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林修氏が紹介した「食べログ3.7点の飲食店はコスパが悪い」は正しいか? 不透明なコスパ信仰への危惧

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

食べログ3.7点はコスパが悪い

みなさんは飲食店のコスパと聞いて何を思うでしょうか。

<林修「グルメ口コミサイトで★3.7前後の店はコスパが悪い」高得点がつく「味」以外の要因に迫る>という記事が配信されていました。

この記事で取り上げていることは次の通りです。

TBSで放送された「林先生が驚く 初耳学!」において 、林修氏が、堀江隆文氏の著書「グルメ多動力」をもとにして講義を展開しました。

「食べログ」のレビュアーは、お金を持っているが、あまり舌が肥えていないようだと述べ、そうであるからこそ、周囲から評価が高かったり、予約が困難であったりする飲食店に高得点を付けてしまうケースが多いと述べています。

「食べログ」で3.7点の飲食店はコスパが悪いという話を引用した後に、私も<最も行きたい「偽レストラン」は、きっと見破れない。事件を知るための5つの考察>で取り上げた偽レストラン問題について触れ、最後は人気漫画「ラーメン発見伝」の有名なセリフである「客はラーメンを食っているんじゃない。情報を食っているんだ」を黒板に書き、情報が人を惑わせているという言葉で締めくくりました。

コストパフォーマンスがよい飲食店

番組で述べていることを簡潔にまとめると、情報に踊らされ、本当は舌が肥えていない人々が、飲食店を評価しているので、コストパフォーマンスが悪い飲食店が評価されているということです。

舌が肥える

美食に精通しており、味の良し悪しが分るさま。美味なものを好むさま。

出典:weblio

本来の「舌が肥えている」は美食に精通していることを意味しますが、番組の文脈から判断すると、お金があって色々な一流の飲食店を食べ歩き、美食家を気取っていても、味が分からない人々を指摘しているようです。

飲食店を評価する際に、味が分かることは確かに重要なことでしょう。しかし、味が分かるというだけで、コストパフォーマンスがよいかどうかを判断できるとは、私は思いません。

なぜならば、飲食店のコストパフォーマンスを測るのは、それほど単純なことではないからです。私は、次の点が飲食店のコストパフォーマンスに関係が深いと考えています。

  • 先進性
  • ボリューム
  • スタッフ
  • 賃料
  • テーブルウェア

先進性

料理の価値は、単においしいだけではなく、先進性も非常に重要です。なぜならば、新しいことが行われている料理は、他では食べられない料理であるからです。他では食べられない料理は希少性が高い料理ということになります。そして、希少性の高い料理は高く評価されてしかるべき料理ではないでしょうか。

おいしいかどうかの判断は、個人の食体験に負うところが非常に大きいです。食体験の乏しい人であれば、フォアグラの脂に驚いたり、トリュフ(特に白トリュフ)の淫靡な香りに目眩しそうになったり、ジビエと甘いソースの組み合わせに違和感を抱いたりしてしまうでしょう。

純粋な味覚はその人の経験に左右されるので、おいしいと感じるかどうかは、かなり主観によります。

こういった状況で、その料理ジャンルをあまり食べたことがなく、知識もなかったりしたら、本当は先進性があり、他では食べられない料理であったとしても、その希少性を判断できないのではないでしょうか。

希少性がある料理は価値が高いので、高く評価されなければなりませんが、それができないとなれば、正しくコストパフォーマンスを判断することが難しいです。

単に味が分かるというだけではなく、その料理ジャンルの知識があり、時代の先端をいくような新しい試みを行っているかどうかも評価に加えなくてはならないと感じます。

ボリューム

飲食店の運営で最もコストがかかるのは食材費でしょう。一般的に食材費と人件費がそれぞれ売上の3割を占めるとされています。

従って、アラカルトやコースのボリュームも重要です。いくらおいしかったとしとも、一口サイズであれば、あまりコストパフォーマンスが高くありません。

ブランド食材を使っていたとしても、希少部位を使っていたとしても、使われているボリュームによって評価を変えなければならないでしょう。なぜならば、トリュフやフォアグラ、黒毛和牛やジビエ、キャビアやアワビなどの高級食材であれば、使う分量が少し違うだけで、要するコストはだいぶ変わるからです。

ただおいしいというだけではなく、どれくらいのボリュームがあるかもコストパフォーマンスに関係があるのです。

スタッフ

人件費も大きなコストなので、スタッフについても考えなければなりません。サービススタッフの人数によってもサービスの質が変わりますし、そのスタッフが社員なのかアルバイトなのかによってもコストは違ってきます。

同じサービススタッフであっても、ソムリエがいるかどうか、ソムリエが何人いるのかによっても人件費は異なります。さらには、日本酒に精通した利酒師もいるのか、ファインダイニングでもパティシエを置いているのか、チーズプロフェッショナルの資格を有している者がいるかどうかによっても、人件費は変わってきます。

