最高級品は1万3千円! ホテルのクッキー缶が人気となっている3つの理由
巣ごもり消費が伸びている
新型コロナウイルスの感染が収束する気配をみせず、観光や外食といった経済活動は停滞しています。しかしその一方で、自宅で過ごす時間が増え、巣ごもり消費が伸びているという状況です。
飲食店に関して様々なデータをもつ大手予約サービス「TableCheck」によれば、営業自粛中に新しく始めたサービスのトップが37.9%のテイクアウト。その次が17.4%のデリバリー、5.4%のEC(通販)と続きます。営業自粛が解除された後も、7割近くが継続して行うということです。
消費者による外食が今後も控えられることから、テイクアウトは引き続き大きな需要があることでしょう。
クッキー缶に注目
こういった状況にあって、特に注目したいテイクアウトがあります。
それは、ホテルが販売しているクッキー缶。
ホテルは新型コロナウイルスの影響で、宿泊、ウェディング、企業のイベントや宴会、レストランが不調となっており、非常に厳しい局面に立たされています。しかし、数多くの優秀な料理人や才能あるパティシエに加えて、料飲部門に特化した企画部やトレンドに通じたマーケティング部門も擁しているのです。
こういったホテリエたちが知恵を絞ったり、技術を駆使したりして、自宅で楽しめる商品を開発し、逆境を跳ね返そうとしています。
そして、販売している商品の中でも特に興味深いのが、焼菓子を詰め合わせたクッキー缶。なぜならば、有名ホテルが新しくクッキー缶を販売し、売れ行きも好調であるからです。
ホテルメイドクッキーアソート/ウェスティンホテル東京
ウェスティンホテル東京は2020年3月1日から、エグゼクティブペストリーシェフである鈴木一夫氏による「ホテルメイドクッキーアソート」の販売を始めました。
9種類のクッキーによるアソートで、黒ネコや白ネコ、サカナやクマを象った可愛らしいデザインのクッキーが非常に印象的です。
ホテルメイドクッキーアソート
- ココナッツ
- ピスタチオ
- 黒ネコ
- 白ネコ
- バニラクッキー
- キャレショコラ
- チョコチップクッキー
- ミニクッキー
「ピスタチオ」はピスタチオ入りの生地に、砂糖が側面にまぶされているのがよいアクセントになっています。「黒ネコ」と「白ネコ」は共に猫の姿をしており、前者はココア生地で後者はオリジナルサブレ生地。
「キャレショコラ」はココア生地にカカオニブが散らされていて、本格的なカカオ風味を楽しめます。「ミニクッキー」は魚の形や熊の顔を模しており、食べるのが可哀想に思うくらいです。
完全にホテルでつくっている
「ホテルメイドクッキーアソート」は、手土産の需要が高まっていることから開発されたといいます。
「一昔前ホテルに行けば、缶に入ったホテルメイドのクッキーが売られていた。昔ながらの懐かしいホテルのクッキーをイメージしながら、モダンにアレンジした新しいクッキーに仕上げている」と鈴木氏は説明します。
詰め合わせ内容はどのようなことを考えて決められたのでしょうか。
「誰でも召し上がれるように、シンプルで飽きない味わいにし、様々な風味を取り揃えた。目一杯ぎっしりと詰めて壊れることがないようにするため、時間をかけて形や組み合わせを試した」というこだわりよう。
特に力を入れたのは、全てがホテル内でつくられていること。ペストリーキッチンで全工程を丁寧に時間をかけて手作業しているので、まぎれもない完全なホテルメイドです。「蓋を開けた瞬間にバターや卵がよく香るのは、手作りならでは」と鈴木氏が説明する通り、蓋を開けると心地よい香りが広がります。
「非常に人気が高いが、手仕事でつくっているので、少量ずつしか生産できない」と述べますが、この稀少性や完全ホテルメイドが、広く支持されている所以でしょう。
プティフールセック缶/パレスホテル東京
パレスホテル東京の「プティフールセック缶」は2020年6月27日から販売されています。
ペストリーシェフ窪田修己氏による11種類の焼菓子が詰め合わせになっており、この缶でしか味わえないフレーバーもあります。
プティフールセック缶
- サブレ キャラメル サレ
- サブレ カネル アナナス
- サブレ サケ(酒)
