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マツコ・デラックス氏がカフェで注文しない客を「もう終わりだこの国」と批判したことは正しいか?

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

カフェで注文

みなさんは、飲食店に入店する際に、必ず何かを注文しますか。

少し前に<マツコ カフェで注文せず居座る客は「論外」 擁護の意見に激怒「もう終わりだこの国」>という記事で、タレントのマツコ・デラックス氏の発言が取り上げられており、話題となりました。

番組のアンケートによると約3人に1人が「カフェで注文しないのはアリ」と回答しており、それに対するマツコ氏の反応が記事のタイトルにもなっています。

私は<飲食店で何も注文しなくてもよいのか? 考察するべき3つの点>でも同様のことを訴えたことがありますが、影響力の大きいマツコ・デラックス氏が声をあげたことで、改めてこの問題について触れたいと思います。

飲食店での注文

以前の記事では、以下を前提としていました。

  • 有料ドリンク注文を前提にした飲食店でドリンクを注文しない

何の法的問題はない

  • 数人で喫茶店に入り、1人だけ何も注文しない

注文義務はない

そしてここから、以下の点を考慮して話を展開していき、飲食店で1円も支払わずに滞在すること、ましてや水まで飲むことは、よくないことであると説明しました。

  • 実際にどうなっているか
  • どうしてドリンク注文が必要か
  • 注文しなければ飲食店は損をしないのか

今回の記事では、前回と重なるところもありますが、以下のように少し違った視点から話を展開したいと思います。

  • 空間の提供は価値
  • 奪い合う関係ではない
  • ルール作り

空間の提供は価値

店内にいるだけであれば、何も迷惑を掛けていないので、問題ないという考え方は正しくありません。ただ店内にいるだけといっても、飲食店は賃料を支払ってその場所を借りており、内装を手掛け、テーブルやイスも配し、空調も調整しているのです。

つまり、店内の空間にはしっかりとお金がかけられているのです。飲食店の主要なコストとして、賃料と光熱費が挙げられますが、まさにこの2つのコストが店内の空間を作り上げています。飲食店の経営は慈善活動ではなく、経済的活動であるだけに、店内にいるだけであっても、この2つへの対価は支払うべきでしょう。

無料で電源やWi-Fiが利用できるカフェもありますが、電源を使われたら電気代が発生しますし、Wi-Fiを使われたら他の客が利用する帯域が狭まってしまいます。もちろん、どちらとも飲食店にとっては直接的な損害となるでしょう。

冒頭で紹介した記事の中では「お店の雰囲気だけ楽しみたい人もいる」と回答するアンケートがあったといいますが、飲食店は店内の雰囲気を、お金をかけて作り上げているのです。

飲食店では目に見えるものや味わえるもの、さらには、食べ物や飲み物に価値が置かれがちですが、食べたり飲んだりできない、こういった空間も価値となります。そして、この価値は無償で分け与えられるものではないことを、理解しておく必要があるでしょう。

奪い合う関係ではない

アンケートでは「お店の雰囲気だけ楽しみたい人もいる」以外に、「注文したいものがないなら仕方ない」という回答もありました。

先に述べたように、飲食店は空間を提供するだけでコストがかかっていることを前提にすると、注文したいものがないから空間を無料で利用できると考えるのは非常に図々しいことではないでしょうか。注文したいものがなければ、その空間を利用できないと考えるのが普通の感覚です。

そのように感じないのは、飲食店が得するか、客が得するか、お互いが奪い合うような関係であるかのように考えているからではないでしょうか。

注文したいものがなくても何かを注文して飲食店に儲けてもらえれば、その分だけ客にも返ってくるものです。もしも、注文しない客が増えると、飲食店はお金を支払ってくれる客が入る機会を損失し、売上や利益が減ってしまいます。そうなると、より値段を高くしたり食材の質を落としたりするものです。

客が対価をしっかりと支払うことによって飲食店が儲かり、その結果、飲食店はよりよい食材を使ったり、よりサービスを拡充させたりします。

一昔前までは、レストランのソムリエを育てるためもあって、そのレストランを贔屓にしている客が高いワインをボトルで開けてわざと残すと言われたものですが、今ではテレビでも雑誌でもウェブ記事でもコストパフォーマンスが最重要視されているので、このような持ちつ持たれつという関係は希薄になっているように思います。

ルール作り

ノーショーはドタキャンなど、飲食店の問題で私はよく述べていますが、客の不誠実な態度に対して飲食店にもできることがあります。飲食店は、明確なルールを設けることによって、飲食店に損害を与えるような客を淘汰できるのです。

例えばカフェであれば、ほとんどのところで1人1ドリンクがルールとなっており、居酒屋であれば、1人1品注文する必要があり、ファインダイニングでは年齢を問わず、コースを注文しなければなりません。

飲食店は図々しい客から損害を被らないようにするため、最低限のルールやポリシーを設けて明示しておき、毅然とした態度で客に応対するべきです。そうすることによって飲食店が営利団体であることが改めて示され、このような不毛な議論も起きないと思うのです。

伝えていくことが必要

飲食店、特にカフェやコーヒーハウス、それもセルフサービスであればあるほど、今回のように、注文しなくてもよいという考え方をしている人がいます。普段はあまり利用しない私でも、セルフサービスのカフェで、何も注文せずに居座り、しかも、電源まで我が物顔で使っている人を何度か確認したことがあるほどです。

影響力のあるマツコ氏のような方が、このような行為が普通ではないとはっきりと述べたり、飲食店が改めてルールを明確化したり、飲食店を専門とするジャーナリストやライターが、皿の上に載せられている食べ物やグラスの中にある飲み物以外にもコストがかかっていることを何度も説明することが重要であると私は考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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