こぼれんばかりのキャビアを用いた贅沢コースがミシュラン星つきフレンチで生まれた理由

ピエール・ガニェール@ANAインターコンチネンタルホテル東京/著者撮影

世界三大珍味のひとつであるキャビア

世界三大珍味といえば、フォアグラ、トリュフにキャビアです。

フォアグラはテリーヌにして冷菜として食べられたり、ポワレして温菜として提供されたり、ロッシーニ風のように肉と合わせられたりします。詰め物の中身にもよく使われており、フランス料理ではかなりポピュラーな高級食材であるといえるでしょう。

トリュフは、夏トリュフ、秋トリュフ、冬トリュフ(黒トリュフ)のいずれにおいても、フレッシュな状態もしくは熱を加えた状態で食べられます。白トリュフは主にフレッシュなものをスライスして食べることが一般的です。黒トリュフも白トリュフも様々な料理によく用いられています。

一方キャビアは、高価なものであれば100グラム8万円もする高級珍味となっていますが、パンの上に載せて食べたり、冷菜に添えたりと、食べ方の用途があまり広くありません。

キャビア特別コース

「ピエール・ガニェール」エントランス/著者撮影
「ピエール・ガニェール」エントランス/著者撮影

しかし、そのキャビアのポテンシャルを最大限に引き出して、最先端のフランス料理に昇華させているレストランがあります。

それは、ANAインターコンチネンタルホテル東京「ピエール・ガニェール」。

世界的な料理人であるピエール・ガニェール氏がプロデュースするレストランであり、ミシュランガイドでもニつ星を獲得し続けています。

2011年からエグゼクティブシェフを務めるのは赤坂洋介氏。ガニェール氏から絶大な信頼が寄せられており、オープン時から腕をふるっています。

この「ピエール・ガニェール」で2020年3月5日から5月20日にかけて、「キャビア特別コース」と題し、オシェトラとバエリという、2種類の最高級キャビアを用いた4皿が提供されているのです。

キャビアの種類

キャビアの種類を簡単に説明しましょう。

最大級のベルーガはオオチョウザメのキャビアで3.5ミリから4.0ミリ、比較的見かけられるオシェトラはロシアチョウザメのキャビアで2.5ミリから3.5ミリです。

ベステルは日本の養殖でポピュラーなベステルチョウザメのキャビアで2.5ミリから3ミリ、シベリアチョウザメのキャビアであるバエリも同じくらいで、小ぶりなセヴルーガはホシチョウザメのキャビアで1.2ミリから1.8ミリとなっています。

「キャビア特別コース」では大ぶりの2つのキャビアを食べ比べできるので、非常によい機会となるのではないでしょうか。

キャビア特別コース

コースは次のような構成となっています。

キャビア特別コース

  • 海藻の香るキスのクリスティアン リコッタチーズのクリーム オゼイユの新芽

オシェトラ キャビア

  • カラマンシーヴィネガーの香る緑と白アスパラガス サーモン / アローカナ卵のウッフモレ / シャンパンのジュレ

オシェトラ キャビア

  • 蕪のジェルでリエした帆立貝のサルピコンとムースリーヌ 毛蟹 グリンピースとオイスターリーフとともに

バエリ キャビア

  • 黒毛和牛フィレ肉のポワレ ライムの香るアオリ烏賊のラメル プランクトンパウダーを効かせたジャガイモのピューレとともに

バエリ キャビア

  • ピエール・ガニェール 特選デザート

最初の冷菜2皿にはオシェトラ キャビアが使われており、その後に続く温菜2皿にはバエリ キャビアが用いられています。

どの料理にもたっぷりとキャビアが使われており、全てを合わせると50グラムにもなるのです。高級食材であるキャビアは1瓶20グラムくらいから売られていることに鑑みれば、実に圧巻のボリューム。

シェフソムリエを務める矢田部匡且氏は「キャビアの繊細さは、上品なシャンパーニュとよく合う。キャビアを惜しげもなく使用したコースなので、シャンパーニュのワインペアリングもお勧めしたい」と述べます。