- サブレ ショコラ
- サブレ ベルガモット
- ジャンドゥージャ
- サブレ フレーズ
- セサミ スティック
- フロランタン
- 抹茶クッキー
- ポルポロン
「サブレ カネル アナナス」はパイナップルジャムを挟んだ懐かしい味わいで、「サブレ サケ」は日本酒がふんわりと穏やかに香ります。「セサミ スティック」はゴマとハチミツ、バターのバランスがよいです。
「ジャンドゥージャ」はサクリとしたコルネに香ばしいジャンドゥージャクリームが詰め込まれており、「抹茶クッキー」はホワイトチョコレートの優しい甘味と抹茶のほろ苦さがよいコントラスト。
カスタマイズ性もある
「プティフールセック缶」を開発した理由を訊くと、窪田氏は「様々な流行が再来しており、今はクッキー缶がブーム。おいしさと共に形としても思い出に残る商品をつくりたいと考えた」と答えます。
エコロジーの観点からリサイクルできる缶を選び、大切な物をしまいたくなるような、愛らしいデザインにしたということです。
「見た目の彩りや華やかさはもちろん、味のバランスも考慮した。長年愛されてきた6種類に、新たに考案した5種類という構成。パレスホテル東京らしく、和三盆や日本酒など和の素材も使用されているので、和洋折衷の妙味を体験していただきたい」と自信をもちます。
クッキーにパイナップルジャムを挟んだり、軽い食感のサブレに塩キャラメルをコーティングしたりと、懐かしい焼菓子をモダンに仕上げているので、新しい食味に出会えることでしょう。
「オンラインショップでも購入でき、贈り物や自身へのご褒美として、たくさんのご注文をいただいている」と売上は好調であるといいます。
名前やメッセージをアイシングしたクッキーもオプションで入れられ、文字色やベースの柄も選べるなど、カスタマイズ性が高いのも好評の理由です。
ホテルニューオータニ プレミアム クッキー/ホテルニューオータニ
ホテルニューオータニは税抜で1万3千円という最高級の「ホテルニューオータニ プレミアム クッキー」を2020年6月15日から販売しています。
「美味と健康」をテーマとした進化系クッキーとして、グランシェフの中島眞介氏が新しい食材を駆使して生み出した商品です。
ホテルニューオータニ プレミアム クッキー
- パルメザンチーズクッキー
- サブレバニラ
- コーヒークッキー
- クロッカン
- ミニリーフパイ
- メレンゲ
- アールグレークッキー
- サブレショコラ
- サブレシナモン
「パルメザンチーズクッキー」は香り高さが癖になるザラメ糖をたっぷりとまぶした一品で、「サブレバニラ」はバニラビーンズをふんだんに用いた正統派のサブレ。
「コーヒークッキー」は風味が豊かな大人向けの本格的なクッキーで、「サブレショコラ」は優しいビターさで子供も楽しめます。
「クロッカン」は一口サイズでカリカリとした食感が印象的で、「ミニリーフパイ」はサクサクとした小気味よさが印象的。
新しい食材を用いている
「ホテルニューオータニ プレミアム クッキー」の開発には8ヶ月という長い時間を要しました。
なぜならば、大豆の豆乳クリームバター「ソイレブール」を使用したり、コーヒーチェリーの皮と果肉を乾燥させた栄養価の高い「カスカラ」を用いたりと、新しい食材が使われているからです。
中島氏は「バターを使用していないので、乳製品が苦手な方にも安心して召し上がっていただける」と補足します。
直径5~6センチで厚み1~1.5センチとなる6種のクッキーと、小粒な3種のクッキーで構成されており、全体で約1キログラムにもなる大満足のボリューム感。
缶を用いた理由は「鮮やかな水色の缶はプレゼントにしても喜ばれ、食べ終えた後にも様々な用途にご利用いただける」と述べます。
こだわりについて尋ねると「幅広い年齢層の方が楽しんでいただけるようにバリエーションを豊富にした。パティシエがひとつひとつ仕上げている」と説明。
インパクトのあるボリュームながらも、新しくてヘルシーな食材を用いています。高級ながらも完売が続出しているのは、美味と健康を両立させているからではないでしょうか。
プティ ガルガンチュワ クッキー グルマン/プティ ガルガンチュワ