キッチンスタッフについても同様です。例えば、町場の個店に関しては、オーナーシェフとアシスタントのキッチンスタッフという構成が多いですが、シェフが一人だけという場合もあります。

その場合には、客への提供時間が遅くなりますが、人件費が安くなるはずです。従って、同じくらいの質と値段の飲食店と比べれば、コストパフォーマンスは低いと判断されるべきではないでしょうか。

賃料

飲食店が入居している場所もコストパフォーマンスに関係しています。同じ東京都23区であっても、注目の施設の高層階に入居している場合と、駅から徒歩15分もあるような場所とでは、賃料は何十倍も違ってきたりするのです。

広さと席数も気にしなければなりません。ダイニングスペースの面積に対して、どれくらいの席数を設けているのかも重要です。席数が多ければ、より多くの客を入れられるので、値段を下げることができます。ウェイティングスペースが設けられていたり、トイレが2つ用意されていたりしても、当然のことながらコストはかかるでしょう。

住宅街の中にあってテーブル間隔がきつきつの飲食店が、食材にお金をかけられるのは当然なのです。

テーブルウェア

飲食店では、料理が映えるためにもテーブルウェアが重要です。しかし、テーブルウェアの価値を判断できる客は少ないので、消耗品であるテーブルウェにお金をかけようとしない飲食店もあります。

同じワインを同じ値段で提供していたとしても、1脚1万円以上の最高級ラインのワイングラスを使っている飲食店と、そこそこのブランドの耐久性抜群のスタンダードラインのワイングラスを使っている飲食店とでは、コストは違います。

プレートやカトラリに関しても同様です。消耗が少なく、最も印象的なものを用意しておくべきプレゼンテーションプレート(サービスプレート、ショープレート)でさえも、あまり冴えないプレートを使っている飲食店は、コストを削減しているといえます。

せっかく、ファインダイニングで食事をしているのであれば、あまり体験できないテーブルウェを利用して料理を楽しめる方が、コストパフォーマンスは高いのです。

有識者の出演

先日、Yahoo!ニュースのトピックスにも取り上げられた、以下の山本一郎氏の記事を読んで思うことがありました。

 必然的に、「何でも知っている池上彰による解説」を売りにする番組が正しく放送しようとするほど、その分野に精通している人たちは取材源として隠れた踏み台になる他ないという結論になりますし、番組の演出として「池上彰の意見として紹介させてほしい」という路線になることも不思議ではありません(池上氏は、番組で自身の見解を述べたことはないと反論していますが、おそらくは、番組スタッフやリサーチャーは番組のテーマや立場のトーンとして知見や見解を拝借したいという意味で有識者に取材していると思います)。

出典:池上彰さんの「取材源焼畑問題」について

番組の構成上、MCやパネラーに意見を述べさせたいのは理解できますが、たくさんの芸能人を雛壇に座らせておくのであれば、その情報元の有識者を呼んで実際に意見を述べてもらうのが最も説得力があります。そうすれば、様々な疑問にも答えてくれるので、余計に説得力が増すというものです。

しかし、テレビ番組の制作の場では、文化人はギャラが安いにもかかわらず、コントロールできるかどうか不明であったり、使い勝手が分からなかったりするので、できるだけタレントで回せるようにする傾向があります。

「林先生が驚く 初耳学!」の場合でも、林氏はほとんど引用しているばかりで、独自の主張を述べていません。それだけに、当の堀江氏をスタジオに呼んで、著書の真意がどこにあるのかを深掘りした方がよかったのではないでしょうか。

飲食店のコスト

<マツコ・デラックス氏がカフェで注文しない客を「もう終わりだこの国」と批判したことは正しいか?>などでも述べたように、飲食店のコストは料理にだけかかっているわけではありません。

客がその場所にいるだけでもコストがかかっているだけに、料理の味だけでコストパフォーマンスが語られてしまうことに危惧を覚えています。

例えば、立食で隣の席と触れ合うくらいのテーブル間隔であったり、サービススタッフがアルバイトだらけであったりすれば、食材費にたくさんコストをかけられるのは当然のことなので、皿の中だけしか見ていないのは片手落ちでしょう。

主観性の強い味による判断の是非

味は個人の体験や信念、嗜好や体調によって評価が変わるものであり、主観的な要素が強いです。ファインダイニングなど、それなりの食材を使ってそれなりの料理人が作ったものであれば、基本的にはおいしいものができあがるので、なおさら正確に評価することは非常に難しいです。

プロの料理人や生産者が評価してさえも、自身の信念や好みによって、料理の評価が全く異なることを、いくつもの料理コンクールの審査員を務めた経験を通して痛感しています。

それだけに、私は主観的な要素が強い味だけでコストパフォーマンスを語ることは、あまり説得力がないと考えているのです。これまでに挙げた要素も含めて考えなければ、その値段が妥当そうかどうかなど、判断できないのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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