ドン ペリニヨン ロゼ ヴィンテージ 2006/著者撮影
ドン ペリニヨン ロゼ ヴィンテージ 2006/著者撮影

「ピエール・ガニェール」では「デュヴァル=ルロワ・ファム・ド・シャンパーニュ・グラン・クリュ」「ドン ペリニヨン ロゼ ヴィンテージ 2006」といった他ではなかなか飲めないプレステージシャンパーニュが取り揃えられているだけに、高品質なキャビアを用いた料理と非常に相性がよさそうです。

また、赤坂氏が「樽香の利いた白ワインも合いそうだ」というように、繊細な味わいと食感を有するキャビアは、白ワインを通しても楽しめるコースとなっています。

アミューズ

アミューズ/著者撮影
アミューズ/著者撮影

料理の前に出されるアミューズは「ピエール・ガニェール」らしく、一口サイズの料理がたくさん盛り合わされています。

ツイストされた3種類のスティックはグリッシーニで、オレンジ色はパプリカ、緑色はクロロフィル、黒色は竹炭。様々な色合いとフレーバーを楽しめるようになっています。

ターメリックのグジェールのフィリングはツナムース。オーツ麦のグラノーラの中にはアプリコット、周りにはアクセントで季節の梅。

サクサクのフィユタージュの上にはブリードモーのチーズとコリアンダーが載せられています。ヒヨコ豆のパニスはイワシムース、アラレをまぶしてサクサクに。

木匙にはトマトウォーターのジュレ、オリーブ、黒カワカジキマグロハム、小さなトマトが載せられており、一口でいただきます。

海藻の香るキスのクリスティアン リコッタチーズのクリーム オゼイユの新芽

海藻の香るキスのクリスティアン リコッタチーズのクリーム オゼイユの新芽/著者撮影
海藻の香るキスのクリスティアン リコッタチーズのクリーム オゼイユの新芽/著者撮影

キスとアオサノリをしっとりとしたベニエに仕上げました。ナイフとフォークを使っても、そのまま手に持って食べてもよいです。上には適度な酸味のリコッタチーズのクリームと、塩味がしっかりとしたオシェトラ キャビア。酸味のあるオゼイユの新芽をのせたところが、バランスの妙味といえます。

カラマンシーヴィネガーの香る緑と白アスパラガス サーモン / アローカナ卵のウッフモレ / シャンパンのジュレ

カラマンシーヴィネガーの香る緑と白アスパラガス サーモン / アローカナ卵のウッフモレ / シャンパンのジュレ/著者撮影
カラマンシーヴィネガーの香る緑と白アスパラガス サーモン / アローカナ卵のウッフモレ / シャンパンのジュレ/著者撮影

栃木産のグリーンアスパラガス、フランス・ロワール産のホワイトアスパラガスと、日仏の旬の素材を用いた冷菜。カラマンシーのヴィネガーがとてもフレッシュで爽やかです。世界で唯一、殻が青く、栄養価が高くて味わいの濃いチリ産のアローカナ卵をサーモンで巻いており、その上にオシェトラ キャビア。卵を用いたソース・サバイヨンは、海の卵であるキャビアとも、里の卵である鶏卵ともよく合います。卵を崩しながら食すのがよいでしょう。

蕪のジェルでリエした帆立貝のサルピコンとムースリーヌ 毛蟹 グリンピースとオイスターリーフとともに

蕪のジェルでリエした帆立貝のサルピコンとムースリーヌ 毛蟹 グリンピースとオイスターリーフとともに/著者撮影
蕪のジェルでリエした帆立貝のサルピコンとムースリーヌ 毛蟹 グリンピースとオイスターリーフとともに/著者撮影

最初の温菜は、刻んだ帆立貝とそのムース、ほぐした毛蟹が使われています。オイスターリーフは潮の風味があるので、魚介類との相性は抜群です。バエリ キャビアの上には、ニンニクの風味に似たロックチャイブのスプラウト。非常に優しい繊細な料理です。

黒毛和牛フィレ肉のポワレ ライムの香るアオリ烏賊のラメル プランクトンパウダーを効かせたジャガイモのピューレとともに

黒毛和牛フィレ肉のポワレ ライムの香るアオリ烏賊のラメル プランクトンパウダーを効かせたジャガイモのピューレとともに/著者撮影
黒毛和牛フィレ肉のポワレ ライムの香るアオリ烏賊のラメル プランクトンパウダーを効かせたジャガイモのピューレとともに/著者撮影