帝国ホテル 東京は2020年8月3日に、来年50周年を迎えるホテルショップ「ガルガンチュワ」で初めてとなる姉妹店「プティ ガルガンチュワ」を東京駅「グランスタ東京」にオープンしました。
この「プティ ガルガンチュワ」では新しいクッキー缶となる「プティ ガルガンチュワ クッキー グルマン」が販売されています。
プティ ガルガンチュワ クッキー グルマン
- トマト
- パルミジャーノ・レッジャーノ
- 紅茶
- ごま黒糖
「トマト」はトマトの甘味と酸味がとれた自然な風味のクッキーで、「パルミジャーノ・レッジャーノ」はチーズの芳醇な香りが広がる、お酒と合う一品。
「紅茶」は上品なアールグレイの風味が印象的で、「ごま黒糖」は黒糖のコクと胡麻の力強さを取り合わせたクッキーとなっています。
ホテルのクオリティをエキナカで
「プティ ガルガンチュワ」は、受け継がれたおいしい洋菓子を届けたいとの思いから、様々な人が旅立つ東京駅の中にオープンしました。
「ガルガンチュワ」開店当時から愛されてきた定番スイーツをミニサイズにした「プティ ブルーベリーパイ」「プティ アップルパイ」が早速人気となっています。
こういった定番アイテムに加えて、新たなギフト向け商品を開発することになり、「プティ ガルガンチュワ クッキー グルマン」が誕生。
塩味の「トマト」「パルミジャーノ・レッジャーノ」と、甘味の「紅茶」「ごま黒糖」をバランスよく詰め合わせ、個別包装の贈り物に仕上げました。
缶が使用されているのは、食べ終えた後に小物入れなどに活用してもらいたいから。美食家の王ガルガンチュワが旅に出る一歩目を描いたデザインが印象的です。
紅茶の茶葉を粉末にして加えて香りが立つようにしたり、白ゴマと黒ゴマを合わせて味わいに深みを出したりと、素材の味が引き立っています。
エキナカのショップでありながらも本格的なクッキーを提供していることが、評判につながっている理由でしょう。
クッキー缶の共通点
コロナ禍において、新しく販売し始めたホテルのクッキー缶を紹介してきました。クッキー缶の需要を見出し、売上も好調であるといいますが、いくつかの特徴があります。
まず、クッキー缶を用いた理由が、懐かしさを演出し、食べ終えた後にも利用できるようにしたかったということ。ガストロノミーやスイーツの世界では、ファッションと同じように、昔ブームだったものが再び訪れることがあるので、懐かしいクッキー缶をアレンジしました。SDGsやサステナビリティという観点から、できるだけ資源を無駄にしないようにということで、紙ではなく再利用しやすい缶の箱を用いていることも、現代ならではの特徴でしょう。
次に挙げられるのは、巣ごもり消費やおうち時間といったキーワードを軸として、自宅で過ごす時間をより有意義に、より価値あるものにしようという考え方。外食することが自粛される雰囲気にあって、ホテルは自宅で味わえる食べ物に、食の叡智を注いでいるのです。レストランで食べるようなモダンでイノベーティブなものではなく、自宅で食べるのに相応しい、ホッと安心できるような味わいを意識しています。
最後の特徴としては、オリジナルのフレーバー。いくら自宅でリラックスして味わうといっても、一流のホテルのパティシエがつくっているのです。どこでも食べられるようなクッキーを提供するわけにはいきません。他では食べられないようなフレーバーや特別な食材を使用したクッキーを生み出し、新しい体験が得られるようにしているのです。
自宅でこそ楽しめる食の価値
新型コロナウイルスの感染がいつ収束するのか、全く先行きがみえません。
レストランの営業もいまだ回復せず、経済も低迷して不安な状況が続いていますが、その中にあっても、食は人にとって必要なものであり、励ましや喜びとなるもの。
缶詰の誕生はフランス革命を成し遂げたナポレオン・ボナパルトと深いつながりがありますが、そのナポレオンは鶏肉のマレンゴ風が大好物であったといいます。美食家であったナポレオンではなくても、缶の中にたっぷりと詰め込まれた香り高いクッキーは非常に魅力的なお菓子でしょう。
おうち時間をより充実に過ごし、より潤いのある食生活を過ごすためにも、懐かしくて新しいホテルのクッキー缶を是非とも味わってみていただきたいです。