテ貝のポワレ (C) 東龍

当時からよく使用されていた食材のひとつである帆立貝を入れたかったということで、シェフの鎌田氏が復刻メニューに加えた一品。帆立貝の甘味を残しながら、ややしっかりめにポワレしています。帆立貝は大きくて弾力があるので食べ応え満点。シャンパーニュを加えたカリフラワーのクリームソースは、上品なのでマッチします。そら豆、ロマネスコ、カリフラワー、蕪など野菜もたっぷり。爽やかなセロリの香りと冴えたレモンの酸味も素晴らしいです。

仔羊背肉のロースト ソース・シャスール

仔羊背肉のロースト ソース・シャスール (C) 東龍
仔羊背肉のロースト ソース・シャスール (C) 東龍

かつて人気だったメニューを再現しました。仔羊背肉は厚みが5センチはあろうかというほどのボリュームで、十二分の迫力。やわらかく繊細に火入れしており、仔羊がもつシルキーなテクスチャと独特の至味を堪能できます。猟師を意味する「シャスール」ソースは、キノコ、エシャロットなどでつくられていて、濃厚で香り高く、肉料理と抜群の相性。フィンガーボールが添えられているので、骨に付いたおいしい肉も余すところなく味わえます。

クレープシュゼット

クレープシュゼット (C) 東龍
クレープシュゼット (C) 東龍

圧倒的な人気を誇るデザート。香味の素晴らしいバニラアイスクリームが別添えになっているので、好みでのせましょう。クレープ生地はしっとりしていて、その中には、グランマニエの幽香をまとったカスタードクリームが包まれています。

フランスのワイン

左から順番に、本文中のワインに対応 (C) 東龍
左から順番に、本文中のワインに対応 (C) 東龍

ブラッスリーには、ワインが欠かせません。フランスを中心にして、スパークリングワインが3種類、白ワインが4種類、ロゼワインが1種類、赤ワインが4種類も、グラスで用意されています。

「ルイ ロデレール コレクション 244」(2,300円)は、数々の受賞歴を誇る世界最高峰の老舗シャンパーニュメゾンのスタンダードライン。黄金色の美しい色調で、きめ細やかな泡が立ち上ります。爽やかな柑橘系の香りで、最初の一杯にぴったりです。

前菜と魚介料理に最適なのが「シャブリ ジョエル ヴリニョ 2022」(2,400円)。ミネラル感たっぷりで、シトラスの香りの中に白い花の香りが現れ、フルーティーさもあります。

「シャトー デュ ルトー 2017」(1,900円)はしっかりとした肉料理に合わせたい一本。圧倒的な果実の新鮮味と力強い骨格があり、肉の旨味をさらに豊かにします。

復刻コースが提供された背景

「ラ ブラスリー」内観 (C) 東龍
「ラ ブラスリー」内観 (C) 東龍

これまでもファンから往年のメニューがまた食べたいと多くのリクエストがありましたが、クローズするにあたって、その声がより大きくなっていきました。

そこで復刻コースを提供することになりましたが、どのメニューを復刻させるかをホテルが決めるのではなく、これまで利用していたゲストに感謝の気持ちを込め、人気メニューの投票を募ることになりました。

2023年9月から11月末にかけて、ウェブでアンケートを実施。1万以上もの投票が行われ、1位が「シャリアピンステーキ」、2位が「海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風」と、知名度が抜群のメニューがトップ2を飾りました。5位以内には「伝統のダブルビーフコンソメスープ」や「クレープシュゼット」も入っています。

人気上位となったメニューの中から、鎌田氏がバランスや構成などを吟味し、復刻コースを紡ぎあげました。「シャリアピンステーキ」「海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風」「伝統のダブルビーフコンソメスープ」は、どれも現在アラカルトでオーダーできるので、復刻コースには入っていません。

今後どうなるのか

2024年6月末にタワー館が閉館し、7月から着工予定です。

「シャリアピンステーキ」や「海老と舌平目のグラタン “エリザベス女王”風」などをはじめとして、帝国ホテル伝統のメニューがどのように紡がれていくのか、とても気になるところ。

私が予想するところでは、他のレストランで登場したり、バンケットの特別メニューとしてラインナップされたりと、様々なことが考えられます。素晴らしいメニューばかりなので、何らかの形で、必ず“伝統の味”が継承されていくことでしょう。

40年前タワー館の開業と共に「ラ ブラスリー」がオープンした際には、「あの帝国ホテルがホテル初のブラッスリーをオープンする」と驚かれるほど、革新的な試みだったといいます。「ラ ブラスリー」は日本で本場のブラッスリーの料理とワイン、雰囲気を堪能できる唯一無二の空間であるだけに、クローズする前に是非とも足を運んでみてください。

※価格は全てサービス料込

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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