黒毛和牛フィレ肉をポワレして、上には薄切りしたアオリイカ、そしてバエリ キャビア。アオリイカが黒毛和牛とキャビアをつなぐ役割を果たしており、キャビアの塩味が黒毛和牛の旨味に深みを与えています。

ジャガイモのピューレには、海苔を餌にするプランクトンのパウダーが加えられているので、キャビアとの親和性も高いです。

ソースは牛の風味を凝縮したジュ・ド・ボー。通常ソースは肉の上にかけますが、この料理ではあえて周りにかけたり、肉の温度を少し低めにしたりと、繊細なキャビアにこまやかな配慮がなされています。

ピエール・ガニェール 特選デザート

ピエール・ガニェール 特選デザート/著者撮影
ピエール・ガニェール 特選デザート/著者撮影

複数のデザートが同時に提供される「ピエール・ガニェール」らしく、3皿が同時に運ばれてきます。

カクテルグラスのパルフェは下から順番にイチゴのジュレ、ミントフレーバーのメロンのグラニテ、ミントのサブレと、爽やかながらも複雑な味わいとテクスチャ。

リキュールのシャトルリューズを用いたグラッセにはココナッツロングをまぶし、バニラの風味を付けたアロエを配しています。さっぱりとしながらも品のある味わいです。

マダガスカルのサンビラーノ産カカオのガナッシュは、上にムースとディスクを重ね、削ったチョコレートを散らしています。カカオが持つ味わいのグラデーションを楽しめる一品。

普段あまり使わないキャビアを主役に

キャビアをここまで用いたフランス料理のコースは珍しいです。昨年初めて開催したところ、他にはない試みであったことから大変好評だったので、今年も開催される運びになったといいます。

では、どうして昨年開催されることになったのでしょうか。

赤坂氏は「季節に合わせて白トリュフ、黒トリュフ、オマール・ブルーをふんだんに用いた特別コース料理をご提供している。キャビアは普段あまり使わないが、こういった特別コース料理の主役にできる食材だと考え、新たにチャレンジするに至った」と述べます。

昨年のキャビアコースとの違いについては「前回はキャビアを強く主張した料理であったが、今回はキャビアが主張しながらも、他の食材とより協調しあえるようにした。2月上旬から考え始め、3週間後くらいに完成した」と説明。

最も苦労したのが魚料理

赤坂氏が特に苦労したというのが、7回もの試作を重ねたという3皿目の魚料理「蕪のジェルでリエした帆立貝のサルピコンとムースリーヌ 毛蟹 グリンピースとオイスターリーフとともに」です。

「クリーム系のソースやバターを使ったソースを試してみたが、キャビアが塩辛くなったり、生かしきれなかったりするように感じられたので、最終的にクリームを使わないようにした。海老は味わいが濃厚なので、帆立貝を用いたが、焼くと香りが強くなってしまうので、蕪のスープでゆっくりと加熱した」といいます。

「今回も前回と同じ作り手から、同じ種類のキャビアを仕入れており、養殖なので質・値段ともに安定している。普段はあまり使わない食材だけに、使うとなれば、その魅力をたっぷりと味わえるようにしたい」との思いから、大瓶ひとつに匹敵する50グラムもの分量を使用したということです。

美食への飽くなき追求

これだけ最先端のフランス料理を生み出す赤坂氏をもってして「キャビアはブリニに載せ、サワークリームやミモザと一緒に食べるようなシンプルな食べ方が一番おいしいのではないか」といわしめるほど、キャビアは扱いが難しい食材。

今年2020年3月19日でオープン10周年を迎えたANAインターコンチネンタルホテル東京「ピエール・ガニェール」は、創業以来様々なレストランガイドやアワードで評価されており、美食都市・東京において、ますます存在感を高めています。

そういった状況にあっても決して安住することはなく、キャビアという難しい食材をテーマに料理を紡ぎ出す赤坂氏は、これからもその美食への飽くなき追求をとどめることはないでしょう。